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最低賃金魔王 ~歴代最強の魔王軍、その足を引っ張るのがお仕事です~  作者: 安泰
第六章:激闘。

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旧神の使者。その四

 突然魔界に現れた人間の刺客……イミュリエールの例もあり念のためにと慎重に彼女を先行させたのは正解だった。

 まさか彼女の剣技に匹敵する槍使いだとは、初見での対応ができずにクアリィや俺まで危うかったかもしれない。

 クアリィとも情報共有は既に済み、ここは丁寧に対応をする。


『レッサ、言うまでもないけど技に頼っちゃダメよ』

『ああ、余波で戦うつもりでいく』


 軽い再確認の後、両手に大きな炎を纏わせ距離を詰める。

 イミュリエールの神技と同等の魔力強化を使えるのなら、俺があの男を肉弾戦で倒すことは難しいだろう。

 けれどそれは物理的な直撃での話。俺は拳ではなく熱で敵を焼く。

 間合いも距離も無視して拳を振るうと、こちらの意図を見抜いたフォリオムは大袈裟に回避行動をとる。


「当てる気すらなしか。潔いな」

「炎や熱は俺の一部だ。そういう意味では当たっている」

「なるほど。人外と戦っているって実感できるな」


 それでもフォリオムには確かにダメージが入っている。

 服は焦げ、肉体が赤くなっている。

 奴の体には鉄を溶かす程度の熱が伝わっている。

 魔力強化で多少の耐性は得たとしても、純粋な熱耐性を持たぬ以上は防ぎきることは難しいだろう。

 とは言え決定打にするには熱が足りない。奴を倒すには俺の特異性を本気で解放する必要があるだろう。

 ただここで本気を出せばルーダフィン達を巻き込むどころか、風族の街も飲み込まれることになる。

 凡その避難は済ませているだろうが、生存者もいるかもしれない状況ではその選択は最後に回したい。

 もっとも、それは俺が一人の場合によるのだが。


「――孤高の杖よ」

「……っ」


 クアリスィが格納紋を起動し、彼女のとっておきを取り出す。

 彼女は言っていた。あれを使う時は水族領主クアリスィ=ウォリュートではなく、先代魔王オウティシア=リカオスの生徒として戦う時だと。

 既に脅威を察したのか、フォリオムの視線がクアリィの握る杖へと注がれている。

 だが寄らせるつもりはない。既にこちらの牽制で距離は十分に取らせた。


「勘は良いようだな」

「面白味のねー女かと思ったら、面白いモン持ってんじゃねぇか」

「貴方の見立て通り、ユーモアのセンスはないわよ。『絶氷の獄壁』」


 周囲を囲うように、巨大な氷の壁が聳え立つ。

 氷壁は頭上を覆うように伸び続け、俺とフォリオムは中に閉じ込められる形となった。

 こちらの狙いを察したフォリオムは即座に壁へと跳躍し槍の一撃を放つが、槍は壁に亀裂一つ入れることもできずに弾かれる。


「……っ、ただの氷じゃねぇな!?」


 彼女の持つ『孤高の杖』は所有者の特異性を無力化してしまう欠点を持つ杖。

 だが他の『孤高』の名を持つ武器と違う点が一つあり、魔法の使用だけは制限されていない。

 それは孤高の杖が文字通り魔法を扱うことに特化した性能を持つからに他ならない。

 今彼女が使用したのはただの魔法ではない。俺の特異性の熱ですら解けぬ水魔法の極致の一つ。

 孤高の杖は記録の鍵。かつての所有者達が使用していた魔法を己がものとして扱うことができる。

 それこそ魔王達のみが扱うとされた、神の領域に足を踏み込む『神域魔法』ですらも。


『一分よ、レッサ。それ以上は展開できないわ』


 神域魔法を使えるとはいえ、その負担を軽減されているわけではない。

 神技と同じく扱うだけで取り返しのつかない代償を払うほどのものもある。

 この『絶氷の獄壁』は消費が尋常ではなくクアリスィ程の魔力を持つ者でさえ長くは展開できない。

 だがこの氷壁ならば、俺の本気にすら耐えうることができる。


「承知した。『参列せよ、我が導くは灰燼の道』ッ!」


 本気の特異性の解放を行う。

 肉体は炎に、魂は熱に、大地を溶かし、空気を燃やす。

 フォリオムを纏う魔力ごと焼き払い、炎の腕を振るう。

 受けられる攻撃ではないと判断し、距離を取ろうとするフォリオム。


「逃げ場無くして炙り焼きが狙いかッ!」

「炙られる程度で済むと思うな……ッ!」

「うおっ!?」


 だが既にこの体は炎と化している。腕の間合いなど、気の持ちようで如何様にも変化する。

 掌をフォリオムの体よりも大きくし、その体を掴み取る。

 焼け焦げる臭いと音が聞こえてくる。

 並の人間ならば触れた時点で炭となりうる熱量、流石は神技と同等の魔力強化だ。


「オオオオォッ!」

「暑苦しいっての!」


 炎の腕の中から俺のコアを狙った鋭い蹴りが飛び出してくる。

 全力で熱を放出している以上、イミュリエール並の戦士ならば位置の特定は容易だろう。

 だが負傷覚悟でのコア狙いはこちらも読んでいる。

 奴の体は俺の炎によって包まれているゆえに、起こりを隠そうとも何をしているかは文字通り手に取るようにわかる。

 コアと奴の足に纏わりついている炎を軸に肉体を再構成。

 コアを自らの手で掴み、奴の蹴りから遠ざけつつもう片方の手でその足を掴む。


「狙う場所なぞここしかないだろうからな」

「いいや、もう一つあるさ」


 奴の足を掴んでいた腕が突如引っ張られる。

 再構成した腕には当然俺の魔力が満たされており、それを魔力操作で掴んで引き寄せようとしているのか。

 狙いは俺の魔力を引っかかりとしての、己の体の引き寄せか。

 腕を伸ばしコアへの接近を阻止して――


「そのまま意識してろよ」

「――ッ!?」


 フォリオムの足を掴んでいた俺の腕が爆ぜた。

 流れ込む衝撃が炎の体を伝ってくる。

 その状況を把握するよりも早く、本能が奴との距離を取った。


「カ……ク……ッ!」

「闘士の誇りが足を引っ張ったな、二重の意味で」


 今受けたのは魔法による攻撃と同等の一撃。

 俺に掴まれた足を起点に魔力を一気に流し込み、衝撃をコアにまで届かせてきた。

 致命傷というわけではないが、コアにそれなりの一撃を受けてしまった。

 奴の言う通り、コアを遠ざけるだけに専念し反撃を狙うべきではなかったのだろう。


「……決めきれぬか」


 フォリオムの全身には火傷こそあるが五体満足の状態だ。

 クアリィの魔力限界まで特異性を解放していたとして、仕留めるには至らないだろう。

 体を再構成し、元の姿へと戻る。魔法を発動し、音を周囲へと鳴り響かせる。

 これもクアリィとの取り決め。彼女に設けられた制限時間以内に仕留めきれないと判断した場合、次の手を打つために『絶氷の獄壁』を早めに解除してもらう。

 氷壁が一瞬で氷解し、発生した水が空間内の余熱により一気に蒸発していく。


「レッサ!無事!?」

「ああ、軽く反撃を貰った程度だ。すまない、武器一本が限界だった」


 成果があるとすれば、武器の破壊に成功したことくらいだ。

 フォリオムが足技に専念した際に奴の槍に施されていた魔力強化が弱まり、槍は音もたてずに融解していた。

 とはいえ奴の体術のレベルは俺と同等以上。俺が奴を倒せる可能性は未だに低い。


「……処分市で買った中じゃ、マシな一品だったんだがな」

「上出来よ。このまま畳みかけるわよ。他の連中ももう少し踏ん張りなさい」

「ああ!」


 だがそれは一対一での話。負傷状態とはいえ、ここには合わせて五人の領主クラスがいる。

 俺やクアリィにはまだまだ余力はあるし、イミュリエール達にも体勢を整えるだけの時間は確保でき――


「……あー、どうやらこっちも時間切れみたいだわ」

「何を……ッ!?皆!上に防御!」


 イミュリエールの叫びと同時に頭上を見る。そこには何者かが浮いており、明確な殺意を以て我々を見下ろしていた。


「――絶技、『天羅万領(てんらばんりょう)』」


 響き渡る謎の声と共に世界が塗り替わる。それは光の雨だった。我々の視界を埋め尽くさんと無数の光の矢が空から降り注いでくる。

 炎の壁を展開するも、その光の矢は炎を容易く貫き俺の体へと次々と突き刺さる。

 俺程度では防御の専念は無意味。被弾を受け入れ僅かにある隙間にコアを滑らせながら致命傷を避け続ける。


「グウゥ……ッ!」


 三秒、四秒、五秒……その攻撃は止むことなく降り注ぎ続け、周囲の様子を確認することすらできない。

 矢の一つ一つが全身へと衝撃を与える魔法付与の一撃、それでも全身を炎化させ耐え忍ぶ以外に手段がない。

 光の矢が全て地上に吸われ、周囲が見渡せるようになったのは十五秒が経過した後のことだった。

 地面には無数の穴が開き、視界に移る景色が先ほどとは全くと言っていいほどに変わっていた。


「……ッ、クアリィ!無事かっ!?」

「こっちの台詞!生きていてくれて感謝よ!」


 コアこそ守り抜いたが、その間ほぼ無防備な状態で全身に負傷を負い続けてしまった。

 最初に無事が確認できたのはクアリィ。彼女は孤高の杖を手放し、『留意せよ、汝の刃は我が刃』を発動していた。

 空から降り注ぐ自分への攻撃を全て再現、対消滅させることが間に合ったようだ。

 すぐそばにいたイミュリエールも彼女の体に抱き着くことで、被弾を避けていた。

 だがそうなると残りの二人は――


「ゴアガイム……ッ!」


 ルーダフィンにも何発が突き刺さってはいたようだが、比較的無事だった。

 彼に降り注いだ光の矢の大半は、彼の体を包み込むように覆いかぶさっていたゴアガイムが受け止めていた。

 全身を硬質化した鉱石で覆い、自身にも魔力強化による防御態勢を取っていたのだろう。

 だが貫通こそ防げていたものの、背中側には無数の穴が開いており全身の体積の三割近くは抉り取られていた。


「平気……ダ……」

「なんだ、まだ全員生きているのか。しぶとい連中だな」


 空に浮いていたのはローブを羽織った人間の女、その手には奇妙な形の弓が握られている。

 その威圧感はフォリオムと同等、あの女も人間界における傑物級の一人なのだろう。


「旧神の弓使い……っ!」

「おい、ヘムアータ!目がチカチカしただろ!もうちょっと地味に打てねぇのかよ!?」

「やかましい!お前のせいでこんな場所まで足を運ばされたんだがっ!?折角購入した姉様への土産が魔界の空気で傷んだらどうしてくれるつもりだっ!?」


 フォリオムはヘムアータと呼んだ女の真下におり、先ほどの攻撃には巻き込まれていなかったようだ。

 二人の会話からして、両者は知り合い……同じ派閥に属する者だと判断できる。

 状況は芳しくない。突如として現れた援軍の奇襲でゴアガイムと俺は一気に消耗させられてしまった。


「弁償すりゃ良いんだろ。ま、土産ならここにもある。ここにいる領主、四体仕留めて帰ろうぜ?」

「たわけたことを抜かすな、もう既に他の領主が近くにいるが?」

「げ」

「それにあと四匹、遠くにいる領主達もこちらに向かおうとしている。集合されたら殺す以外に選択肢が無くなるが?」

「げげ。そうなると流石にやり過ぎになるか……」


 平然と状況を踏まえた会話をしているが、既にこの場に他の領主が……?

 いや、それよりも他の領主達がこの場に向かおうとしていることすらなぜ把握できている……!?

 あの女……先ほどの攻撃といい、近接戦の技巧に特化したフォリオムとは違うにせよ逸脱した何かを持っているのは間違いない。

 俺一人での判断には限界があるため、念話でクアリィに確認を行う。


『クアリィ、あの女について何か分かったことはあるか?』

『貴方からは聞きたくないセリフね……。さっきの攻撃、私の特異性で再現したおかげでその特徴はある程度分析できているのだけれど……ちょっと信じがたいのよね』

『何が信じがたい?』

『出力自体はゴアガイムやルーダフィンの特異性より少し高い程度。問題は射程……アレは空の上(・・・)から降り注いでいるわ』

『空の……上?』

『ええ。雲よりもさらに上、空気すら存在しない領域からの狙撃よ』

『……矢を一度空に向けてから放っているということか?』

『概念的にはそうね。でも勘違いしないで。あの女の攻撃はまだその場所に残っている。矢はまだ放たれたままよ』


 つまりヘムアータは直接弓から攻撃を放つだけではなく、俺達の干渉できない超高所に光の矢を降り注がせる何かを設置している……?

 実感はわかないが、今のところはクアリィの分析を信じる他にない。


「私としてはあの全裸とお前さえ殺せれば十分だが」

「俺は良くないんだよなぁ。お前とも戦いたくはあるが、他にも殺し合いたい奴はいるわけだし……仕方ない。引いておくか」

「引いておくかじゃない。引け馬鹿」


 がっくりと項垂れるフォリオム。

 ここで奴らに逃げられないように戦うこともできなくはないが、それはクアリィとイミュリエールに大きな負担を強いることになる。

 ここは大人しく撤退してもらうしかないのか……。


「ただ、手土産なしはちょっとな」

「――ッ!?」


 フォリオムから殺気が滲んだのを感じ取った時、それに奴の魔力が混ざっていることに気付いた。

 しかしその意味を理解した時にはもう、フォリオムは元居た場所にはおらず――


「一人貰っていく」

「……ガ……ァ……」


 次にフォリオムを視界に捉えられたのは、奴がゴアガイムの背中の傷口から砕けたコアを抜き取っている瞬間だった。

 迂闊だった。奴は俺の炎を吹き飛ばすほどの魔力を瞬間的に放出できた。

 ならば奴の絶技の範囲もまた瞬間的に広げることができるということ。


「ゴアガ……」

「ついでにもう一人と行きたいが――」

「オ、オオ、オオオオオオッ!」

「その意気に免じてお前だけで済ませてやるよ」


 コアを抜き取られたゴアガイムは迷うことなくフォリオムへと飛び掛かる。

 フォリオムを倒す為ではない。すぐそばにいて彼の死を悟り硬直してしまったルーダフィンを奴から守る為に。

 フォリオムもその動きを察したのか、再び距離をとりヘムアータの足元へと移動した。

 行き先を失ったゴアガイムはその場に倒れ、動かなくなった。


「一人だけ手柄を確保してからに、人の苦労を何だと思っている」

「お前の手伝いもあったって報告はしてやるよ。土産話にはなるだろ」

「はぁ……まあ獲物の程度は確認できた。それで妥協しておいてやる。いくぞ」


 ヘムアータが長いロープを垂らすと、フォリオムはそれに掴まる。

 そしてそのままヘムアータが飛行して移動を始めると、フォリオムの体は一緒に浮かび上がっていった。



イクスタシスの守人、ヘムアータ。

変態共を忘れようと数日かけて姉へのお土産を厳選、いざイクスタシスに帰ろうとした矢先にフォリオムが単身で魔界に行ったことを知らされる。

「知るか」と無視しようとしたところ、ケッコナウから事情を聞かされていた姉から「迎えに行ってあげて」とお願いされてしまった。とりあえず魔界に向かう最中に3回は吠えている。


絶技の詳細は不明。とりあえず宇宙からのオート狙撃ができるとだけ。

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― 新着の感想 ―
魔族の総力を結集してコイツら討ち取らないと 魔族の方が滅ぶんじゃねーの?
えっ、女神様も実はお師匠にだまくらかされてる…???(汗)
コレ把握できてないよね、女神さま?? じゃなきゃ圧倒的なんて言葉出ないでしょ、流石に
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