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12話 学級委員長

「ほら、もうすぐ授業始まるし落ち着いて……」

「わたくしは研ぎ澄まされた剥き身の刀身ぐらい静かに落ち着いておりますわ」

「その言葉遣いまだ続くのっていうか、殺す気!?」


 意外とノリが良い彼女は、吉原(よしわら)さんと言ってクラスの女子のトップに君臨している派手な見た目の子だ。

 開放的なブラウスの胸元、手首にはゴールドの細いブレスレット、ギリギリまで短くしたスカートからはスラリとした美脚が伸び、薄茶色に染めた長い髪が似合うキレイ系女子である。

 なんとうちのクラスの学級委員長。

 どんだけ変わってるのうちのクラス。


「仲ヶ居くん。もうこれ以上は無理。殴り合った方が早い」

「委員長とは思えない発言! 拳じゃなく言葉で語り合ってよ……」

「そんな次元で済むなら、この世はもっと平和だったのにね」

「手の関節バキバキ鳴らしながら残念そうに言わないで怖い。というか、吉原さんてもしや不良――」

「違うわよ? 格闘技が趣味のどこにでもいる女の子よ?」

 明らかにやる側だ。観戦する方じゃないよね、絶対。


「勘弁してやってください、姉御……。それでも無理ならどうか俺に!」

「……いいわ。仲ヶ居、歯を食いしばりなさい」

 振ったノリ(姉御と舎弟設定)にも察して反応してくれる吉原さん。

 周りの女子たちは何が始まったのかと静観している。ザワッ。

「ちょっと痛いかもしれないわよ」

 吉原さんはカーディガンのポケットから何かを取り出し、俺の顔面目掛けて手を伸ばしてきた。

 反射的に目を瞑れば、髪を掴まれ細くて硬い何かが頭皮を時々掠めていく。


「よ、吉原さん?」

「もうちょっと」

 何がもうちょっとなのかよく分からないままジッとしていれば、ほんの数十秒程度で解放された。

「ん。ざっとこんなもんよ」

「なんか左側だけ引っ張られてる感……」

「こうなったから」

 今度は反対側のポケットから折り畳みの小さな手鏡を取り出し、俺に渡してくる。

 疑問に思い自身を映すと、サイドの髪をクロスしたヘアピンで留めるヘアアレンジをした俺がいた。

 わあ、オシャレ。


「なんで!?」

「桐谷さんには仲ヶ居くん離れが一番効くし、必要でしょ。だから残りの時間と放課後、桐谷さんじゃなく私に付き合うこと」

「色々ツッコミどころはあるけど、なぜこの髪型に繋がるのか全く意味が分からないよ……」

 林檎と距離を置けという趣旨は理解できたが、因果関係がサッパリである。

「ダサい男を連れ歩く趣味ないから」

「訊くんじゃなかった!」

「昨日の仲ヶ居くんはまあまあ良い感じだったじゃない。で、参考にしたわ」

 煌先輩の神アレンジの事だね。影響力パない。


「さっきから何言ってんのアンタ」

 しかし名前を出された林檎が黙っている筈もなく、目で殺さんばかりの視線を吉原さんにぶつけてきた。

 対して吉原さんはフッと鼻で笑う。

「桐谷さんは仲ヶ居くんがいないと何も出来ないもんね? 不安よね? って訳でちょっと反省しなさい」

「はァ? 何様のつもり!?」

「学級委員長様ですが何か?」

「っ、このビッチ!」

「悔しかったら豊胸手術でもしたらぁ?」

 林檎の攻略法を掴んだと確信した吉原さんは、余裕な態度で高らかに嘲笑う。

 なんだろう、姉さんを見ているようだ……。


「――残念ながら委員長は一つ間違っている」

 そんな中、酷く真剣な顔をしたクラスメイトが冷静に呟いた。

 固まって避難している男子のうちの一人である。


「全部間違ってる気がするけど一体何が……?」

「大きいだけが正義じゃないという事だ! なあ、諸君!」

「「「「そうだ!!」」」」」

 バカだ! うちのクラスの男子どもが残念過ぎるが嫌いじゃない。

「ふーん。じゃあ逆に訊くけど、アンタたちのソレでも同じ事言える?」

 委員長の視線の先。言うまでもなく、それぞれの息子さんがいる。

「「「「自分ら間違ってました」」」」」

 アッサリ論破されよったで……。

 さすが委員長。論点はともかく、さすがです。昼休みに何て話してるのこのクラス。

「じゃあ仲ヶ居くん。そういう事だから」


 昼休み終了のチャイムが鳴った。


   * * *


「帰るわよ、仲ヶ居くん」

 放課後を迎え帰宅が許されると、吉原さんが下校のお誘いに来た。

「え、まだ続行?」

「仲ヶ居くんて桐谷さんと家が隣なんでしょ? すぐ甘やかされたんじゃ、反省させる時間がないじゃない。結構効いてるみたいだし」

 チラッと吉原さんが目で指した先。

 負のオーラを纏った林檎が帰り支度をしている。

「……うん。あれは相当キてると思う」


 吉原さんは有言実行タイプだった。

 五限目の家庭科で次回の調理実習の班決めがあったのだが、俺と林檎は引き離されたのだ。その後の休み時間も、ずっと。

 林檎がどんな感じになるのか知りたかった俺も吉原さんの案に乗ってみたら、どんどんと威勢を失くしていき、ついには若干どんよりしている。


「ならよし。さ、帰るわよ」

「いやでも、」

「仲ヶ居くんは一生、桐谷さんの面倒を見るつもり? だったら止めないけど」

「それは……」

「良い機会じゃない。距離感改めたら?」

 ……距離感か。

 少し離れてみれば、林檎への気持ちもハッキリするだろうか。


「分かった。今日は吉原さんの言う通りにしてみるよ」

「そ。佐藤さんへの弁解は私がしておくわ。誤解されたら面倒だし。携帯貸して」

「お願いします……」

 当然のように吉原さんも事情をご存知だ。

 まあ愛梨ちゃん、なんやかんやで結構この教室にいるしね……。

「んーと。『お宅のかどうか分からないけど仲ヶ居くんは私が預かった。他意はない。学級委員長より』でいっか」

「全くよくないよ!?」

「ごめん、もう送った」

 はい、とスマホを返却してくる吉原さん。

 画面を見れば怒涛の勢いで愛梨ちゃんから返信が送られてくる。電話をかけてこないのは、向こうがまだホームルーム中だからかな。


「あとで質問攻めにされそう……」

「フォローはよろしく。ほら、キリキリ歩く」

「ぐぇっ。え、襟首は掴まないで締まる……!」

「――あれ、渉っち。今日は吉原ちゃんと帰んの?」

「珍しい組み合わせだな」

 強制的に引き摺られるように連行される俺を見て、安倍川餅が不思議そうに声を掛けてきた。

 二人も帰るところらしく、鞄を担いでいる。

「実はかくかくしかじかでさ……」

「いやホントに『かくかくしかじか』って言われても分かんないっしょ……」

「説明する気ねぇな」

「ザックリ言うと更生プログラムの一環よ」

 代わりに吉原さんが端的に言うと、安倍川餅は互いに顔を見合わせた後、心底残念なものを見るように俺を見た。


「渉っち、今度は何した」

「委員長の怒りを買うほどか」

「なんでいつも俺がやらかした体なの!?」

 そこまでトラブルメーカーじゃないよ。多分。

「仲ヶ居くんじゃなくて、桐谷さんの方ね。保護者を引き離して反省させ中」

「あー……。なる」

「へぇ」

 二人とも昼休みにいなかったから詳しく知らないのに、納得するんだ……。

 俺と林檎の日頃の行いって一体。

「て事だから。また明日」

 吉野さんは掴む場所を襟首から腕に変えてくれると、また歩き出す。

 安倍川餅から苦笑気味に送り出された。


「……今更だけどさ、吉原さん」

「なに?」

「誤解されちゃまずい相手はいないの? この現場見られても大丈夫?」

 構わず廊下を突き進む吉原さんは、見た目の派手さもあり結構目立つ。

 好きな人がいるなら、妙な噂になる前に避けるべきだろう。

「平気よ。この学校の男子は眼中にないから」

「え、そうなの?」

「私の理想、鬼若丸(おにわかまる)だし」

 説明しよう!

 鬼若丸とは――爽やかイケメンにバッキバキの筋肉ボディーを合成したような、女性に人気の格闘家だよ!

 たまにテレビで見るから俺でも知っている。


「あの人に比べられたら普通の高校生なんぞモヤシ以下じゃん……」

「でしょ?」

 というか、人類の八割は貧弱になる。まじで。

「あ。でも阿部くんなら結構良い線いってるんじゃない?」

「顔の系統が違う筋肉量が足りない声がダメ足元にも及ばない」

「厳しすぎか」




 その後に学級委員長とカフェで恋バナをするという謎イベントを終えた夜。

 さらに事件が起こった。


 林檎が家に帰って来ないと、杏子さんから連絡がきたのだ。

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