番外編:幸せの見とどけ人は悪くない
書籍重版決定記念に!
城下町はお祭り騒ぎだった。
今日は王族の婚姻が行われる日で、王都以外からも結婚のパレードを見ようと押し掛けた人々で溢れかえっているのだ。
いたる所で無料の祝い酒や料理がふるまわれていたし、その他にも、たくさんの屋台が並んで、人々は様々な場所で乾杯を叫んでいる。
「やあ、すごい大騒ぎだね」
「どこにこれほどヒトがいたんだ? めがまわりそうだ……」
ディアンとベックは、大通り沿いの建物の二階からその様子を見降ろしていた。
マリオンを助けた褒賞として王城に宿泊すればいいと呼ばれていたのだが、平民には敷居が高いと丁重に辞退した結果、城下町に宿をとってもらっていたのだ。
正確には、パレード見学にやってきたものの、城下町では慶事に押しかけた人がいっぱいで空いている宿が見つからず、フィリアスの知人の家に泊めてもらっていた。持つべきものは、顔の広い友人だろう。
「まあ、巷で大人気の二人の結婚だしね。一目見ようと人が押しかけるのも予想しておくべきだったよね~」
戦争の終息辺りから急速に広まった恋物語は若者を中心に、今では平民から貴族まで知らないものがいないというほど有名だった。
そのモデルとなった二人の婚姻が、衆目を集めないはずがなかった。
「……へいわなのは、イイコトだ」
うんざりしたような顔を隠しもせずに、それでもベックはこくりと頷いた。
ディアンのお供として森から出てきたベックも、当然のようにレイラと面識があった。
フワフワと柔らかそうな金の髪に菫の花のような瞳。
隣に立つマリオンを見上げては幸せそうに微笑む姿は、見ている相手まで不思議と幸せな気持ちにしてくれた。
「よきハンリョはジンセイのたからだという。センセイもはやくみつけるといい」
「あはは~。善意百パーセントで追い詰められてるなあ」
渇いた笑いと共にグラスを傾けたディアンは、通りの向こうから歓声が聞こえてくるのに気がついた。
「おや、どうやらパレードが近づいてきているみたいだね。レイラちゃんがどんな顔しているのか、楽しみだ」
「よっぱらいなんだから、あまりムチャするな。おちるぞ」
二階から身を乗り出すようにして通りの奥を見ようとするディアンの服の裾をベックがそっと握った。
「大丈夫だよ。そんなに飲んでないし」
笑いながら答えて、徐々に近くなる歓声に目を細める。
綺麗に飾り付けられた屋根のない馬車の上で、美しい白い衣装を着た二人が沿道に並ぶ群衆へと手を振っていた。
緊張しているのか、いつもハツラツとしているレイラの動きが少しぎこちなく見える。
「予想以上の人に、驚いたのかな?」
ディアンがわずかに眉をひそめた時、不意に隣にいるマリオンが身をかがめてレイラに何か囁いたように見えた。とたんにレイラの頬がバラ色に染まり笑顔が浮かぶ。
「フォローも万全だねぇ」
マリオンがレイラの腰を抱き寄せる。見つめあって微笑んだ二人に、さらに歓声が大きくなった。
その様子に、ディアンが笑いながらグラスの中のワインを飲み干す。
「がんばって治療して良かったね」
まさか茂みの中で見つけた怪我人が、王子様とは思いもよらなかったけれど、あれほど幸せそうな様子を見れたのだから薬師冥利に尽きるというものだろう。
結果的に、思いがけない褒賞も手に入れたし、今も至れり尽くせりで歓待されているのだから。
「まあ、まさか小鳥の娘とは思わなかったけどね」
長の養い児であった小鳥の話は、一族の中では有名で、実はディアンも旅の途中で会った事がある。
澄んだ声で歌い、軽やかに踊る姿に小鳥の愛称がつけられたのを納得したものだ。
「幸せになると良い」
「どうした?」
呟きに込められた想いはなんだったのか?
いつもと違う雰囲気を感じ取ったベックが、不思議そうにパレードから視線を戻した。
「ん?なにが?」
しかし、そこにはいつもの顔で笑うディアンがいるだけだった。
「おーい!ご両人!幸せにな~~!!」
ふいに、ディアンが大声を張り上げた。
この喧騒の中にもかかわらず、その声を聞きとったらしいレイラが顔をあげてキョロキョロと辺りを見渡している。
最初から滞在場所を把握していたらしいマリオンが、その肩を叩いてディアンたちの場所を視線で教えていた。
目が合った瞬間、レイラは満面の笑顔を浮かべると揺れる馬車の上にもかかわらず、見事なカーテシーを披露してみせた。
突然のサプライズに、群衆からはひときわ大きな歓声が上がる。
マリオンの命の恩人であり、一族に名を連ねる者として、本当はディアンも結婚式に呼ばれていたのだ。
しかし、堅苦しいのは苦手だと断りを入れていたし、婚姻前は忙しくて言葉を交わすどころか顔を合わせる事もできていなかった。
フィリアス経由で王都に滞在していることは伝えていたし、当日はパレードを見ているはずと予想はしていたのだろう。
隣に立つマリオンも、レイラのカーテシーに合わせるように胸に手をあて礼をしていた。
二人からの礼を受け取って、ディアンは、思わず身を乗り出すようにして大きく手を振りかえす。
「だからアブナイっていうのに」
服の裾を掴みながらため息をつくベックだったが、その口角は上がっていた。
「うん。幸せな結末は最高だね!」
遠ざかっていく馬車を見送りながら、ディアンはグラスを満たすと晴れ渡る空に向かってもう一度乾杯を捧げるのだった。
お読みくださり、ありがとうございました。
第三者視点からの結婚式の様子を少しだけ。
ちなみに、二人は一度森に帰ってから、結婚式の日に合わせて王都までやってきています。
ババ様達森の一家は、非公式ですが家族として招待されてます。
当然ですが、実の父親へは連絡されていません。
縁切られているので(笑)
代わりに、王妃様の派閥の適当な家に養子として入ってます。体裁は大事なので。




