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7:カウンターアタック

【カサンドラ・エクス】のギルドマスター、ソロモン・グランディについては、あまり多く知られていない。

ここへ来る以前はなんのゲームをやっていたのか。プレイヤーとしての腕前や、戦闘スタイル、交友関係など、噂の中心となっても良いはずの男なのに、人物像は曖昧なままだ。そのために【カサンドラ・エクス】の組織体系も閉鎖的で幹部が何人いるか、どういった指揮系統で動いているのかも、よくわかっていない。

判明しているのは、彼のアバターが真っ白な髪に赤い瞳を持つアルビノであること。そしてPKを毛嫌いしているということの二つだけだ。

イーガンは精緻な銀縁眼鏡を整えながら、その辺の事情を語った。

「内部を探る必要があった。連中が力をつけ始めた途端、魔術師の囲い込みなんてものをやりだしたからな。そのために手持ちの魔術師を潜入させたり、ハンターを使って有益な情報を流したり、いろいろしたよ」

「それで、なにがわかったんだ」

「まず外堀から埋めていこう。カサンドラを支持している連中のほとんどは、攻略する気のない奴らばっかりだ。フィールドには出られない、かといって、街にいればPKに狙われる。そこに現れたのが【カサンドラ・エクス】だ。彼らはPK排斥の方針を明確に打ち出した。街で安全に過ごしたい連中は当然、無批判に彼らを支持する。攻略への強い意志を持ったプレイヤーがPKと蔑まれ、集団で狩られる。カサンドラは正義を装いながら、美味しい獲物を狩ってレベルを上げることができる」

これが魔術師ギルドの仕業でなかったら、こうまで上手くは行かなかったろう。

序盤はどの職業も魔法耐性が低い。そこそこレベルを上げたプレイヤーでも、背後からのワンショットキルであっさり仕留められる。

「だが、カサンドラ自体は攻略をしようとしているだろ?」

「いや、彼らはボスに挑む気なんてないよ」

イーガンは断言した。しかし、そうだとすると、どうしても説明のつかない疑問が出てくる。

「なら、どうやってこのゲームから脱出するっていうんだ?」


「連中は外部からの救出を待っているのさ。初期フィールドのザコですら、下手なエリアボスより強いんだ。この先に待ち構えているボスの強さは想像を絶する。とてもクリアできないと踏んでるのさ。カサンドラは確かにゴブリンを倒した。だが、奴らを東の森へ進ませるためハンターが囮となってゴーレムを引きつけ、絶対安全な対岸からの一斉射撃で1PTを倒しただけなんだ。戦っちゃいないんだよ。連中がしていることは単なるごまかしだ」

イーガンの言うとおりだろう。

18人がかりで1日に数匹のゴブリンを倒したとしても、レベル1から2に上がるまでに半年はかかる。

「わりを食うのは攻略組だ。街の連中は誰も味方しちゃくれない。PKは嫌われ者だからな。武器もなく、アイテムもなく、フィールドでただ野垂れ死ぬだけだ。攻略意欲のない連中に安逸などさせない」

そう語る男の瞳には、氷のような瞳が怒りに燃えていた。見た目に反して激情型の性格のようだ。先代のギルドマスター謙信の死を無駄にされて一番怒ってるのは案外、この男なのかもしれない。



午前三時四十分。

空が白み始めるまで、あと一時間ほどの猶予がある。

これから早朝にかけての時間帯、街は深い霧に覆われる。

俺は即席チームを引き連れて、【Garden of Eden】のギルドハウスを後にする。

【GoE】のメンバーのほとんどは今回の襲撃計画を知らされていない。

PKによるレベルアップについては、抵抗感を持つ者も多く、下手につつけばギルド内に派閥を作ることになりかねない。イーガンはそのことを警戒して、口が固く、なおかつ【カサンドラ】に好意的でない者だけを抽出し、襲撃計画を打ち明けたらしい。

襲撃チームのメンバーは、俺を除けばハンターと魔剣士が6人ずつ、騎士が2人、治癒術士5人。この他に6人チームの別働隊が裏に回り、逃走ルートを抑え、さらに数名の魔術師が火力支援のためにスタンバイしている。29人からなる暗殺チームだ。

すでに【カサンドラ・エクス】が引き返してから二時間が経過している。


連中は真夜中の銃撃戦を終え、警戒を解いている頃だろう。さっきまで追われていた男が、引き返して襲撃してくるとは思ってもいないはずだ。なまじ最強ギルドの地位が確定したことにより、油断を招いたのかもしれない。ギルドハウスの周りには警戒にあたっている人間は一人もいなかった。俺たちは誰の妨害も受けることなく、目的地に到着する。


視界不良ため、ハンドサインの伝達はリレー式に行われる。俺の送った指示が後続に伝わるまで数秒を要する。

言葉を発しないのは極力、相手に感づかせないためだ。

VRの世界でも音に敏感な人間は存在する。単に聴力が優れているのか、一種のゲーム勘と呼ばれるものなのかはわからないが、そういう人間は感じるはずのない気配まで鋭敏に察知するという。

連中のなかに、そうした適応種(ニュータイプ)がいないとも限らない。襲撃チームのメンバーは皆、そのことをわかっている。

展開した左翼が身を低くして窓枠の下を潜り、扉の反対側に回り込む。

二つの隊に分かれ、扉を両側から挟み込む形だ。そして向かいの建物の屋根には、射撃を得意とする魔術師を伏せてある。さっきと違い今は霧が出ているせいで精密な射撃は望めないが、それでもシルエットを捉えることは可能なはずだ。

もし窓から逃走しようとする奴がいれば、脳天を撃ち抜かれることになるだろう。


SOでは存在するほとんどのオブジェクトに耐久度が設定されており、石材は高く、木材はやや低くといったように細かく値が分かれている。

剣などの武器は硬い物を斬ると耐久度が減ってしまい、そのまま使い続けるとやがては壊れてしまう。この耐久度は鍛冶スキルでしか直すことはできない。

目の前にある扉も、そうした破壊可能なオブジェクトの一つだ。


俺は扉の前に立ち、オーラをまといつかせた剣を掲げる。

扉破壊から突入までの時間をできるだけ短いほうがいい。初っ端からスキルを使用するのはそのためだ。

オブジェクトの破壊する際には、かなりの大きな音が響くはずだ。間違いなく、扉に一撃与えた時点で襲撃は悟られる。


心臓の鼓動が高まる。目の前の扉を破れば、これまでに相手したことのない数の敵が迎え撃って出てくるだろう。だが、連中を粛清しなければ、俺はどのみち殺られる。

俺は掲げた剣を思い切り振り下ろした。

決断の一撃が、分厚い一枚板の扉に亀裂を走らせる。

そこへすかさず斧を持った騎士の二人、ア・リュウとウン・ホセイが渾身の一撃を叩き込み、扉は派手な音を立てて砕け散った。ぽっかりと空いた突破口へ、左右10名ずつのチームが二匹のムカデのように隊列を組んで突入していく。


事前の情報によれば、【カサンドラ・エクス】のギルドハウスは礼拝堂のような造りになっているという。

天井を支える柱は石で出来ており、アーチ状に湾曲した屋根とつながっている。真ん中に敷かれた赤い絨毯を挟むように、長椅子が左右二列、縦に十列ほど並べられて、最奥にはステンドグラスを背にした祭壇が置かれている。

両側の壁には階段が設けられており、二階の通路はE形になっていて、三つに分かれたそれぞれの廊下に沿って合計100ほどの個室が並んでいる。在籍メンバーの多くは二階にいるはずだ。


建物内部は真っ暗闇だったが、何度も地図で確認したおかげで、内部構造はすっかり頭のなかに入っている。

そこへ板を踏む足音がドタドタと響き渡る。向こうは早くも襲撃を察知したようだ。

「敵!? 敵襲ゥー!!」

一階フロアに魔術師の叫び声が響き渡る。もうしばらくパニクってくれていれば良かったのだが、そう有利には働かないらしい。

照明モードがONにされ、室内に明かりが灯される。真っ白い壁と天井、そして足元の赤い絨毯がまず目に飛び込んでくる。

一階フロアにいたのは、八十人前後だ。状況は理解していても行動が追いつかないのか、全員棒立ちになっている。


俺はハンドサインを送り、右翼部隊を二階に向かわせる。

『E』の縦線部分を押さえる形で三本の廊下を繋いでいる通路を制圧できれば、敵を三つに分断でき、少ない戦力で相手を各個撃破できる。

一階フロアに留まるのは俺と、ア・リュウのチームだ。


長椅子の下に隠れている魔術師を突き刺し、逃げ惑う連中を裏口がある祭壇側へと追い詰めていく。

「やめろ、頼むからやめてくれ!」

魔術師の男が必死に懇願する。だが、これは生き残りを賭けた戦争だ。情をかければしっぺ返しを喰らうのは目に見えている。

俺は男の頭蓋を叩き割った。近接の苦手な魔術師とはいえ、攻撃能力はトップクラス。数もこちらの十倍以上いる。迅速に始末していかなければならない。


魔術師殺しのセオリーは喉を潰すことだ。ハンターが次々とナイフを投擲し、奥にいる魔術師の詠唱を強制的にキャンセルさせていく。俺とア・リュウは攻撃力に物を言わせて手近なところから魔術師たちを一撃で殺していく。魔術師たちは武器を手にした俺たちから逃れようと、押し合うように裏口に殺到する。

「なにやってんだっ、早く開けろ!」

「うるさいっ、今開いた───ギャッ」

ドアが開いた瞬間、魔術師の背中から剣が生えた。エフェクトを撒き散らしながら倒れゆく魔術師の向こう側から、魔剣士が姿を現す。裏から回り込んで待機していた別働隊が待ちに待ったと言わんばかりに、一気に流れ込んでくる。

ホールは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。逃げ場を失い、攻撃を防ぐ手段もないまま、一方的に斬りまくられる。


飛んでくる魔法も指揮する人間がいないため、散発的だ。柱や長椅子の背を遮蔽に利用しながら、回り込んで側面から叩いていく。

「ぬぅうん!」

ア・リュウが斧の重攻撃で3人まとめて斬り飛ばす。【カサンドラ】のメンバーは魔法にすがるしかなく、仲間を殺されている間も必死に魔法を唱える。その姿は神を祈るのに似ている。だが、祈りが聞き届けられることはない。

切り返しの刃が深々と相手の胴体にめり込み、また一人倒れる。

二階からも地響きのように逃げ惑う足音や、怒号が聞こえる。

戦闘が終わる頃には、きっと恐ろしいほどのPKボーナスが入っているに違いない。


「見逃してくれ、見逃してくれ、見逃し・・・ぐぁ」

頭数はだいぶ減ってきた。詠唱中はノーガード状態のため、クリティカルのオンパレードだ。攻撃力がやや劣るハンターたちでさえ一撃で相手を屠っていた。ここはもう別働隊に任せていいだろう。

俺は左翼チームを引き連れて二階の右翼チームと合流することにした。

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