氷結《フリーズ》
「おい、聞いたか?」
「理事長の孫とネクスフィーが決闘するらしいぜ」
「マジで? ってか、理事長の孫って事前テストにいなかったよな」
「なんか飛び入りらしいぞ」
「初日から決闘とかヤバすぎるだろ……」
……めちゃくちゃ目立ってる。
中庭を囲むように生徒たちが集まり、視線が全部こっちに向いていた。
うぅ……帰りたい。
いや、帰る場所ないんだけど。
一方その頃、ウルティアちゃんはというと――。
「ごきげんよう」
なんか優雅に周囲へ手を振っていた。
すごい。
完全に慣れてる。
というか、人気者っぽい。
それに比べてボクは、決闘の流れに流されるままここまで来ちゃっただけなんだけど!?
……どうしよう。
そんなことを考えていると、ウルティアちゃんがゆっくりこちらへ向き直った。
「あらあら、ずいぶん緊張していらっしゃるようね」
余裕たっぷりの笑み。
「怖くなったのなら、今ここで負けを宣言してもよろしくてよ?」
「いや~……」
ボクは首を傾げる。
「負ける気はしないんだけど」
「……は?」
「どれくらい加減した方がいいのかなって」
ざわっ――。
周囲が一気に騒がしくなる。
「おい、今なんて……」
「ネクスフィー相手に手加減?」
「マジかあいつ……」
え?
なんでそんな反応なの?
確かに、ウルティアちゃんは強いと思うけど……
「貴方……!」
ウルティアちゃんの額に青筋が浮かぶ。
「まさか、この私に向かって手加減をするおつもりで?」
「え? うん、そうだけど?」
「その必要はございませんわ!」
次の瞬間。ウルティアちゃんの周囲に、いくつもの火球が浮かび上がった。
熱風が吹き抜ける。
「事前テスト魔術成績一位――」
火球がさらに増えて、大きくなる。
「それがこの私、ウルティア・ネクスフィーですわ!」
おぉ……すごい。
綺麗。
「私を甘く見たこと、後悔させて差し上げます!」
その瞬間、火球が一斉に飛んできた。
「わっ!?」
速い!
ボクはとっさに後ろへ跳ぶ。
ドォン!!
地面が爆ぜて、炎が広がる。
「ちょっ、危なっ!?」
でも、休む暇もない。
次の火球。
さらに次。
しかも、全部正確にボクを狙ってくる。
「すご……」
思わず声が漏れる。
「避けるので精一杯ですの?」
ウルティアちゃんは余裕の笑みを浮かべていた。
「貴方は魔術が使えない。ならば、近づかせなければ私の勝ちですわ!」
その言葉と同時に、さらに火球が増える。
すごい魔力制御。
どうやってやるんだろ。
……あれ?
魔術?
あ。
そっか。
ここ、魔界だった。
ボクはぴたりと動きを止めた。
「――もらいましたわ!」
ウルティアちゃんの火球が迫る。
でも。
ボクは、少しだけ笑っていた。
――ここなら。
気にしなくていいんだよね?
「氷結」
瞬間。
飛んできた火球のすべてが、空中で凍りついた。
「……え?」
ウルティアちゃんの目が見開かれる。
火球は、氷塊の中へ閉じ込められていた。
「どうして……」
「う~ん、やっぱりそっか」
ボクは凍った火球を見つめる。
「消えそうになかったから、氷に閉じ込めるしかできなかったな~」
「なっ……」
「ほら」
ボクは指を鳴らす。
すると、氷の透明度が上がり、中の炎が見えるようになった。
透き通った氷の中で、赤い炎が揺れている。
……わぁ。
なんか綺麗。
ランプとかにしたらオシャレかも。
「氷と炎では、炎の方が圧倒的に有利ですわ!」
ウルティアちゃんが叫ぶ。
その頭上に、さらに巨大な火球が現れた。
「多少魔法が使えたとしても、私の勝利は揺るぎませんわ!」
次の瞬間。ボクらの二倍以上ある巨大火球が飛んでくる。
「うわっ!?」
ドゴォォォン!!
爆炎が中庭を包む。
「飛んだ!?」
「いや、羽が……!」
「出てないぞ!?」
あ。
ボクは、とっさに地面に冷気を叩きつけ、その反動で跳んでいた。
つまり、ただの大ジャンプ。
……って。
「ヤバくない?」
燃えてる。
中庭のあちこちで炎が燃え盛っている。
「これだいじょばないよね!?」
このままじゃ学園が火事になる!
ボクは中庭に向かって手をかざす。
「吹雪!」
次の瞬間。
轟音と共に、激しい吹雪が中庭へ降り注いだ。
――静寂。
気づけば。
辺り一面、雪景色になっていた。
中庭も。
木々も。
……ついでに生徒たちも。
全部、真っ白。
ボクはふかふかの雪の上に着地した。
……あれ?
これ、もしかして。
やりすぎた?




