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出会い

 風に前髪を遊ばれて、セテガンは顔を上げた。

背後にある窓を確認してみるもしっかりと閉まっていて首を傾げる。


「私に触れている時によそ見はお止め」


 手元で聞こえた声に慌てて視線を戻す。持っている乳鉢の横、乳鉢の縁にある模様と同じ柄の着物を着た女性が揶揄うようにセテガンを見ていた。


「ごめんなさい。風が気になって」

「風?クンロウ、悪戯でもしたのかい?」


自身の手のひらほどの女性に向けてセテガンは謝る。セテガンの言葉が気になったのか、女性は棚に収められた香炉に向けて声をかけた。


「流石にトウスさんに触っている時はやらない。後が怖すぎる」


 クンロウと呼ばれた者は冤罪はごめんだと香炉の灰の中から出てきて真顔で否定する。その様子に女性、トウスは少し目を細めたが、納得したかのようにゆっくりと瞬きをした。

 クンロウが言葉を続けようとした時、髪に付いていた灰が風に乗って香炉の中に落ちた。風はそのまま灰の表面を整えるように流れてゆく。


「客人か。セテガン、出迎えを」

「はい?キャクジン?」


 トウスは納得顔でセテガンに告げるが、セテガンには意味が分からない。呆けたようにトウスを見つめ返した。


「ほら早く。待たせるものではないよ」

「ちょっと待って。何をすればいいの?」

「玄関を開けて出迎えな」

「だからどうやって!?」

「いらっしゃいでも、おいでませでも、お入りくださいでも変わりはしないよ。声をかければ通じるさ」

「誰に!?」

「来てるお方にだよ。失礼のないようにね」


 トウスに急かされ、手に持っていた乳棒から手を離す。乳鉢の中を回った音を聞きながら玄関に向かう。

後ろでトウスが丁寧に扱えと文句を言っているが返事をする余裕はない。

 玄関の取手を持ち少し躊躇う。この先に誰かが居るなど想像が出来なかった。それでもトウスが言うならと、緊張しながらも扉を開ける。


「え、ええっと。いらっしゃい?」

「初めてまして。セテガン=セムブラン。私はエナン・ワルカの一人、風のギンナ。ねえ、セテガン。私と英雄になりませんか?」


 不恰好に語尾が上がった言葉に返ってきたのは柔らかな声だった。玄関の少し先、服の裾を軽く持ち上げ膝を折るように挨拶をする人をセテガンは知らない。

 肩までの髪が踊るように風に揺られているのが不思議なほどに目を奪われた。

 

「セテガン?」


 自分の名前を呼ばれて、セテガンは静かに扉を閉めた。


「いや、誰?」

「ギンナと名乗っておったろうに。エナン・ワルカにその態度。強者か」


 いつのまにか腕に乗っていたトウスがため息を吐きながら言う。


「トウス。エナン・ワルカって…」

「私らピキの頂点に立つ方々。原初のお方等。この世界の調整役」

「本物?」

「あんな気配、他に居るとも思えまい」


 トウスの言葉に取手を握っている手に力が籠る。もう一度この扉を開ける勇気が出ない。

 一体なぜ?自分に用事?英雄って?

 疑問ばかりが頭を巡り、体の動きを止める。


「申し訳ありませぬ。世間知らずなもので」

「知っているよ。急に来た此方に非があるから。気にしないで」


 突然のトウスの謝罪に知らない声で返答があった。先程聞いた柔らかな声。それがすぐ側で聞こえる。反射で声のする方向を見れば、扉の向こうに居るはずのギンナが笑顔を浮かべてそこにいた。


「驚かせましたね。セテガン、どうか私の話を聞いてください」


 驚きに逃げる身体の、遅れた手を両手で包まれる。簡単に引き抜けるほどのほとんど力の入っていない接触と、耳に馴染む声に心が凪いでいくのが分かる。

それを不思議に思うのに、もう一度名前を呼ばれると安心さえしてしまって。

 ぎこちなくもしっかりと頷いたセテガンを見て、ギンナはありがとうと歌うように礼を言った。




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