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「レオン、次の仲間はどいつだ?」
俺たちがオレアリアに追いつくと、すでに通りに出ていた彼女はきょろきょろ辺りを見回していた。
ソファに腰掛けていたときには気がつかなかったが、尊大な態度のわりに背は高くない。
「そう焦らなくても、【GOE】でメンツを用意してくれるらしい。俺もまだ会ってないんだが」
「そうか、ならさっさと行こう」
いうが早いか、オレアリアは再び進路を変え、スタスタと歩き出す。見る間に小さくなっていく後ろ姿を眺めながら、ベルが耳打ちしてくる。
「せっかちな人なのかしら」
「短気で有名な人だからな。あれで戦いかたは堅実らしい」
俺たちが話しながら歩いていると、一人で先へ進んでいたオレアリアが振り返って、遠くから叱咤を浴びせてきた。
「遅いぞ、もたもたするな!」
これまで彼女と組んでプレイしたことはなかったが、戦闘中もずっとこの調子で発破をかけてくるのだろうか。
案外、指揮官としては優秀な素質なのかもしれない。馬だって後ろから追い立てられたほうが速く走る。人間だって同じだろう。
ようやく先行するオレアリアに追いついた頃には、すでに目的地の前に来ていた。
声を掛ける間もなく、彼女はギルドの扉を勢いよく押し開ける。
「頼もう! ギルドマスターはいるか」
オレアリアが一喝するように声を張り上げる。
一階ホールにいたGOEメンバーはしばし呆気にとられていたようだが、誰かが呼びに行ったのか、程なくしてイーガンが迷惑そうな表情二階から降りてきた。
闖入者であるオレアリアを青く冷たい瞳で見下ろし、問いかける。
「騒々しいな。なんの用だ」
「今更なに寝ぼけたことを言っているのだね? パーティーメンバーを紹介するんだろう。さっさと引き渡せ」
「相変わらずせっかちなんだな、アンタは」
そう呟くイーガンの眉間に指を当てた仕草が、まるで溜息を隠しているように見えるのは俺の気のせいだろうか。
とりあえず、落ち着いて話をするために俺たちは二階の執務室に場所を移した。
室内にいるプレイヤーは全部でちょうど6人。
イーガン、俺、ベル、オレアリア、そして新たに仲間に加わるウン・ホセイとガゼルだ。
ガゼルはゴブリンを攻略するときに俺たちの後をついてきたハンターだ。
【カサンドラ・エクス】を襲撃したときも別働隊メンバーとして参加していたらしい。自分より上位レベルの魔術師を殺しまくったおかげでLv5だという。
俺はなんとも思っちゃいないが、ベルはあからさまにガゼルを嫌っている。
「あのときは助けてやれなくてすまなかったな」
ガゼルが声をかけてもベルはそっけなく頷いただけだった。
今のところ二人の相性は最悪だが、わだかまりさえ解ければチームプレイに支障を来すこともないだろう。
ガゼルと同じく襲撃作戦に参加したウン・ホセイもLv5に成長している。仲間に見捨てられるという事件が多発したせいで、騎士にとってフィールドへ出るという行為は心の傷となっているはずだが、成長ポイントの全てを弱点であるAGIに注ぎ込んだおかげで、置き去りにされない程度には素早さも上がったらしい。
前衛にレベルの高いプレイヤーが集中しているが、経験の差ではオレアリアも負けていない。
しかし、予想以上に癖のあるメンバーが揃ってしまったように感じられる。
俺は室内に集っている面々を見渡して、イーガンに尋ねる。
「で、六人目のメンバーはお前がやってくれるのか?」
このなかで魔術師なのはイーガン唯一人だ。
ギルド襲撃には直接参加していないためLv1のままだが、腕は確かなはずだ。
だが、問いかけに対してイーガンは俺たちの後ろを指差して答えた。
「いや、最後のひとりは彼女だよ」
振り返ると、そこにはかつて行動を共にした少女、アヤカが扉を開けて立っていた。
青いドレス風の魔法服に高く結い上げた髪、剣士のように凛とした顔つき。胸の間には赤いお守りが揺れている。
最後に別れてからそれほど日が経ったわけでもないのに、見覚えのあるお守りも今見ると懐かしく思える。
「・・・アヤカ」
どう声をかけるべきか迷っていると、アヤカが俺のほうに近づいてきた。
「正直にいうと、あなたことは今でも恐ろしいですけど、この街にあなたより強い人がいないのは事実ですし。鉄血さん、いえ、レオンさんこそ私で構いませんか? 弱い魔術師ですよ、私」
アヤカの後半の台詞に俺は首を傾げる。アヤカはLv3の魔術師だったはずだ。すると、話を聞いていたイーガンが事情を説明してくれた。
「彼女はDEX、AGI高型の魔術師なんだよ」
「DEXを上げた? なんでまた、そんな育て方をした?」
DEXとAGIはそれぞれ器用さと敏捷性を表した数値だ。魔術師の場合、この数値を上げれば上げるほど詠唱時間が短縮され、魔法の発射速度が上がる。だが、INTが低いままだと肝心のMPが伸びないため、優先的にDEX、AGIを伸ばすプレイヤーは珍しい。いくら速射できても一発の威力が弱く、すぐ弾切れしてしまうのでは使い勝手が悪すぎる。
「そのうちわかるさ。火力はあてにしないでやってくれ」
どうやら、今後もINTを伸ばしていくつもりはないらしい。INTは基本ステータスなので、ポイントを振らなくてもある程度は伸びるが、破壊力には欠ける。敵を殲滅してくれる魔術師のバックアップが得られないのは、このパーティーの最大のネックかもしれないが、考えがあってのことなら自由にやらせてみるのもいいだろう。俺はアヤカのゲームセンスを信頼している。ほかの仲間たちも依存はないようだった。
「では、さっそく腕試しと行こうか」
簡単な顔合わせが済むなり、オレアリアが両の手のひらをパンッと打ち合わせた。
望むところだ。ずいぶん時間がかかってしまったが、今がようやくスタートラインに立ったところだろう。
俺たち6人は互いに頷き交わし、フィールドへ向かうことになった。
東門を出てひたすら真東に進むこと約5分。
これまでに遭遇したMOBは全部迂回して避けていた。ゴーレムはどうやっても倒せないからだ。
視線の先に林が見えてくる。危険度が増すのはここからだ。
街の周辺は採取ポイントもないかわりにMOBの湧出もほとんどない。俺たちは覚悟を固め、林のなかに足を踏み入れた。
「それで、まずはどこに向かうんですか」
アヤカが遅れがちな足取りを小走りで詰めてきて、中核にいる俺に尋ねる。AGIを上げているとはいえ、魔術師はもともと移動が得意ではない。地形によるマイナス補正を受けやすく、荒地などでは極端に移動速度が下がる。そのためどうしても遅れがちになるが、アヤカのペースに合わせてやるわけにもいかない。戦闘の要でもあるオレアリアがいつもの調子でスタスタと歩いて行ってしまうからだ。
治癒術士をひとり先行させるわけにもいかない。また、オレアリアにゆっくり歩けと命令するのもナンセンスだ。
脱落者がいるわけでもないし、移動時間は短いに越したことはない。夜がくれば危険度は跳ね上がる。
ハンターのガゼルを先頭に立たせ、その後ろにホセイ、中核に俺とベル、オレアリアが並び、最後にアヤカが遅れてついてくる形だ。歩く速度は駆け足の一歩手前というところだ。無駄口を叩いている余裕もない。
俺はまっすぐ前を向いたまま、やや早口で答えた。
「石榴石が要る。Bテストのときはゴブリンの谷を攻略して手に入れたが、クエストに挑むにはまだ力が足りない。まずはゴブリンの倒し方から学習してもらう。来たぞ、構えろ」
説明の途中で、早くもゴブリンのPTが現れた。相手は四匹、数の上では有利。AGIの合計でもこちらが上のはずだ。戦闘の口火を切る役目はガゼルに任せる。
最初の一匹を素通りし、Lv3スキルの毒ナイフが二匹目以降のゴブリンに状態異常を与えていく。
先頭のゴブリンスカウトを引き受けるのは俺たちの役目だ。
まず頭を剣で斬り飛ばし、続けてホセイの斧でざっくりとHPを削る。ベルも攻撃スキルを使いつつ、手早く一匹目を戦闘不能になるまで畳み掛けていく。俺はその間に、毒ダメージを受けたゴブリンの頭を次々潰していく。
再生能力が毒のダメージで阻害されるため、毒状態に染まっている敵はゆっくり対処できる。
敵の通常攻撃まで封じることはできないが、前衛はみなクリティカルの一撃で死なない程度にはHPが成長している。仮にもし危なくなっても、回復するまでの間はホセイがカバーしてくれるはずだ。
詠唱を終えたアヤカが後方から魔法を放つ。
与えるダメージ量はLv1の魔術師と大差ないが、発射速度がやたら速い。ゴブリン程度のAGIではまず避けられない。
一匹目を倒してしまえば後は楽だ。
オレアリアもヒールの詠唱をキャンセルして支援魔法に切り替えた。攻撃速度がさらに上がる。
一度目の戦いでブレスの範囲はわかっているから、予備動作を見てギリギリ避けられる。足の遅い連中だけ効果範囲の外側に立たせておけば、いつブレスがきても大丈夫だ。
ゴブリンは一匹、二匹と数を減らしていき、そしてついに、俺たちは完璧な形でゴブリンの攻略に成功した。
使用したアイテムはなし。アヤカとベルがMPを使い切ったが、これは歩きながら回復を待てばいい。
この調子で狩っていけば、たぶん明日か明後日にはオレアリアもLv1からLv2に上がるだろう。
ここから先はゴブリン以外のMOBも出てくる。効率のいい狩場を見つけることができれば攻略はさらに加速するはずだ。
俺たちはさらに林の奥へと歩を進めた。この先は緑の葉が鬱蒼と生い茂る暗い森へと続いている。




