六朝元老4話その2
六朝元老4話その2
能登島さんの作業車の中。
「チャイナ7は。基本的に地上に出なくても、どこにでも行ける…」
シーフーエは、ワークマンにはまり、全身ワークウーマンになっている。
「…地上に居るとか、映像は全部影武者と考えて良い」
脳無線ランで、空中に浮かんでいるのは北京の立体地図。
坂井がビールの小瓶を手に持って、地図を差す。
「シー。モグラは地上に追い出せば良い」
シーフーエは、シーと呼ぶ事に決定された。
「坂井さん。それ何飲んでるんです?」
「地ビール。え~岐阜麦酒醸造って書いてある、ほらっ」
新品を高城に投げる。
Euonymusとラベルにある。
「なんて読むんだろう?」
「見せて…」
シーフーエが高城から取り上げる。
「ユーオナーマス。ジャポニカスを付ければ、植物の¨正木¨の学名。ニシキギ科ね。ギリシャ語からラテン語に転じて¨良い名前¨が意味」
シーフーエは、プルリングを引っ張って封を切り、ラッパ飲みした。
「おいしい!はいっ」
高城に瓶を渡す。
「そもそも。北京に居るかどうかを知る方法ですね」
高城はユーオナーマスビールの2本目に入っている。
「影武者がやってくれるんなら。俺だったら、中南海の地下から出ないけどな」
「本人じゃないとダメな時が有るのよ」
「シー。例えば?」
「非合法活動を指示する時とか敵を味方に引き入れる時」
高城は鮎の塩焼きをムシャムシャ食べ終わって言った。
「僕が味方になるって行けば、本人来ますか?」
シーフーエは眉を寄せた。
「だめ。行く気でしょ?行かせないから」
坂井が慌てるシーフーエを面白がった。
「俺なら、高城を北京に入れないな。中国共産党は壊滅する」
黙っていた能登島が口を開いた。
「シー。シーフーエ宛に暗号化信号が来てる。流体コンピューターでも30分掛かる。シーなら、解凍キーを持ってるだろう?」
「有る」
ギターケースの中から、ギターチューナーを取り出した。USBを能登島から受け取り、スロットに差した。
北京語が流れ、流体コンピューターが自動翻訳する。
ー高城。君はチャイナ7が敵と思っている。そう仕向けたのは私だ。チャイナ7にそう指示を出した。私は誰か?名前はない。便宜上チャイナ0(ゼロ)と呼ばれている。ロシアに共産党を作ったのは誰か? レーニン?違う。伊東博文だ。明石大佐に100万円持たせて、ロシア共産党を作った。では?中国共産党を作ったのは?毛沢東?違う。幣原喜重郎だ。なぜ?自由主義国家をロシアと中国に作る為には、現地社会を徹底的に破壊する必要があると考えた。あらゆる外交政策や現地工作をしても、現地社会は権利を得る代わりに、義務を果たしルールを守る社会にならなかったからだ。しかし、現地社会の破壊は間違いだった。現在も現地社会は破壊されていない。むしろ共産党政権を倒し、現地社会は世界を飲み込もうとしている。何の技術も開発する事なく、何のルールも守る事なく、盗み奪い食い尽くす。世界に盗み奪い食い尽くす物が無くなるまで。破壊するのでなく、世界から隔離し現地社会の国際化をしないだけで良かった。そうするには、現地社会の破壊を目的に作られた共産党を消滅させる必要が有る。戦争に依らず、国際管理下に置かなければならない。
君にその任務を担って貰いたい。シーフーエと共に、私の元に来て欲しいー
「何が言いたいんだ?イカれてるなコイツ。さっぱり解らん」
坂井は4本目のユーオナーマスビールを開けた。
「敵がハッキリしたね?」
シーフーエは高城を見た。
「そうだね」
「高城。誰が敵なんだ?」
「チャイナゼロです。この招待状、受けましょう」
能登島が厳しい顔でうなづいた。