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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@ようあま2巻&霜月さんはモブが好き1~5巻


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第二百六十五話 彼がお兄ちゃんにはなれなかった理由

 ――朝。体育祭が終わった後、初めての登校日。

 週末を挟んだおかげで、筋肉痛はかなり改善していた。普段はあまり動かないこともあって、体育祭の疲労は思っていたよりも強く残っており、この土日は泥のように眠ったものの……そのおかげですっかり元気である。これが若さだろうか。年齢を重ねると、この回復力を懐かしく思う日も来るのだろうなと考えつつ登校の準備をして、家を出た。


 季節は秋の真っ只中。そろそろ冬の到来を感じさせる気温である……寒がりな生徒はもう上着を用意するころだろう。俺もそろそろかもしれない。


 とかなんとか。考えながら歩いていた、その途中。

 ふと、見覚えのある車が音もなくスーッと隣に停車した。


 黒塗りの高級車である。

 こんなに高そうな車を所有している知人を、俺は二人しか知らない。


 もちろん、扉から降りてきたのは……星宮姉妹、かと思いきや。


「おはようございます、陽平くん」


 ぺこりとかわいらしく挨拶してくれたのは、姉妹の妹ちゃんこと星宮ひめだった。遅れて聖さんが降りてくるのかと思っていたが……しかし、姉の聖さんは一向に姿を現さなかった。


「おはよう、ひめ。聖さんは?」


「お姉ちゃんは学校をお休みするそうですよ」


「え。か、風邪とか?」


「いいえ。筋肉痛で体が動かないそうです」


「……なるほど」


 うーむ。若さとは何だろうか。

 同級生の俺はすっかり元気になっているが、聖さんは未だに筋肉痛に呻いているらしい。

 と、ひめと話していたら、停車していた車がゆっくりと動き出した。顔を上げると運転席の芽衣さんと目が合ったので、軽く会釈すると、彼女も会釈してそのまま走り去っていった。


 一言、挨拶しようと思っていたのだが……急いでいるのだろうか。


「そういうわけなので、芽衣さんは直帰してお姉ちゃんの看病があるそうですよ」


「筋肉痛の看病って、何をするんだろう」


「湿布とか、マッサージとか、でしょうか」


 まぁ、芽衣さんもなんだかんだ聖さんのことを気にかけているのだろう。

 聖さんのことは、凄腕のメイドさんにお任せすれば問題ないか。その点では安心だ。


「ちなみに、ひめはどう? 疲労とか残ってない?」


「わたしはこの通り、元気いっぱいです。お姉ちゃんより若いので」


 若いというか、幼いというか。

 とにかく、ひめもちゃんと回復したみたいで良かった。


「陽平くんはどうですか?」


「俺も元気だよ。若さのおかげかな」


「そうなのですか……お姉ちゃんの若さはどこにいったのでしょうか」


「うーん。食べちゃって消化されたのかもしれない」


「食いしん坊さんなので、可能性はありますね」


 いや、冗談だけど……って、ひめの言葉も冗談か。

 表情の変化が小さいので分かりづらいが、なんとなく笑っているように見えたので、なんとか気付けた。

 こうして軽口を交わせるくらいに親交が深まったということだろう。それを感じて、急に何か嬉しくなった。


 さて、朝の挨拶はこんなところで。


「そろそろ歩こうか」


「……えへへ。陽平くんと一緒に登校できてラッキーです」


 無邪気な笑顔を浮かべるひめ。

 彼女が車から降りたのは、俺と一緒に歩くためということは、もう理由を聞かずとも察している。

 ただ、一つだけ……手が自然と握られているのは、ちょっと聞いたほうがいい気がしていた。


 体育祭の帰りもそうだった。

 ひめが、自然と手を繋ぐようになった。この変化の意味を、俺はまだ考察できていない。


(聖さんとは、登下校で手を繋がないよな?)


 誰よりも信頼している姉が相手でも、彼女がこうやって甘えることはない。

 いや。これは、甘えるというか……なんだろう。うーん、やっぱりよく分からなかった。


「ひめ?」


「はい。なんでしょうか」


 聞こうとして名前を呼ぶが、彼女は平然とした表情のままである。

 手を繋ぐことに、照れとか、恥ずかしさとか、そういった感情は見えない。あくまで自然体だった。


『どうして、手を繋いでいるのか』


 そのことについて聞こうとしていたのだが。

 彼女の自然な表情を見て、俺は無意識に……こんな質問を投げかけていた





「――そういえばひめは、俺のことを『お兄ちゃん』とは呼ばないけど……何か理由はあるの?」




 なぜ、今この質問をしたのかは分からない。

 しかし、なんとなく急に、この回答がほしいと思ってしまったのである。


 それが『手を繋ぐ』という行動の意味も含んでいると、そう考えていたのかもしれない。

 その問いに、ひめはやっぱり平然としたまま、サラッと答えた。


「だって、陽平くんは『お兄ちゃん』ではありません」


 即答だった。

 彼女は、本心からそう認識しているのだろう。


「もちろん、陽平くんのことは『年上の素敵なお兄さん』だと思っていますが……お姉ちゃんみたいな意味で『お兄ちゃん』だと思ったことはありませんね」


 薄々、感じ取っていたが。

 やっぱり俺は、聖さんとは違うカテゴリーにいるみたいだ――。


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土日泥のように眠ってたのは若さの回復力ないやろ()
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