第2話 おっさん教師、「ざまぁ」する
ヴィルシーナ冒険者学校。
そこは、完全な実力主義の学校だ。
学部は魔法使い、剣士、弓使いに盗賊など、パーティを組んだ時の役割ごとに細分化されている。
そして、学部ごとの順位が高い者から優秀な冒険者としてランクの高いパーティからオファーがくる。
反対に、落ちこぼれの生徒は他の生徒の競争心を煽る道具のように消費されていく。
俺はどの学科でも落ちこぼれで、よく同級生たちの前で晒し物にされては嗤われてきた。
不真面目だったわけじゃない、俺なりに努力していた……つもりだった。
諦めの悪い俺は『全ての学部』を転々としながら何とか卒業はできたものの、どの冒険者パーティからもオファーがこなくて、冒険者になる事が出来なかった。
成績が悪い生徒は大抵退学にさせられるか、自分から学校を辞めていく。
だから、俺みたいに卒業までして冒険者になれない生徒は初めてだったらしい。
才能がないのに冒険者に憧れて、惨めにあがき続ける俺の姿を周囲の生徒はこんな風にいつも嗤っていたのだ。
「あはは、みんなも相変わらず元気そうで何より……」
俺が何とか再会の言葉を絞り出すと、今やAランクパーティー『アマルフィ』のリーダーを務めているロードルが無遠慮に俺の肩に腕を回して笑う。
「いつもはお前みてぇな奴は誘わねぇんだけど話のネタになると思ってよ。感謝しろよな~」
「ちぇー、俺は来ないと思ってたのになー。よくこの場所に顔なんか出せたもんだぜ」
そう言って、同級生の1人が隣の奴に金を手渡す。
どうやら、俺が来るかどうか賭けをしていたらしい。
「あ、ありがとう。あはは……みんな立派な冒険者になってて羨ましいよ」
「ったりめーだろ。才能がないお前とは違って俺たちはちゃんとした名門ヴィルシーナ冒険者学校の卒業生だからな」
「俺も一応卒業生なんだけど……」
「あぁ、そういやそうだったな!」
ロードルがそう言うと、周囲の同級生たちは一斉に笑った。
「そういや、ダリアって今は何してんの?」
「ヴィルシーナの教師だよ。正式な教師じゃなくて非常勤なんだけど……」
「非常勤ってアルバイトみたいなこと?」
「おいおい、たまにとはいえお前なんかに教えられる生徒が可哀そうだな」
「逆にダリアの方が生徒に教えられたりして!」
「あはは、俺も教えられることの方が多いよ……本当に優秀な生徒ばかりで」
「そうだろうな! なんたって、落ちこぼれのダリアなんだからよ!」
「おいおい、お前ら。ダリアを馬鹿にするなよ、俺はダリアは教師に向いてると思うぜ」
そう言って酒瓶を手に出てきたのはAランクパーティ『オーシャンズ』に所属している凄腕の剣士、ベルゴアだ。
一口酒を煽ると、俺の頭に手を乗せる。
「――お前は『身の程』というモノを学んだだろ? 才能の無い奴はいくら努力しようが冒険者になれねぇ。それを生徒に教えてやれるのはお前だけだ」
そう言うと、周囲はまたゲラゲラと笑った。
(……残念ながら、俺はそんなコトは生徒に教えてない)
俺には無理でも、俺の生徒たちは違う。
俺の生徒たちは、『才能』だ何てモノには負けずに何にだってなれる……俺はそう信じている。
そんな風に思いながら愛想笑いを浮かべていると、お店のドアが勢いよく開かれた。
「おい、お前ら! 先生をバカにするな!」
そこに居たのは、仁王立ちで腕を組むルマイラ。
――そして、その背後で額に手を当ててため息を吐いているアルカだった。
「ルマイラ、様子を見るだけだって言ったのは貴方でしょ?」
「だ、だって先生がバカにされてるから我慢できなくて……」
「2人とも、どうしてここに!?」
俺が驚くと、アルカはツカツカと俺の前にまで歩いてきて俺の腕を掴んだ。
「偶然です。ですが、こんな所にいる必要はもうありませんよ。先生、私たちと帰りましょう」
「そ、そうだよ! 先生、帰ろう!」
俺のもう片方の腕をルマイラが抱き寄せる。
そんな様子を見て、店内の俺の同級生達がドッと笑った。
「おいおい、生徒に慰められてるぜ!」
「本当に『先生』なんて呼ばれてよ、ダリアがどんだけ無能か知らねぇのかよ!」
「未熟な生徒相手に教師ヅラしてりゃ訳ねえな!」
「はっ、テメーらもどうせダリアと同じように落ちこぼれの生徒なんだろ」
ヴィルシーナ学園の首席生徒2人を相手に的はずれな指摘をする俺の同級生たち。
なんで2人がここに来てしまったのかは分からないけど、俺と一緒に居ると2人まで傷つけられてしまう。
2人を連れて、早くこの場を去った方が良さそうだ。
「わ、分かった。帰ろう。そういう訳だから、俺は先に失礼するよ。生徒達を寮に送らないと」
俺が2人に両腕を取られながら店を出ようとすると、後ろから肩を掴まれて声をかけられる。
「おいおい、待てよ。そいつら2人ともツラはかなりイケてるじゃねぇか」
「黒髪の方はスタイルも最高だぜ」
そして、男性冒険者たちからの下衆びた視線が2人に向けられた。
アルカは人を殺しそうな表情を、ルマイラは不快そうな表情で俺の腕をギュッと握る。
「どうだ、2人とも? そんなダセェ男なんかよりもここにはAランクの冒険者がいるぜ? 俺たちが夜通し丁寧に冒険者としての心構えを――」
「――2人は俺の大切な生徒なんだ、やめてくれ」
俺はそう言って、肩にのせられた手を払う。
「「先生……!」」
「はっ、生徒の前だからって何カッコつけてるんだよ!」
「……アルカ、『合成魔法』を見せてあげるよ」
両手を合わせると、俺は一言だけ魔法を詠唱をする。
才能の無い俺は同級生達よりも持っている魔力が低かった。
さらに、俺はどの魔法属性にも素質が無かった。
『才能』だなんて一言では諦めきれずに、俺は様々な属性の魔法を努力で覚えていった。
しかし、どれも素質を持つ生徒たちには及ばない。
――だから俺は作ることにしたんだ、『新しい魔法』を。
合わせた両手のひらで、"炎の魔法"に"水の魔法"と"幻惑の魔法"を折り込み、合成した。
誰も知らない、俺だけのオリジナル魔法を発動する。
「【幻惑の霧】!」
ポンッという小さな破裂音共に店内を一瞬で深い霧で包み込んだ。
「なんだ!? 急に霧が! 何も見えねぇ!」
「知らねぇぞ、こんな魔法……!」
「おい、ここには優秀な魔法使いが居るだろ? さっさと解除しろ!」
「やってるが、意味が分からねぇんだ! 属性がぐちゃぐちゃに混ざり合った変な魔法で……!」
「チッ、落ちこぼれはまともに魔法を編むこともできねぇのかよ……!」
「――今のうちにアルカ、ルマイラ、ここを出よう」
「は、はい!」
「うん!」
周囲が混乱している間に俺は2人を連れて店外へと逃げる。
そして、しばらく3人で走ると学園寮の傍で息を整えた。
「上手く逃げられて良かった」
「あんな奴ら、先生のお力で倒してしまえば良かったではありませんか!」
「そうだよ! 先生ならよゆーだって!」
「無理だよ、あの場所にいたのは全員現役バリバリの冒険者。それも、凄腕のA級冒険者までいる」
「それでも! 先生なら――」
「――それより、2人が酷いことをされなくて良かった。俺にとっては、アイツらとの勝ち負けよりもそっちの方が大事なんだ」
俺がそう言うと、アルカとルマイラは顔を赤らめる。
「――っ! ひ、卑怯ですよ……そんなこと言われたら何も言えないじゃないですか」
「僕も、先生がバカにされた時は凄く腹が立ったけど……今は守ってくれた嬉しさで胸がいっぱいだ……」
どうやら溜飲を下げてくれた様子の2人に向き合うと、俺はため息を吐く。
「それはそれとして、2人とも。こんな時間に学校寮を抜け出してどうして俺をつけてたの?」
「そ、それはっ! ルマイラが!」
「えっ!? アルカが言い出したんだろ!?」
言い争いが始まってしまった。
きっと、2人とも俺を心配してくれたんだろう。
生徒に心配される教師だなんて、情けない限りだけど……心配された通りの結果になってしまったみたいだし、これは俺の責任だろう。
優等生2人の微笑ましい喧嘩を見ながら、俺はため息を吐いた。
「分かった分かった、バレないように2人とも学生寮に帰してあげるから。これからは校則を破らないようにね」
「「はーい」」
心の中で、俺は2人にはこっそりと感謝していた。
ちょっとした仕返しもできたし、2人のお陰で少しだけ楽しい思い出に塗り替えることができたから。




