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商人

「随分な騒ぎになっちゃいましたね」


「まあ……なるだろうさね」


 タツヤの周りは盗賊の血であふれかえっている。

 まさしく血の海と呼ぶにふさわしい惨状だ。

 しかしそれ以上に商人たちが驚いていたのはタツヤの実力についてだった。


「あんた召喚術師様だったのか! 」


 声を荒げる商人に顔をしかめつつもセラエノに視線を向ける。


「召喚術師はそのままの意味ですよ。

魔獣とかモンスターとか神様とか召喚する人。

圧倒的に数が少ないですが、戦力としては強大です。

割合的に10000人の農民、その中の100人が騎士の素質を持っています。

同じ割合の中で10人が魔法使いの素質を持っています。

召喚術師は、魔法使い1000人の中に1人いるかいないか位です。

超レアですね」


(レアですねじゃねえよ、厄介なことになったぞ)


 希少であるというのは厄介だ。

 それだけで目立つことになる。

 それは厄介事を巻き込むという事をタツヤは身をもって知っていた。


「あーこのことは内密でお願いします。

召喚術ってあまり情報が出回ってないんでばれると面倒くさいんですよ。

金を召喚しろ、飯を召喚しろ、女を召喚しろとね」


「……できないんですか? 」


「女の死体がモンスター化したものならできますよ。

あとさっき召喚した猟犬とかは加工すれば肉になるかもしれないですね」


「……遠慮させていただきます」


 人間を食い散らかす猟犬(腐臭のおまけつき)と人間をやめた何か(進行形で腐敗中)をどうにかする度胸はないのだろう。

 商人は頭を振ってタツヤの意見に反応を示した。


「で、どうするんですか。

盗賊くらいなら殺しても御咎めはないでしょうけれど、このまま進めば泥に混ざって血が撥ねますから商品価値を損なう場合がありますよ」


「そこは問題ありません、この馬車には魔法がかかっています。

中にある物を保管するためのものなんです。

難点は生物を入れていると機能しないという事ですか。

無視くらいなら大丈夫なんですけどね」


「つまり破損だの汚れだのの心配はしなくていいと」


「その通りです、なのでこのまま当初の予定通り街を目指しましょう」


「わかりました、では俺は引き続き見張りをしています。

何かあったら呼んでください」


 そう言ってタツヤは自分が警護していた中間の馬車に戻った。

 御者を務めていた人から好奇の目で見られたが気にすることもなく、セラエノを開く。


(どう思う)


「あの商人は怪しいです」


(同意見だ、盗賊に襲われたにしては落ち着きすぎている)


「えぇ、そうですね。

おそらく盗賊に襲われるところまでは予定通りだったのでしょう。

この世界に保険という制度はありますが、一般的ではありませんし決して得をするようなこともありません。

予め保険に登録していた商品と同額を騎士団から支給されるというものですから。

ついでに言うとこれ騎士団の給料から支払われることになるため、保険が適用された場合騎士団は死に物狂いで盗賊を討伐して金品を懐に収めるんです」


(……買った商品が粗悪品だとしたらどうする)


「……購入時の値段で支払われるので損はしないでしょう。

この世界の商人というのはいかに相手をだますか、というのが仕事です。

相手が騙されたと気づかないように騙す」


(……なんにせよだ、この馬車にいるのは危険だ。

俺が召喚術師だと勘違いしているみたいだしな)


「えぇ、希少ですからね。

奴隷等の職業でも大人気です」


「……勘違いだったら商人の運と俺たちが悪かった。

そうでないなら……召喚【海の底で眠りし者】」


 言葉を区切り、目を閉じて召喚を行う。

 【海の底で眠りし者】、それはたこの頭、人間の胴体、龍の鱗と翼を持った巨大な存在である。

 名前のごとく普段は深い眠りについているものの、星の並びが一定になると目を覚ます。

 その力は世界を滅ぼすカギにもなりうるため、非常に危険な存在だ。


「……やれ」


 タツヤの言葉に応じるように【海の底で眠りし者】が触手を振るう。

 その一撃で商人の馬車は叩き潰され、周囲に血と肉と商品を散らせた。


 そこからは一方的な虐殺だった。

 巨体から逃げ出そうとする者はその職種に絡め取られ、戦いを挑んだものは例外なく踏みつぶされた。

 唯一、生き残ったのは召喚したタツヤと、同じ馬車に乗り合わせた御者だけだった。


「ひ……」


「悪いね」


 氷のように冷たく鋭い眼光を浴びて御者は後ずさる。

 ぽろぽろと涙を流して、失禁をして、腰を抜かして、それでも尚逃げようとする。

 その生への執着心は立派だった。


「すまんな」


 一言謝罪を述べて、セラエノを突き出した。

 するとセラエノから触手が飛び出して、御者の胸に穴をあけた、


「ごちそうさまです」


 セラエノがそう言って、触手をしまった。

 その動作は箸を置くかの如く他愛のないものでった。


「……ところで馬車ってどうやって操縦すればいいんだ」


「手取り足取り教えてあげますよ」


 その日、ある商人が行方不明となった。

 その商人の馬車が山奥で残骸となっていたこと、更に山を2つ超えたところで無人の馬車が発見された事などから巨大なモンスターに襲われたとされた。

 しかし、なぜ一台だけ無事な馬車があったのか、乗っていたのは誰なのか等の情報はついぞわからず、事件は迷宮入りとなった。

 一部では、青年が触手にまとわりつかれながら馬車を操縦していたとのうわさもあるが、悪い冗談として一蹴された。

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