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おまけの俺、処分対象になる

廊下には誰もいない。


(……チャンスだな)


斥候の能力か、気配を殺す感覚はなんとなく分かる。

息を潜め、足音を消しながら移動する。


(見つかっても、トイレを探してたで通すか)


軽く考えつつ、階段を上がる。

上の階。

ひとつの部屋の前に、衛兵が二人立っていた。


(……あそこか)


《遮断の外套》を発動する。

そのまま正面を通る――が、反応はない。


(マジかよ……)


思わず息を呑む。


(このスキル、ヤバいな)


扉の向こうから、声が漏れてきた。

王女の声だ。


「勇者様のおまけはいかがしましょうか?」

「役に立つとは思えませんが」


(……俺のことか)


背筋が冷える。


「勇者様たちと知り合いだから、とりあえず生かしているだけです」

「召喚に巻き込まれた不良因子です。いずれ処分しなさい」


(……処分?)


思考が止まる。


「了解しました。勇者様が討伐に出られた頃を見計らいましょう」

「無駄飯食いは邪魔ですしね」

「聖騎士と知り合いのようですから、彼女には気づかれないように」

「問題ありません。小娘ごとき、どうとでもなります」


くぐもった笑い声。


足がすくんだ。


(……冗談じゃない)


俺はただ巻き込まれただけだぞ。

背中に冷たい汗が流れる。

慌てて気配を殺し、その場を離れる。


(やばい……やばいぞ……)


勇者たちが旅立った瞬間――

俺は“消される”。


廊下を歩きながら、心臓の音がやけに大きく響く。


(異世界転移に勇者召喚……)

(その上、おまけ扱いで処分とか……どんなハードモードだよ)


自室に戻り、ベッドに倒れ込む。

天井を見つめる。


(……ダルガスは?)


声は、返ってこない。


(マジかよ……)

(こうなったら、自分で何とかするしかないか)


しばらくして、扉がノックされた。


「修一おじさん、入っていい?」


美琴の声だ。


「……ああ、どうぞ」


扉が開き、美琴が入ってくる。

心配そうな顔でこちらを見た。


「おじさん、顔色悪いよ? 何かあったの?」

「いや、ちょっと考え事をしてただけだ」


軽く笑ってみせる。

だが、美琴は納得していない様子だった。


「昼食会、終わったよ」

「王女様が、これから勇者たちは訓練を受けて、邪神討伐の旅に出るって」

「……そうか」

「おじさんはどうするの?」


少し言い淀む。


「俺は……何も聞いてない」

「……そうなんだ」


空気が少し重くなる。


話題を変える。


「ところで、邪神ってどんなやつなんだ?」

「詳しくはわからなかったけど……」


美琴は少し考えてから答えた。


「邪神の手先として、亜人がいるって話だった」

「亜人か……」

「エルフとか、そういうやつか?」

「おじさん、そういうの知ってるんだ」


少しだけ表情が緩む。


「まあな」


肩をすくめる。


「で、その亜人が敵ってことか?」

「隣の獣人国が、邪神を崇めてるって言ってた」

「そこから侵攻されてるって」


(……戦争か)


軽い話じゃない。


「美琴」


真剣な声で呼ぶ。


「これはゲームじゃない」

「命のやり取りになる可能性が高い」

「無理はするな。何かあったらすぐ来い」

「……うん」


小さく頷く。


「おじさんも、無理しないでね」


美琴が部屋を出ていく。


再び、静寂。


(……このままじゃ終わる)


王女の言葉が頭から離れない。

“処分しろ”


(何か手を打たないと)


拳を握る。

ベッドから起き上がり、窓の外を見る。

青い空。

現実とは思えないほど澄んでいる。


(……生き残る)


小さく息を吐く。


(絶対に元の世界に帰ってやる)

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