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2:自己犠牲

補足※アイテム使用の制限については、後ほど文中で説明する予定です。


1 一部のアイテムを除き、原則として他人へのアイテム使用は直接触れる必要がある

2 戦闘中に使えるアイテムの数には限りがある。

あらかじめ選択してあるアイテムをベルトのスロット部に差し込んでおくことで戦闘中にすぐ取り出せる。

装備によってアイテムスロット数が違う。


俺は弱ったウォーゴブリンを仕留めるために離脱したせいで、戦闘の中心から引き離されていた。


ゴブリンリーダーは相変わらず、なにもしないで突っ立ってるだけだが、ウォーゴブリンとスカウトの2匹はほとんど再生しかかっていた。

ベルとヘカテが前線に立ち、なんとか敵を食い止めているが、戦闘経験が浅く、連携はイマイチだ。

ヘカテはゴブリンスカウトのスピードに翻弄され、メイスを空振りしたところを、まんまと背後に回り込まれてしまった。


「メイちゃん、危ない!」

おそらくはヘカテのことだろう。

頭が半分欠けたスカウトが、ヘカテの背にナイフを突き立てようとするのを見て、咄嗟にベルが叫ぶ。

ナイフが刺さる寸前、ベルが一瞬速くスカウトの腕を切り落とした。


「ダメだっ、頭が再生しちまう! ブレスが来るぞ!」

叫んだところで、手遅れだった。

スカウトが飛び退き、こちらが追撃する前に頭部が完全に再生してしまう。大きく息を吸いこみ、カエルのように喉を膨らませる。二人は射程内ど真ん中にいた。俺はダッシュで戻り、ヘカテを樹の陰に突き飛ばす。


「待って、ベルがまだ!」

リーゼの叫びが聞こえたが、回避するので精一杯だった。

ゴブリンが汚い音とともに、辺り一帯に毒々しいブレスを撒き散らす。

毒霧がもうもうと立ちこめ、周囲の木々を溶け腐らせていく。緑の霧が晴れた頃には、一面が死の森と化していた。

回避が遅れたベルは、ブレスを喰らってHPがみるみる削られていく。


ベルはダメージを受けながらも、闇雲に振るった一撃でなんとか頭を斬り飛ばし、ブレスを終わらせたが、状態異常効果は避けられなかった。顔面蒼白、唇は真っ青になり、眼が潰されている。

猛毒と沈黙、さらに失明の状態異常だ。戦力としては死んだも同然だ。


「痛い、眼が痛いよ・・・何も見えない・・・」


失明状態のなか、ベルがめちゃくちゃに剣を振り回す。だが、すでに敵はベルのそばを離れて、HPの低いヘカテに襲いかかろうとしている。


「ベル、敵はそこじゃないっ。ヘカテ、リーゼ、お前らで敵の位置を教えるんだ!」


「任せて!」

「おじゃる!」

俺はヘカテの援護に回ろうとするが、横から襲ってきたゴブリンスカウトに足止めされてしまう。

スカウトを切り伏せた頃には、ウォーゴブリンがヘカテに向かって斧を振り下ろしていた。

「ひぎっ!」

ヘカテの両腕が斧で斬り飛ばされ、耳障りな悲鳴が響く。

「くそ、最悪だ」


部分破壊ダメージは治癒魔法(ヒール)では回復できない。だが、両腕がなくても魔法は言葉を唱えるだけで発動する。

前衛はこなせなくなったが、治癒術士(ヒーラー)としての役割はまだ残っている。

「大丈夫か、ヘカテ」

両腕を失った痛みのフィードバックを受けたためか、ヘカテはだいぶ弱っていたが、あまり構ってやる余裕はない。

今は全滅するかどうかの瀬戸際だ。


ベルもブレスの影響で満身創痍だ。猛毒が容赦なくHPを奪っていく。

ヘカテが治癒魔法(ヒール)を発動させるが、回復したそばから減っていく。

ヘカテのMPが尽きるのが先か、猛毒の効果時間が過ぎるのが先か。俺たちの優勢は文字通り、ブレス一発で消し飛んでしまった。

せめて解毒剤が使えればいいのだが、回復にまわす人手が足りない。

とにかく相手を追い込み続けなければ、こっちがやられる。


「ヒールⅡ!」

俺に向かってヒールが飛んでくる。全体の状況把握に気を取られて、いつの間にか、俺自身のHPが危険域にまで達していたようだ。ヘカテが再び詠唱に入る。

「ヒール!」

再びベルに回復魔法をかける。もうヘカテのMPは枯渇寸前のはずだ。猛毒の効果時間は残り20秒。


「ヒール! これでラストだよ!」

ここへ来て一気に窮地に立たされたため、とうとうヘカテのMPが底をついた。

あとは自然回復を待つしかないが、MPが回復する頃には戦闘が終わっているだろう。

ベルの猛毒状態解除まであと10秒。HPはぎりぎり残るかどうかだ。


俺のほうも後がない。治癒術士(ヒーラー)がいない今、回復手段は自分が持っているアイテムのみだ。スロットにセットしてある回復薬の残りは1本。ダメージをもらうわけにはいかない。

俺は次のターゲットをスカウトに絞った。再生が終わらないうちに叩き潰すしかない。

「オーラブレイド!」

「フレイムショット」

俺のスキル攻撃、続いてリーゼの魔法が着弾し、俺たちを窮地に陥れたゴブリンスカウトがようやく暗い炎に呑まれて死んでいく。

これで残りは2匹。


ふと、視界の端に眼をやるといつの間にかゴブリンリーダーの姿が消えていた。

なにを仕掛けてくるかわからないだけに、常に視界には入れておいたのに、混戦で見失ってしまった。

リーダーを探すために周囲を見渡して、ようやく気がつく。


俺たちがいる場所は木々が枯れ果て、ブレスを遮るものがなにもなかった。


背筋がぞっと粟立つ。

振り返ると、忽然と姿を消したはずのゴブリンリーダーがそこにいた。

きっと俺たちは全員、絶望的な顔をしているのだろう。

ゴブリンの黄色く濁った眼が、ニンマリと嗤ったように歪む。

ゴブリンリーダーが大きく息を吸い込み、喉が大きく膨らんでいく。

俺の位置からでは、もうブレスを止めるのは間に合わない。


奴のそばにいるのは盲目のベルに、両腕を失ったヘカテ。リーゼも魔法を撃ち終わったばかりで、攻撃には移れない。


だが、ゴブリンリーダーはさらに変則的な動きを見せた。通常よりも明らかに予備動作が大きい。

「まさか、───強ブレスか!」

溜めが長い分、威力は比べものにならないくらいはずだ。奴は、この一撃で終わらせるつもりでいる。


ゴブリンの喉が限界まで膨らみ、いよいよ口を開こうとしたとき、突然その顔面に小柄な影が被さった。

「ヘカテ、なにをして──!?」


「メ・ガ・ン・テ・!!」


ヘカテが覆いかぶさるようにゴブリンの頭に抱きつき、最終奥義として名高い自爆呪文の名を叫ぶ。

自らの命と引き換えに大爆発を起こし、敵を砕けさせるという魔法だ。





だが、SOにメガンテは存在しない。


まともにブレスを喰らったヘカテは一瞬にして上半身が消し飛んだ。

胴体から下が、ドサリと地面に落ちる。


ヘカテが自分の身体を盾にしてくれたおかげで、俺たちは助かった。

俺はブレスを放ち終わったばかりのゴブリンリーダーに詰め寄り、LV8スキル【クロスブレイド】を発動させる。

オーラを纏った剣が、ゴブリンの身体を十文字に切り裂き、爆発させる。


残りはウォーゴブリン一匹だ。

俺は一度だけ振り返ってヘカテがもう助からないことを確かめる。

悲しみを振り絞るように残ったMPを全て使い、リーゼが魔法を連発する。俺もそれを止はしない。背後に回り込んでひたすら斬り続ける。

程なくして、ウォーゴブリンも断末魔の叫びとともに死んでいった。

戦闘終了の合図が鳴り、探索レーダーの色が緑に戻る。


ゴブリンとの戦闘により、これまでに死亡した治癒術士の数は32人。

そこにまた一人を加える戦果を残して、俺たちは苦い勝利を手に入れた。




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