おまけの俺、情報屋になる
アジトは街の外れにあった。
森に飲み込まれた、朽ちた見張り小屋のような建物。
その奥に隠された地下への入口を抜ける。
ひんやりとした空気が肌を撫でた。
薄暗い通路を進む。
やがて川べりに出た。
そのまま川沿いの小道を歩いていくと――
森の中に、ぽつんと一軒家が現れる。
扉を開ける。
ふわりと猫耳が揺れた。
「ようこそ、俺たちのアジトへ」
男が笑う。
「俺はライルだ」
猫耳の男――年齢は俺と同じくらいか。
差し出された手を握る。
「俺は修一。よろしく頼む」
ライルは満足げにうなずいた。
「ここに来るまででテストは済んでる」
「合格だ。――同士だな」
奥から、犬耳の男が現れる。
「ロウガだ」
続いて、エルフ耳の男。
「エルドだ」
三人の視線が、こちらに集まる。
ライルが口を開いた。
「シュウイチ、お前は何者だ?」
「人族にしては異質すぎる」
「目の前で人が殺されそうになってたら、助けるだろ」
そう答える。
「それを獣人相手にやれるのがすごいんだよ」
エルドが感心したように言う。
「人族も獣人も変わらないだろ」
「それに俺は勇者召喚に巻き込まれて、この世界に来た」
「今、城には勇者がいる」
「エルディアの勇者か……厄介だな」
ライルが眉をひそめる。
ロウガが一歩前に出る。
「お前、王国の犬じゃないだろうな?」
「違う」
即答する。
「俺はただの巻き込まれだ」
「役に立たないと判断されたらしくてな」
一拍置く。
「勇者が旅立ったら処分するって話も聞いた」
空気が変わる。
三人の警戒が、ふっと緩んだ。
「……やっぱり同士だな」
ライルが笑い、肩を叩いてくる。
その間も、リュミナはずっと俺の手を握っていた。
「同士」という言葉に安心したのか――
今度は腕にぎゅっと抱きついてくる。
(……完全に懐かれてるな)
「なあ、ライル」
話を切り出す。
「この世界で金を稼ぐ方法ってないか?」
「このままだと、すぐ詰みそうなんだが」
ライルは腕を組み、少し考える。
「シュウイチでもできる方法、か……」
やがて口を開いた。
「俺たちに雇われないか?」
「いや、無理だろ」
思わず苦笑する。
「この世界の常識も分かってないし、荒事もできない」
「問題ない」
ライルはあっさり言う。
「欲しいのは戦力じゃない。情報だ」
「王城の情報を持ってきてくれ」
「どんな些細なものでもいい」
「価値に応じて金を払う」
「どうせ逃げるつもりなんだろ?」
「王城に未練はないはずだ」
(……確かに)
「一緒に召喚された奴らのことは気になるが……」
小さく呟く。
「俺じゃどうにもできない」
「複数いるのか?」
ロウガが反応する。
「五人だ」
「俺以外は、勇者、聖女、聖騎士、賢者」
「勇者チームは四人か……」
ライルが考え込む。
「できれば、そいつらも引き込めるとありがたいな」
「この情報だけでも価値はある」
「報酬は今すぐでもいいが……」
少しニヤリとする。
「次回でもいいか?」
「次回?」
「また来るんだろ?」
「リュミナちゃんもいるしな」
(……確かに)
「そうだな」
苦笑する。
「こまめに顔出すことになりそうだ」
「じゃあ、城に戻るか――」
立ち上がろうとした、その時。
リュミナが手を強く握ってきた。
小さな手が震えている。
離れたくない、と言っているみたいだった。
「……リュミナ」
そっと頭を撫でる。
「連れて行きたいのは山々だ」
「でも今は、守りきれる自信がない」
「ここで待っててくれ」
「必ず迎えに来る」
「その時、ちゃんと話そう」
リュミナはしばらく黙っていた。
やがて、小さくうなずく。
俺はライルを見る。
「リュミナを送り届ける時は、俺も一緒に行きたい」
「そのための金は俺が稼ぐ」
「……少し待ってくれ」
ライルは肩をすくめて笑う。
「お前、すっかり保護者だな」
「いいだろう。待ってやる」
リュミナがぽつりと呟く。
「……ちゃんと帰ってきてね」
生き残るためには、これしかない




