28.ロボとお食事会
「行くぞ! 大魔神斬りだぁぁぁぁ!」
スカッ。
「……また外れか。これで三回連続だな」
もう一度霊角の短剣をかかげて、【大魔神斬り】を発動。
今度はパカーン! と心地よい音を上げて丸太が割れた。
「うわぁ、すごいね」
長さ50センチにもなる丸太が真っ二つになったの見て、雪村が興味深そうに声をあげる。
「そう思うなら、丸太にクナイを投げるのはやめてくれ」
「どうして?」
「世間ではその距離から適当にクナイを投げて、一度も的を外さないヤツの方がすごいんだよ」
「そうかな?」
クナイでお手玉しながら気が向いた時に丸太に投げる。
それが全部綺麗に刺さるって、マジで半端ねえな。
「でもこれ、結構面白い組み合わせになりそうだ。防御無視のクリティカルを、攻撃力の高い霊角の短剣で出せるってのは悪くない」
下手な剣士の攻撃スキルなんかより、圧倒的な一撃必殺感がある。
ルリエッタが言ってたように、『てきのわざ』は強力だ。
弱い冒険者じゃないと使えないようになってるのも、よく分かる。
「んで、あいつらは何やってんだ?」
「チェスみたいなゲーム」
料理ができるまでの時間を、ログハウス裏手の庭で潰す俺たち。
スピカとルリエッタは、木陰の丸テーブルで向かい合っていた。
「……もう一回」
「望むところだ!」
にこにこ楽しそうなルリエッタに対して、スピカは……なんか白目をむいてる。
パチパチと、交互に駒を進めていく二人。
やがてスピカの手が、ピタリと止まった。
「……もう一回」
そして再戦を申し込む。
「なんかずっとあんな感じだよ」
「ルリエッタってAIだもんな。この手のヤツは相当強いんじゃないか?」
ちょっと見に行ってみるか。
「……もう一回。私は天才賢者。次は本気で勝ちにいかせてもらう……っ!」
そう言って静かに息を吐くと、その目を鋭く光らせるスピカ。
おお、迫力がすげえ。
「では、ここだ!」
ルリエッタが最初の一手を打つ。
「…………フッ」
スピカがそれを見て、笑みをこぼした。
「もう一回!」
「まだ最初の一手だろ」
「このまま続けても、122手後に負ける」
「お前らの脳内どうなっちゃってんだよ」
初手を打たれた時点で負けが見えちゃってるんだったら、もうやめとけ。
よほど連敗がこたえたのか、盤の上に突っ伏してしまうスピカ。
「皆さん、料理ができまシタよ」
すると、ちょうどいいタイミングでエプロン姿のロボが呼びに来た。
ログハウスに戻ると、厚い一枚板のテーブルには数々の料理が並んでいた。
「おおー!」
「こりゃすげえな」
使ってる食器の可愛さもあって、なんかアルプスの家庭料理みたいな雰囲気になってるぞ。
どれもうまそうだ。
「乾杯しようよ!」
「それなら雪村、音頭を頼む」
そう言うと雪村は「こほん」と、かしこまってからグラスを持ち上げた。
「それでは皆さん、お手元にグラスをご用意ください。ぽむぽむ流の今後共益々の発展を願って、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「…………」
「どうした、ロボ」
「ぽむぽむ流とはなんデスか?」
「忍術流派だよ」
「……もしかして、笑うところでしタカ?」
「違うよ! ぽむぽむ流は冗談でも何でもない! ちゃんと存在する由緒正しい忍術なんだよ!」
「マタマタ御冗談を」
「冗談じゃないんだってー!」
ロボットにも冗談と認識されるぽむぽむ流よ……。
「翔太郎! 唐揚げおいしいぞ!」
「基本唐揚げに外れはないからな。ちなみにレモンはどうした?」
「まずはそのままで半分食べて、後半に使うつもりだ」
「こいつ……デキる」
初見で味変を習得するとは……。
頬をふくらませたまま得意げにダブルピース。
早くも高い唐揚げ適性をみせるルリエッタ。
「翔太郎くん、オムレツ半分にしたから食べてね」
「ああ、シチューも半分にしといたぞ」
「どうだった? おいしい?」
「ああ、うまい」
「本当!? オムレツもおいしいよ! ふわっふわ!」
心底うれしそうな雪村が寄こして来たオムレツとシチューを交換する。
そんな鼻歌交じりで……よほど質素なものばかり食べてきたんだろうなぁ……。
「で、ロボは食わないのか?」
「ハイ、ワタシは食事を取りまセン。代わりと言っては何デスが、踊りで盛り上げさせてもらおうと思いマス」
「……踊り?」
ロボは上半身を左右に回転させながら、腕を上げ下げし始める。
「ロボットがロボットダンスをやるのか……」
「完璧でショウ?」
「いやロボが踊るんだったら、それはもう全部ロボットダンスなんだよ」
そんなロボを見て、ルリエッタはさっそく隣でロボットダンスの真似を始める。
なんだかんだで盛り上がるロボハウス。
すると俺たちの足元を、何か小さな動物が駆けて来た。
「リスだー!」
ととと、と駆け寄ってきたリスは、そのままロボの肩に乗る。
ロボがパンを千切って与えると、さっそくかじり付いた。
「なにこれ、すげー癒されるんだけど」
「分ふぁる」
両手持ちハムを口に詰め込みながら、こくこくと首肯するスピカ。
古いロボットと小動物のコンビネーション。
なんでこの組み合わせって、こんなにロマンを感じるんだろう。
「でも、自分は食べないのに料理が得意で、しかも食材まで用意してあるってどういうことだ?」
「準備は欠かせまセン。博士がいつ帰って来てもいいように」
ロボの言葉に、ルリエッタがピタリと動きを止めた。
「……ロボは、誰かの帰りを待っているのか?」
「ハイ。ワタシは月の民の研究をしている博士と共にこの島にやって来まシタ。ここヘイズル島にも遺跡があり、その調査のためにこの場所に家を建てたのデス」
なるほど。
こんなところにロボットが住んでたのには、そういう理由があったのか。
「今から3698日前。博士はこの家をワタシに託し、新たな遺跡の調査へと向かいまシタ」
「博士のいない十年間。ずっとこの家を一人で守ってきたんだな」
「その通りデス」
しみじみとうなずくルリエッタ。
花が綺麗に剪定されてるのも、掃除が行き届いてるのも、それでか。
「……博士、早く帰って来るといいな」
ルリエッタは、真っすぐにロボの目を見てそう言った。
「ハイ。しかしもうすぐ家の維持はできなくなってしまいマス」
「なぜだ?」
「もう、電池が切れそうなのデス」
「電池なら持っているぞ!」
そう言ってルリエッタは、インベントリから電池を取り出してみせる。
「これは型が違いマスね。ワタシの動力源になっているのはが単三電池デス。単三電池を四本使用しマス」
「単三を四本って……」
マジでどうなってんだよ、この世界の電気事情。
「その電池はもうねえの?」
「電池自体は、遺跡の倉庫にまだあるはずデス」
「取りに行きゃいいんだろ?」
「この家の留守を任されているので、それはできまセン」
「そういうことか……」
博士からの指示を全うすることが最優先だから、ここから動けないってことなんだろう。
「ロボはあとどれくらい動けるんだ?」
「六時間ほどデス」
「ギリギリじゃねえか」
「ロボットダンスには、多くの電気を必要とします」
「なぜ踊った」
「翔太郎! それなら代わりにわたしたちが電池を取りに行こう!」
「そうするか。ご馳走にもなったことだし」
「それがいいね」
「私も同意する」
「本当ですカ? 助かりマス」
「いいってことよ!」
ルリエッタが親指をビシッと立ててみせた。
「そうと決まったらさっそく行こう! 待っていてくれ、必ず電池を持って来るぞ!」
そう言って拳を突き上げる。
なんか、今回はいつも以上に気合が入ってんな。
「よし、行くか……ってスピカ、そのハム網どうするつもりだ?」
スピカの手には、ハムを縛ってた網が数枚握られてる。
「後ではむはむする」
「……オーク城の時みたいならないよう、こっそりやってくれよ?」
「問題ない」
ちょっと恥ずかしそうにしながらも、そう言ってハム網を手にログハウスを出て行くスピカ。
「杖を忘れて行くなって」
いきなり問題発生してんじゃねーか。
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