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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第二百五十話 他人に甘えるのが苦手な少女へ



「――ひめ」


 声をかけると、まずは周囲を取り囲んでいた女子たちが俺に気付いた。

 それから、安堵するように俺に笑いかけて、そっと道を開けてくれた。


 クラスメイトは俺とひめの関係性を把握しているのだろう。後は任せた、という意思を感じる。

 ひめのことを任されたのは嬉しい。ただ、ちょっとなんというか、視線が生ぬるい気もするのだが……いや、今は雑念は捨てよう。たぶん、ロリコンだと思われているんだろうなぁとか、そういうことはいいのだ。


 どう思われていたって構わない。

 とにかく、ひめと二人きりにするように距離をとってくれたので、話しやすくなった。


「……よ、ようへいくんっ。あの、あの、わたしが……わたしの、せいでっ」


 やはり取り乱している。

 視線の焦点が合っていない。俺がいることは察知しているが、目を合わせてくれない。


 ただ、震える手をギュッと握りしめている。

 転んで土だらけの体操着を、拭う余裕もないようだ。


 しかも、ところどころ擦り傷があって、それが心配だった。

 でも、その治療をしている時間はない。


 今は、傷のことよりも、彼女の『心』の方が優先だ。


「ひめ」


「ごめんなさい。わたしのせいで……ごめんな、さい」


 謝りながら、徐々に声が細くなっていく。

 それなりに付き合いが深いから分かる。ひめは今、とても落ち込んでいる。


 泣きそうな声だった。

 その声を聞いて、思わず優しい言葉をかけそうになってしまう。


『大丈夫だよ。ひめは悪くないよ。よくがんばったね。転ぶくらい一生懸命だったってことだよ』


 そう言ってあげたいのが本心だ。

 でも、その言葉で癒えるほど、ひめは自分に優しくない。


 この子はいつだって、自分を律している。

 感情を押し殺し、人に迷惑をかけないよう、自分に厳しく生きている。


 そこが子供らしくない、ひめの魅力の一つだ。

 しかし、時にはそれがひめ自身を苦しめることもある。


 だからこそ、俺が今やるべきことは慰めることではない。


 ひめの心を守るためにも。

 俺は、彼女を――奮い立たせてあげたい。





「ひめ。まだ、終わってないよ」





 その背中を支えるように、手を回して。

 それから、落ち着かせるようにさすりながら……小さな声で、こう囁いた。


「謝るのはまだ早い。だって、ほら」


 そう言ってから、顔を上げるように促してみる。

 そうしてようやく、ひめはゆっくりと視線を上げて……その瞬間、目の前をクラスの走者が駆け抜けていった。


「――あ」


 ひめが小さく声を上げる。

 走者は女子だった。たしか、俺と同じ帰宅部の子である。運動はそこまで得意じゃないのは、走り方を見ても分かる。


 だけど、懸命に走っていた。

 手を抜かずに、不格好な走り方でも、真剣に。


 自分にできることを、我武者羅に。


「がんばれ!」


「走れー!」


「まだまだここからー!!」


「うぉおおおおおおおお!!」


 次いで、背後から声援が聞こえた。

 うちのクラスメイトの声だった。振り返ると、門田をはじめとした面々が叫んでいる。門田よ、その動物みたいな雄叫びはどうなんだろう……と、思わなくもないが、それくらい気合が入っていることでもあるか。


「ひめ。みんな、諦めてないんだよ」


 だから、落ち込むのも、自分を責めるのも、まだ早い。

 ミスをして落ち込んでいるのは分かる。責任を感じていることだって知っている。


 だけど、いや。それでも……まだ、やれることはある。


「一緒に応援しよう」


 そう伝えてから、小さく笑いかけた。


「ひめみたいな可愛い女の子に応援されたら、みんないつもより何倍も力を発揮するかもしれないよ?」


 そう。だから、顔を上げてほしい。


 君は何でも一人でこなせる。

 天才だから、できないことはほとんどない。

 だから、人に頼るのは苦手だろう。人に甘えることも苦手で、だから心を許してくれた俺に懐いてくれたと思っている。


 でも、俺にだけ特別である必要はない。


 苦しい時は、人に託してもいい。

 確かに俺は凡人だ。ひめに比べたら、クラスメイトの誰も敵う者はいない。


 でも、俺たちはたくさんいる。

 みんなで団結すれば、できることが増える。


 だから、ひめ……自分一人で背負う必要はない。

 俺たちに背負わせたっていいんだ。


 ひめ一人の力では、もう取り返しがつかない。

 俺一人の力でも、ひめのミスを拭えない。


 だが、みんなでなら……まだ、可能性はある。


「――っ」


 一瞬、ひめの表情が歪んだ気がした。

 まるで、涙が溢れだす寸前だ。しかしそれをこらえるようにギュッと目を閉じて、それから目元をごしごしと擦って……次に目を開けた時は、もう涙はなかった。


「……がんばれ」


 最初は、小さな声で。

 だけど、次の声は……みんなに聞こえるくらい、大きな声で。


「がんばれー!」


 小さな少女の、絞りだすような大きな声援。

 その思いは、クラスのみんなにもきっと届いているはずだった――。


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― 新着の感想 ―
ありがとうございます 再開してくださってこんなに嬉しい事はありません ひめちゃんのがんばれーじゃないですが 八神さんががんばってくださって 凄く嬉しいです
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