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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第二百六十二話 天才幼女は論破が上手



「ごめんなさい。遅くなってしまいました」


 少し息をはずませながら、ひめがこちらに駆け寄ってくる。

 そんな彼女に、自然と頬が緩んだ。


 ひめは見ているだけでついニヤニヤしてしまうくらいかわいい。


 ……この一文だけを見ると、ロリコンだと思われても無理はないのか。

 ただ、別に俺がロリコンだからニヤニヤしているわけじゃないということは、ハッキリと言っておきたい。


 なぜなら、隣にいる聖さんも一瞬でデレデレになっていたからだ。


「ひめちゃんったら~。遅いよっ。お姉ちゃん、待ちくたびれて眠りそうだったよ~」


 まったく眠気なんてなかったくせに。

 ひめに構ってほしいのだろう。気を引こうと必死だった。


 ほら。別に俺がロリコンだからニヤニヤしているわけではなく、単純にひめがかわいいせいだと断言できる。だって、聖さんも俺と同じ……いや、それ以上の反応を見せていた。


 まぁ、彼女がシスコンだという指摘もあるかもしれないが、それは無視するとして。


「お姉ちゃんは眠りすぎです。もうちょっと起きていてください」


「えー。でも、抱き枕のひめちゃんが気持ち良すぎるからなぁ」


「朝はなおさら、ちゃんと起きてください。抱き枕にされているわたしの気持ちにもなってほしいものです」


 うん……いつも通りの姉妹のやりとりが交わされていた。

 体育祭を経ても、二人の関係性に変化はない。それを確認して、内心で安堵していた。


 だって、先ほどまで二人はお互いに敵対心をむき出しにしていたのである。勝負が決着しても後を引く恐れがあったので、それが杞憂に終わって良かった。


「まぁ、お姉ちゃんがふて寝したくなる気持ちも分かります。だって、わたしに『負けた』のですから、ふてくされているのも無理はありません」


 あ。

 ちょっ、ひめさん?


 穏便にすみそうな気配があったのに。

 予想外にも、ひめの方が聖さんをちょっと煽っていた。


 勝負は決着して、二人とも気持ちがリセットされたと思っていたが……どうやらそういうわけではないようだ。

 ノーサイドの精神はないらしい。


「べ、べべべ別に負けてないもん! ななな何を言ってるのかなぁ!?!?!?」


 一方、聖さんは動揺しまくっていた。

 あれ? さっきは勝敗なんてどうでもいいと豪語していたのに、ひめがそのことを話題に出すと露骨に狼狽していた……まさか、あれは強がりで、本心ではかなり気にしていたのだろうか。


「現実を認められないのですね。哀れなお姉ちゃんです」


「あ、あわれ!? お姉ちゃんに向かってあわれって言った!」


「はい。負けたことを認められない、哀れなお姉ちゃんだと言いました」


「負けてない! た、たしかに体育祭の順位は二位だったけど……お姉ちゃんは無双してたから!」


 たしかに、聖さんは敵なしだった。

 出る競技全てで圧倒的な活躍をしていたので、それについては文句はない。


 だが、ひめはそんな聖さんの必死のアピールを鼻で笑っていた。


「しかし、勝ったのはわたしたちのクラスです」


「ぐはぁ!!」


 弱い。聖さんはまるでボディーブローを叩き込まれたかのようにお腹を押さえて地面にうずくまった。

 ふざけている……ようには見えない。たぶん、俺と会話している時はかなり我慢していたのだろうが、なんだかんだめちゃくちゃ気にしていたみたいだ。


 この姉妹は、意外とお互いに対して負けず嫌いである。


「でも、わたしはひめちゃんに負けたわけじゃないからっ。一組には負けたのは認めるけど、ひめちゃんにだけは負けたって認めないから!!」


 意地っ張りの聖さん。

 勝負の定義をずらして応戦しようとしているが、論戦においてはひめの得意分野なわけで。


「たしかに、わたし個人との成績の対決でいえば、お姉ちゃんの圧勝です。わたしは大した活躍ができなかったどころか、リレーの時は転んでしまいました……でも、よーへーくんやクラスの皆さんのおかげで体育祭では勝ちました。それが全てだと思いませんか?」


「――うわーん! よーへー、助けてっ。ひめちゃんがいじめる~」


 瞬殺で論破されていた。

 聖さんは早々に白旗を上げて、俺に泣きついてきている。


 そんな彼女を見て、俺は思わず空を見上げた。

 うーん。どうするべきか……いや、どうしなくてもいいか。


 なんだかんだ、これもいつもの姉妹喧嘩だと思えばいいのかもしれない。

 喧嘩というか、じゃれついているだけだが。


 ひめに煽られて、聖さんがサンドバッグのごとくボコボコにされているが、それもまた穏やかと言えばそう思えなくもない気がする。


「あはは。ドンマイ」


「よーへー!?!?!?」


 そういうわけで、俺は何もせずに笑うことにするのだった――。

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