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Mädchen Lippen    作者: Mayo
Traum
32/32

Traum Ⅴ




「ブルートローゼ国第一皇女がこのような辺境の地へ、たった一人の供をつれて何用ですかな?」



 

 不信感をむき出しにしたリベルハイトの国王は、三人の重臣を従えて威厳溢れる声色でシャルロッテとリシャールに尋ねる。己の国の不幸など微塵も感じさせない、そんな意思が読み取れる、いささか不安定な様子ではあったが。


 

 国王への謁見が許されたのは、遠いところからわざわざやってきたシャルロッテ達を不審に思ってのことだろう。ちらりと見れば出入り口にはしっかりと騎士団が控えている。リシャールは怪しく笑うと、す、と王を見つめ、一歩前へ出た。青空のごときライトブルーの瞳はきらきらと輝き、生き生きしているように見えた。このような表情をするとき、リシャールは誰よりも強い。




「突然の訪問、大変失礼なことと思います。我々がここに訪れた経緯をお話しするととても時間がかかってしまいますし、お互いに生産的なお話しだけした方がよいでしょう。突然現れて我々を信用するなど難しいこととは思いますが、どうかお耳をおかしください。もっとも…あなた方はもはや、我々に頼るほかないとは思いますが」




 そういってにやりと笑うリシャールに、シャルロッテは目を見開く。今日の彼はよくしゃべる。こうも人を挑発したような話し方をするには、おそらく理由があるのだろうが。



「ほう」



 王は髭を撫でつけると、値踏みするようにリシャールを上から下まで見つめる。



「生産的、というと?」



「とぼけないでいただきたい。今この国は大変なはずです。大量誘拐──犯人は、まだ捕まっていないのでしょう?」



 空気が、凍った。





 この部屋にいるだれもが、息を止めたように感じた。ただひとり、シャルロッテを除いて。




「っリシャール! どういうこと!?」



 そんな彼女の叫びを無視し、リシャールは一歩、また一歩前へでる。



「“Mädchen Lippen”…この花の出所を、教えていただけますか」



 王は冷や汗を隠せない。得体のしれないこの男が何を知っているのか、敵なのか味方なのか、混乱しきった瞳は宙をさまよう。


 

 そして王は静かに唇を開いた。重々しく、忌まわしき過去を、語るために。





「…あれは、寒い冬のことだった…」






──『国王、巷で人気のとある花を、ご存知ですか』



 見知らぬ女はいかにも旅商人といった風体で、国王に面会を求めてきた。当時のリベルハイトは今ほど断絶的でなく、外部からの技術は大歓迎といった国風であったため、国王もよろこんでその女を招きいれた。美しく豊な黒髪、あどけなさを残した薔薇色の頬、そしてきらきらと輝く金色の瞳の女は、そう言って国王に瑞々しい花を献上した。



 薔薇のように真っ赤で、百合のように強い香りを放つ花。国王はうっとりとその花を見つめる。



──『“Mädchen Lippen“。少女の唇という名です。それは万能薬と言われ、あらゆる傷・病気に効くとされています』



 女は歌うようにそう言うと、近くに控えていた男を促す。屈強な男たちが大きな箱を運び、ふたを開ける。



 国王は、息を飲んだ。

 


 箱にぎっしりとしきつめられている花。少女のように秘めやかで、美しい。




「すべて、買い取ろう」



 それが、はじまり。





「花を女から買い、城下からたちまち花の噂は広まっていった。誰しもが花を常備品とし、そして民は幸福になった。しかし」





 花は、限りある資源だったのだ。数年たってから、再びあの女が現れる。




──『国王、申し訳ございません。わたくしどもの最新の研究で、発覚したことがあるのです。』




──『“Mädchen Lippen”には、催眠効果があります。今すぐ回収したほうが、よろしいかと』




 国王は驚愕した。今や国民の生活に必要不可欠となっている花を回収するなどほぼ不可能だろう。理由が理由だ。国の威厳に関わる。




「マティアス」


「はっ」


「書面の準備を」


「…かしこまりました」




 そして、おふれが出されることとなる。




【今後Mädchen Lippenは王家の所有物とする。王家の断りなしに入手することを禁ず】






「なるほど」



 話を一通り聞いたリシャールは、ふっと笑顔になると、国王に向き直る。その顔は晴れやかで、そして悲しげだった。




「単刀直入に申します。我々はこの国を救いに来たのです。そうすることで我らの国も救われる。だからこそ、こうして王女自らこの場に出向いた。すべてが終わるまで何も話すことはできませんが、ここはひとつ我々に任せていただきたい。4年前の内乱のこと、花のこと、そして大量誘拐。これらはすべてつながっている。その事実に気づいた方もいらっしゃるのでは? 見たところ、重臣が一人いないようですしね。いや、これはあくまで僕自身の推測ですが。これだけでは信用もしてもらえないでしょうから、我々の手の内を明かしましょう。」




 いったん言葉を切ると、唖然としているシャルロッテにくるりと向き直る。




「姫。我々は、何故この国に来たのですか」




「…お父様が、死者を生き返らせる花があると、」




 姫君の震えた言葉を聞くと、国王は目をむいた。




「生き返らせる!?あの花にそんな力は…!」






「だから!それが真意なんですよ!」






 珍しく声を荒げたリシャールは、静かに激昂しているようだった。鋭い瞳は国王を射抜き、心を見透かす。





「エルヴィーラ。この国を悪化させているのは、かの宗教組織です」















「おにいさま、もうすぐお祭りがはじまるのですって!」



漆黒のドレスに身を包んだ少女はころころと笑いながら、ダンスホールをくるくる回る。



それを楽しそうに見る少年は、頬を上気させて微笑んだ。








「そうか、それはたのしみだね、シャルロッテ」









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