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社畜の姫(JK)が変態です。今日も彼女に勝てません  作者: 緋色の雨


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エピローグ

 

 本日二話目の投稿となっています。

 最新話へ飛んでの読み飛ばしにご注意ください。

 あれから数日が過ぎた。蒼依ことHimeが、愛読していた小説の作者を追い掛けて日本にやってきたという噂は既に下火になっている。


 もともとはHimeのファンが嫉妬で流した噂でしかなく、Himeのファンにとってその一件は禁忌とも言える話題だったことが理由に挙げられる。


 だがなによりの理由は――

 Himeがそんな理由で日本に行くはずがない。そもそも、どうやって小説の作者をリアルで特定したんだよ? 嫉妬に狂ったファン達ですら特定出来なかったんだぞ。

 ――というわけである。


 ちなみに、蒼依は実際に作者を特定したわけだが――その理由を知っているのは蒼依本人と沙月。それに、陽向が予想しているくらいだろう。


 お姫様みたいなんて理由で、子供のころに仲良くしていた姉弟から姫ちゃんと呼ばれたことがある蒼依は、小説投稿サイトで陽向の小説を読んだとき、その内容にデジャヴを感じた。


 だからAoiというハンドルネームでいくつか質問して作者が陽向だと確信した。その後は、沙月に連絡を取り、陽向の状況を知っていまに至る――という訳だ。


 私は貴方が書いた小説のヒロインのモデルだと遠回しに打ち明けた結果、小説のヒロインが具現化したと主張していると陽向に誤解されたときは戸惑ったが。

 なんにしても――


(まぁ結果的には良かったのかな?)


 夢を叶えていないことに後ろめたさがあった。なにより、陽向の夢を潰してしまったかもしれない事実に罪の意識を抱いていた。


 そういう意味では、沙月に雇われた社畜姫というポジションは気に入っている。蒼依は陽向に罪の意識を抱いているが、罪滅ぼしで一緒にいるとは思われたくない。

 だから、陽向と自分が夢を叶えるまではこのままでいいと、そう思っている。


(もっとも、ライバルもいるわけだけど……)


 蒼依は中庭にやってきて周囲を見回した。そこには蒼依を呼び出した本人――クリスがどこか思い詰めたような面持ちで待っていた。


「お待たせ、クリス。私に話があるって聞いたけど」

「蒼依――すみませんでした」


 クリスが唐突に頭を下げる。

 心当たりがない蒼依は首を傾げた。


「むしろ、私の方がクリスにお礼を言わなきゃいけないと思うのだけど。遅くなったけど、ありがとうね。陽向の件で協力してくれて」


 クリスと一樹は当然、Himeが作者を追ってきたという噂が真実であることに気付いた。そのうえで、陽向が悪意に晒されないように、誤魔化す手伝いをしてくれたのだ。


「陽向のためですから、気にしなくていいデスよ」

「ふふっ。陽向のため、それはつまり私のため、ということかしら?」

「ふふふ、なにを言っているのデスか、蒼依は。――当然じゃないデスか」


 笑顔で睨み合う。

 二人の間に火花が飛んでいるように見えるのは果たして錯覚なのかどうか。美少女二人という組み合わせに遠巻きに盗み見ていた者達が逃げていく。

 それを見届けたクリスが殺気を消して、ふぅっと溜め息をついた。


「まあ……私は一度振られたんですけどね」

「陽向はその辺りハッキリしてるからね。私の勝ち、と言いたいところだけど……」


 迷って後悔するくらいなら、決断してから後悔しろ。

 陽向が書いた小説の主人公、裕弥の口癖である。裕弥は姫だけを見ると決断する。陽向の書いている小説の作風的に、それはフラグでもなんでもない純粋な想い。

 裕弥が姫から離れることはあり得ないだろう。


 だがここは現実で、物語のように綺麗に纏まるとは限らない。実際に格好よく決断しても、結果的に後悔する可能性もありうるのが現実だ。

 そして――


「私も、まだ諦めていませんよ?」


 その機会をクリスが逃すはずはない。


「……言っておくけど、私も負けるつもりはないよ。それに、物語みたいにハーレムエンドを認めるつもりもないからね? 友情エンドなら認めてあげるけど」

「そうですね、負けたメインヒロインが可哀想デスからね」

「あら、負け確定のサブヒロインが言ってくれるわね」


 二人は再び笑顔で睨み合い、バチバチと火花を散らす。

 最初に相好を崩したのはクリスだった。


「どっちにしても、私のライバル役はひとまずおしまいですね。陽向にフラれてしまいましたし、また別の手を考えることにいたします」

「……そんなこと言って、フラれるのも計算のうちだったんでしょ?」


 クリスがどれだけ献身的な行動を取っても、陽向はそれが恩返しの一環だと考える傾向にあった。クリスは一度告白して振られることで、その流れを断ち切ったのだ。

 罪滅ぼしではなく仕事だと言い張った蒼依と似たところがある。


「ご想像にお任せします」

「まったく。……と言うか、最初に私に謝ったのはなんだったの?」

「貴方が陽向に危害を加えるつもりかと疑っていたことデスよ。でも、貴方が陽向のために先輩に怒ったのを見て、それは間違いだって気付きました」


 陽向を思う同志に認められて嬉しくないわけじゃない。だが、蒼依はクリスの称賛を複雑な思いで受け取った。蒼依もまた、過去のトラウマを引きずっている。


「私が陽向くんを傷付けたのは事実なんだけどね」

「違います。小説の件は私も初めて知りましたけど、蒼依のせいじゃないデスよ。もしその件で蒼依のことを責める人がいたら、私が文句を言ってあげます」

「……ありがとう、クリス。でも、そうやって私に貸しを作ろうとしてもダメだよ。陽向くんの件で手を抜いたりはしないからね?」

「それは残念デスね」


 クリスが肩をすくめ、蒼依もまた笑みを零した。


「まぁ……私もしばらくは、陽向くんが小説を書くお手伝い、かな」

「その件なら、もちろん私も手伝いますよ。あぁでも、そうしたら今度こそ、サブヒロインがヒロインから王子様を奪ってしまうかも、しれないデスけどね」

「あら、ヒロインから王子様を奪おうとして負ける役がやりたいなんて物好きだね」


 二人がライバルとして認め合った。それからほどなく、陽向はとある女性と付き合うことになるのだが――それはまた別の話である。

 

 

 お読みいただきありがとうございます。

 緋色が普段書かない、ひたすら甘い小説を目指したのですが、楽しんでいただけたでしょうか?

 本作はひとまず、これにて完結となります。面白かった、続きが気になるなど思っていただけましたら、ブックマークや評価をポチッとしていただけると嬉しいです。

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