29.始まるイベント
ロボの住む森を出て、そのまま平原を進むこと一時間。
俺たちは無事、遺跡にたどり着いた。
ここは前に行った遺跡よりも、建物の数が多い。
綺麗な装飾が彫り込まれていたのであろう石柱やアーチ、モニュメントは、どれも風化が進んでいい味を出してる。
「この馬鹿みたいな青空に古い遺跡がたたずむ感じ……やっぱファンタジーはこれだよなぁ」
「分かる」
スピカがこくこくとうなずく。
遺跡の最奥には、紋様の彫り込まれた石床。
目的はここだ。
紋様の真ん中に立つと、その中央部分がゆっくりと降下を始める。
スピカに先導されて行った遺跡と同じやつだな。
「おお……すげえ」
昇降機が降りた先にあったのは、大きな両開きの扉。
石なのか金属なのか分からない不思議な素材の扉にも、意味深な紋様が彫り込まれてる。
いやー、こういうのワクワクするなぁ。
ただ、俺たちの目的はここじゃない。
「これだな」
用があるのは、扉の両側に埋め込まれた金属板だ。
左側にある板の穴に、ロボからもらった六角柱の宝石を差し込む。
すると、紋様に沿って光がシュバーッと走り抜けていった。
そしてゴゴゴゴゴ、と遺跡が重たい音を鳴らし始める。
「お、おおお、おおおおおおお……っ!」
「揺れてる」
その壮大な演出に四人、思わずキョロキョロしていると――ガコン。
金属板の穴から、単三電池を四本まとめたパックが出てきた。
「……自動販売機みたい」
壮大な演出のわりに雑な感じで出てきた、電池パックを手に取る。
これもマンガンだ……。
「と、とにかくこれで電池は手に入ったな。ずいぶんあっさりだったけど、あとはロボのところに戻って…………あれ?」
「どうしたの?」
「なんでだろう。この電池、インベントリに入らねえ」
「そうなの?」
雪村が首を傾げる。
前に【多重影分身】を覚えに行った時の巻物と、同じ状態だ。
インベントリに入らないアイテムの特徴は、手で持つにしろ、ポケットとかに入れるにしろ、所有者が死んだらアイテムをその場に『落として』リスポーンすることになる。
要は、所有権を失う【アイテムロスト】が起きるってことだ。
「……まあいいか、とにかくロボのところに戻ろうぜ」
電池をポケットに入れて、俺たちが昇降機へ戻ろうとした――――その瞬間。
『――――緊急イベント発生!』
「なんだ?」
ワールドアナウンスが始まった。
それは、運営から全プレイヤーに送られるメッセージ。
『――現時刻より、ラフテリア南部の離島ヘイゼルにてバトルロワイアルを開催します』
「バトルロワイアル……?」
『――ラフテリアを始めとした各主要地点からのポータル移動に、ヘイゼル島へのルートが解放されました。またヘイゼル島には月の民に関わる遺跡も発見されており、参加者には様々な形でイベントアイテムが贈られます』
「ヘイゼル島って、ここのことだよね?」
『中には遺跡の起動アイテム等もございますので――――皆さま、奮ってご参加ください』
「起動アイテムって……まさか」
俺は大きな扉の前に立ち、中央部分の紋様に目を向ける。
するとそこには、ちょうど単三電池が四本差し込めるサイズのくぼみ。
「やっぱり!」
「すぐにイベント参加者たちがやって来る。バトルロワイアルが前提な以上、誰もが見敵必殺でいるはず」
「しかも、電池はアイテムロスト有りか」
電池が遺跡に関わるアイテムだってことは、知ってる人も多いだろう。
そしてイベントが始まったことで、この電池は奪い合うためのアイテムになってしまった。
「……今ここで電池を使えば、遺跡を起動させてその中身を確実に独り占めできる」
不意に、ルリエッタがつぶやいた。
「でも、それって……」
そう。ここで電池を使うってことはロボが止まるってことだ。
「遺跡で得られる装備やスキルを取るか、ロボのためにプレーヤーたちと戦うか……」
ルリエッタはいつになく真剣な目で、俺を見つめる。
「わたしは、翔太郎に選んでもらいたい」
「ルリエッタ……」
電池を届けるには、バトルロワイアルを切り抜ける必要がある。
ロボのことを説明しようにも、この状況じゃ誰も話を聞こうとはしないだろう。
隠れてイベントが終わるのをやり過ごすってのも無理だ。ロボにはもう時間がない。
このヘイゼル島に集まって来てる多量のプレーヤーを出し抜く以外に、手はないってことだ。
「……それから数年」
「スピカ……?」
「人の訪れない離島にたたずむ、ツタに飲まれた一軒家。止まったロボの肩に乗り、不思議そうに首を傾げるリス」
「…………」
「でも、もうロボは動かない…………永遠に」
「そういう心に来る話で誘導しようとすんなって!」
ゲーム好きなだけあって、すげえ切ないイメージをぶち込んできやがるな!
「悩んでそうだったから」
「俺が考えてたのは、この状況をどう潜り抜けるかだ」
「……と、いうことは」
ルリエッタが、ゆっくりと顔を上げた。
「電池は持って帰る」
「翔太郎ーっ!!」
その表情をパァァァァと色づかせ、飛びついてくるルリエッタ。
「ロボを助けるんだな!?」
「一宿一飯一ロボットダンスの恩義があるからな。帰るぞ、ロボのところに」
「おおー!!」
気合十分の返事をするルリエッタに、雪村、スピカもうなずいた。
「切り抜けてみせる……拳で」
「魔法を使え。そうと決まったら急ぐぞ!」
俺たちは足早に昇降機へ乗り込む。
「接敵した時の戦闘パターンを考えたから、聞いておいてくれ」
「それなら私にも案がある」
スピカと共に、これまで得たスキルを振り返りつつ確認。
地上に戻った俺たちは、そのまま駆け足で遺跡を出た。
「うわ……」
そこに見えたのは、イベント参加者たちの第一波。
大量のプレーヤーが、砂煙を上げながら遺跡に押し寄せてくる。
そうなれば当然――。
「おい、先客がいるぞ!?」「もう遺跡に入り込んでいたのか!」「それなら、やるしかねえな!」
この位置づけだと、俺たちはどう見ても遺跡から出て来た側だ。
バトルロワイアルと銘打たれている以上、戦わない理由がない。
「やれ! やっちまえー!」
雄たけびと共に、突撃してくるプレーヤーたち。
「頼んだぞスピカ。まずはあいさつ代わりだ!」
「任せて」
もちろん地上に戻った瞬間から、準備は始まってる。
スピカは角砂糖を一つ口に含むと――。
「――――水星逆行」
魔法の発動と共に、大地が割れる。
一直線に吹き上がる強烈な水刃が、迫るプレーヤーたちをど真ん中からかち割ってみせた。
「なんだ……これ」
わずか一撃で三分一ほどが壊滅。
驚きふためくプレーヤーたちはしかし、止まらない。
「止まるなあ! 大魔法は詠唱に時間がかかる! まずはあの魔法使いを倒すんだ!」
「そうはさせないよ!」
そんな群衆に向けて声をあげたのは、柱のてっぺんに立った雪村。
「放っとけ! 忍者一人くらいなら問題ない!」
「それは……どうかな」
派手な登場をかました雪村は静かに笑うと、キレのいい動作で三つ『印』を結ぶ。
「ぽむぽむ流奥義――――多重影分身!」
スキル発動と同時に、ズラリと現れる雪村の分身たち。
スピカの占星術で『知力』を上げ、一時的にMPも増加したことでその人数は普段以上。
壮観な光景に、プレーヤーたちが息を飲む。
「ぽむぽむ流上忍、四条雪村…………参る!」
雪村の名乗りと同時に、百を超える分身が一斉に走り出す。
「な、なんだよこのスキル!? 分身全部が本物だぞ!?」
回避の鬼、雪村の早く機敏な挙動を丸々再現する分身たちに、プレーヤーたちは次々に落とされていく。
「構うな! まずは後衛だ! とにかくあの魔法使いを叩け!」
「任せろ!」
その言葉に、後方から駆けつけて来た新規参戦者たちが呼応。
雪村の分身網を避けた後続が、突撃してくる!
「オラァァァァ!! 魔法使いと冒険者なんて、近づいた時点で終わりだろうがぁぁぁぁぁ…………うおっ!?」
「う、おおおおおおおお――――ッ!?」
分身網を抜けて来た数十人のプレーヤーたちが、一斉にすっ転ぶ。
大魔法からの多重影分身。
二人が稼いだ時間でもちろん俺は出しまくってた、粘液を。
「う、動けねえっ!」
「なんだよこれ!? こんなスキル聞いたことねえぞ!」
「いやー! 何よこれ気持ち悪い! 最低! 最悪っ!」
うん、ちょっとヒドいことを言ってる女子もいるけど……全然効いてねえからな!
「スピカ、いけるか?」
「問題ない」
短く応えて、再びスピカが杖を掲げる。
「――――氷天乱舞」
晴天の下、舞い始めた氷片がキラキラと陽光を反射する。
次の瞬間、吹き荒れる猛烈なブリザード。
粘液にもがくプレーヤーたちを、一網打尽にする。
「…………なんだよ、これ」
俺たちの猛烈なたたみ掛けに、さすがに茫然としだすイベント参加者たち。
「よーし! 今のうちにこの場を離れるぞ!」
「「「おおー!」」」
動けずにいるプレーヤーたちを置き去りにして、俺たちは走り出す。
あとは森の中を隠れて進めば、ほとんど接敵せずにロボの家に戻れるはずだ!
「…………帝王獅団だ」
そんな中、一人のプレーヤーがつぶやいた。
次の瞬間駆け抜けていく強烈な衝撃波、あがる悲鳴。
見るからに豪華な装備のプレーヤーが、悠然と俺たちのもとにやって来る。
「来やがったぞ――――帝王獅団だ!」
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