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約束のその先へ

翌朝。


城の大広間に、俺たち召喚組が並んでいた。


見送りに来てくれたのは──

リュミナ、親父殿(ガルド辺境伯)、レネオス王、イリア王女、アリア王女。


そして、ルミナス様が俺の隣に立っている。


いよいよ、帰還の時だ。


ルミナス様が静かに口を開いた。


「修一、準備はいいかい?」

「ああ」

「向こうの時間は“召喚された直後”に戻る。

勇者も一緒に帰すが、あちらの記憶は消してある」


一拍。


「能力は残してあるから、くれぐれも悪用しないように。

向こうの神様からも釘を刺されているからね」

「了解です」


俺は全員を見回した。


「……みんないいな?」

「「「はい!」」」


声が揃う。


その時、俺は悠真の肩に手を置いて、小さく囁いた。


「今日は月曜だ。5日後なら来られるだろ?」


悠真は一瞬きょとんとして──


すぐに理解したのか、ぱっと顔を明るくした。


「……ありがとうございます」


そして次の瞬間。


「イリアさん!」


大きな声を張り上げる。


「5日後、戻ります!

時間を空けておいてください!」


イリア王女は目を見開いたあと──

涙を浮かべて微笑んだ。


「……ええ。待っています」


(……若いな)


思わず苦笑する。


俺もリュミナに向き直った。


「リュミナ。また夜に」

「うん!」


満面の笑顔。


「いってらっしゃーい!」


その笑顔を胸に刻む。


(帰る場所が、二つあるってのも悪くないな)


軽く息を吐き──

右手を上げる。


「影移動」


光が弾け、視界が白に染まった。


次の瞬間。


目の前に広がっていたのは──

見慣れた通勤路。


朝の駅へ向かう人の流れ、

制服姿の学生、車の音、信号の点滅。


(……戻ってきたな)


胸の奥がじんわり熱くなる。


気づけば、小さくガッツポーズをしていた。


視線を上げると──

美琴とひよりが抱き合ってはしゃいでいる。


その後ろで悠真が静かに頷き、


さらにその後ろでは勇者くんが


「え……何これ……?」


とでも言いたげな顔をしていた。


(まぁ、そうなるよな)


俺は三人に軽く親指を立て、


そのまま駅へ向かって歩き出した。


会社に着くと、

久しぶりのデスクワークが妙に新鮮に感じられた。


(……懐かしいな、この感じ)


午前中の仕事を終え、

昼過ぎに少しだけ早退させてもらう。


スマホを取り出し、美琴にメッセージを送る。


『夕方、少し時間あるか?』


すぐに返ってきた。


『了解!』


最寄り駅の喫茶店で合流すると、

三人ともどこか落ち着かない様子だった。


「久しぶりの学校、どうだった?」


俺が聞くと、美琴が笑う。


「なんかさ、“普通”に感動してた」


ひよりがくすっと笑う。


「美琴ちゃん、ちょっとはしゃぎすぎて浮いてたよ」

「え、マジで……?」


悠真は少し照れながら言った。


「僕は……目標ができたからか、勉強に集中できて」

「賢者補正か?」

「それなら、成績上位狙えそうです」


美琴が腕を組む。


「私は体育どうしよう……手加減しないと目立つよね?」

「帰りに軽く走ってみれば?」

「うん、試してみる」


三人とも、

“あの世界で得たもの”を、

この世界でどう使うかを考えている。


その姿を見て──


少しだけ安心した。


「俺はこのあと家に帰って、向こうに行ってみる」


そう言うと、

悠真が勢いよく手を挙げた。


「土曜日、行ってもいいですか!?」

「いいけど……何時だ?」

「7時で!」

「早いな」

「イリアさんに会いたいので……」

「はいはい、わかった」


苦笑する。


「伝えておくよ」

「お願いします!」


美琴とひよりも顔を見合わせる。


「私たちも行く?」

「頑張って早起きしよ」

「じゃあ土曜な」

「うん!」


三人と別れ、家へ帰る。


スーツを脱ぎ、シャツに着替える。

窓の外は、夕焼けに染まっていた。


(……やることは山ほどあるな)


でも──

迷いはない。


(帰ろう)


心の中でそう呟く。


足元の影に意識を落とし、

静かに口にする。


「影移動」


光が揺らぐ。


その先には──

もう一つの“日常”が待っている。


(終)


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