未来へのフルスイングと悠真の決意
何度も何度も、形を変えて繰り返される不気味な違和感。偽物のルナ、都合のいい幻影、無限に続くかのような足枷。
「この感じ……なんだか、さっきからいくつも同じことを繰り返している気がするわ!」
零はそのバットを構え、おもいっきり何か邪魔なものを払うかのようにフルスイングした。
「オリャァァァァァ!」
何もないはずの空虚な空間へ向けて、渾身のフルスイングを叩きつける。
ズガァァン! と空間そのものが爆ぜ、まるでガラスにヒビが入るかのように、世界にバリバリと亀裂が走り抜けた。
偽りの景色が剥れ落ちるのを見届け、零の「不機嫌」はついに臨界点を突破する。
「分かったわ……もう絶対に騙されないんだから! ルナ! 私の家族の姿を騙るなんて、絶対に許さないわよ!」
零はバットを両手で強く握り締め、腹の底から霊圧を爆発させた。
「わたしを騙すなんて! 良くできたものね。なんだか知らないけど、ふと頭にうかんだわ!」
――我が内に眠りし、古の魂よ。その真なる姿をここに現し、この幻術を切り裂く力を示せ! 絶対にゆるさないんだからぁ! 身の程を知りなさい。我が名は羅刹。って、なに言わせんのよ! わたしは零! マガツを、そして、悠真の為なら世界だって浄化して見せるわ。急急如律令よ!!
羅刹の力を解き放つ神化の真言が響き渡る。
ドォン! と黒と金の神聖なる霊光が吹き荒れ、零の体が眩い光に包み込まれた。巨神のごとき圧倒的な神気を纏い、神々しく輝くその姿はまさに破邪の神体そのもの。
「ハアァァァッ!」
零は幻夢の世界そのものを打ち払うべく、巨大化したバットを縦横無尽に振るった。
ドカァン! ズガァァン! 幾重にも重ねられた偽りの世界が、破裂するような光の粒子となって砕け散っていく。
『な、なぜ見破られたのだ……ッ!? 完璧に騙せていたはず――』
「ハッ! あんなに同じ幻術を見せて、私の大切な家族のふりをして、いつまでも騙され続ける馬鹿がどこにいるのよ! 大体ね。私の家族のことをバカにしないで! ルナはね、落ち込んでいるときは落ち着くまで寄り添ってくれて、元気がないときは気がついて笑わせてくれるようないい子なのよ! 一番分かっている家族がやらないことをあんたがやっていたのよ! 気がつかないと思っているの!」
空間を覆っていた暗雲が光となって完全に霧散すると、零の巨神の姿がスゥと収束していく。
光の残滓の中から現れたのは、いつも通りの絶世の美貌。チェックの超ミニスカートから伸びる無敵の美脚を踏みしめ、零はフッと息を吐いた。
そこは、見覚えのある神社の境内。
目の前の境内には、力なく悠真が倒れていた。
「ふぅっ……相変わらず寝てるのね」
肩の力をスッと抜き、零はバットをバックにしまい担ぎ直した。
(……ルナは、私の大切な家族だもの。あのこの性格くらい、私が一番分かってるに決まってるじゃない)
◇
「ねぇ、いつまで寝てんのよ? この神社の汚れ、きれいに払っておいてあげたわよ」
神社の横手にある石段に腰掛け、零は横で身を寄せ合う悠真の顔を覗き込んだ。
「あんたが起きるのが遅いから……また幻覚じゃないかって、ちょっと心配しそうになったじゃない」
悠真がとまぶたを開け、ぼんやりと零を見上げた。
「れ・い・?」
悠真は急に立ち上がり、辺りを必死に確認する。
「あれ? やばいやつは?」
慌てる悠真に零はなにも教えなかった。
「……ちょっと色々とスッキリしたいし、あんたん家行って一緒にお風呂入るわよ」
「……バカ、お前……裸で入るつもりか……っ!?」
零のその言葉に安全であることを悟った悠真は顔を真っ赤にした。
零は意地悪くニッと笑った。
◇
「入っていいわよ!」
お風呂の脱衣所でしぶしぶ待たされた悠真が恐る恐る唾をのみつつも風呂の扉を開けた。
「残念でした〜! タオルに決まってるでしょ、何勘違いしてんのよ! あ、あははは……っ。」
「ふぅっ。なんだよ驚かせんなよ……安心したぁ。子供の頃ならまだしもさ、流石に高校生でそれはマズいだろ……」
「何言っちゃってんの? 幼馴染でしょ、今更何も変わらないわよ」
呆れ顔の零に、悠真は少し気まずそうに視線を泳がせながら、ポツリと呟いた。
「……お前、相変わらず可愛い顔して無茶苦茶するよな。昔からずっと」
「何も変わってないわ。私があんたを守って……あんたはわたしに守られてばっかり。あんたは昔から頼りがいがないんだから、私がいつでも守ってあげるわよ」
悠真は、じっと零を見つめた。零はジーッとタオル姿を見られていたので、少し恥ずかしそうな顔をした。
「……俺、決めた」
悠真はしっかりと自分の足で立ち上がり、神社の拝殿を見上げた。その瞳には、さっきまでの頼りなさは消えていた。
「俺、この神社の神主になる。……お前より頼りになる、男らしい男になってみせるよ」
「ふふっ、なにそれ! 今決めたの?」
零は楽しそうに笑い声を上げる。
「いいわよ。何かあったらまた頼んなさい。私がいつでもあんたを守ってあげるから!」
「……でもさ、零って巫女さんって感じじゃないよな。見た目はめちゃくちゃ可愛い巫女だけどさ」
「何よ?」
「お前はどちらかというと……まつられる側の『神様』だよな」
「はははっ、なによそれ!」
(完)




