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幕間:その二十四 とある勇者(妹)と魔物(兄)の話 ~第四話~

「ワタシ、けびんノコトガ心配デ町ニ行コウトシマシタケド、人ガ皆、殺気立ッテイテ近付ケマセンデシタ」


 沈痛そのもの表情で俯くスーリア。


「殺気立つ……兄さん?」

「責任を痛感しております」


 夏樹が冒険者たちを襲ったせいで、町、というよりも地域全体が魔物への攻撃色を強めた結果だ。


 スーリアは様子を探ることすら満足にできなり、そんなある日、魔物狩りをしていた冒険者たちと遭遇してしまう。美しいラミアは特に富裕層から人気があり、生け捕り目的の冒険者と戦闘になったスーリアは、勝利こそしたものの決して軽くない傷を負ってしまう。


「ナントカ人ノ目ガ届カナイ場所ヲ探シテイタトコロヲ」

「おれが助けたというわけなんだ。初級程度だが回復魔法も使えるしな。誓って言うが、彼女には一切手を出していません」

「兄さんのベッド下の参考書には寝取りものも多かったですが?」

「人の趣味嗜好を暴露しないで!」


 ケビンが戻った町の名はホライ。由宇に協力を依頼してきた町である。


 ホライは小規模と中規模の間くらいの町で農業を主要産業とし、現在は地域を治める貴族が重税を課してきたせいで、町の生活水準が下がっているという。無償で魔物討伐を行う勇者は、さぞかし救いの女神に見えたに違いない。


「おれの好みとか趣味とかは置いといてだな」

「参考書の女の子は胸が大きい子が多く、髪型は」

「お願いですから置いといて! おれはスーリアを助けたい。行商人のケビンがどうなったかを調べたいんだが、おれもスーリアも魔物だから難しいんだ。由宇、協力してくれないか?」

「もちろん協力します。こんな一途な想いに手を貸さないなんてありえませんから」

「なにか協力できることは」

「魔物の兄さんにできること、ですか。そうですね……相手の警戒心を下げる魔法とか使えますか? 口を割らせるための幻覚魔法も」


 残念ながら夏樹の使える魔法は直接攻撃系の魔法ばかりだ。どうやら荒事にしか役立てそうにないと悟った夏樹は、ジャック・オー・ランタンのアイデンティティともいうべきランタンを渡すことにした。


「これを失くしたら、兄さんはただの動くカボチャですよ」

「ランタンは本体じゃないから!? 違くて、このランタンは灯った場所にジャック・オー・ランタンを召喚することができるアイテムなんだよ。町に入った後に呼んでくれ。猫の手ならぬカボチャの手だが、人手にはなるだろ」

「アノ、けびんノコト、ヨロシクオ願イマス」

「もちろんです。それで、彼の持ち物は持っていませんか?」


 スーリアの願いに、夏樹と由宇は力強く頷いた。




 ホライの町の町長は元冒険者だ。仕事中のケガで二度と剣を握ることはできなくなったが、生活に支障が出るようなダメージは残らなかった。


 十分に生活できる財産を築いてから引退した彼は、他の冒険者たちからも尊敬を集める身だ。冒険者ギルドにも顔が利き、かつての依頼を通じて貴族にもコネがある。更に出入りの商人から袖の下を受け取り、利殖に励むという抜け目のなさも併せ持っていた。


 その町長は歴戦の人物に相応しい眼光と、権力におもねる諂いの眼光を織り交ぜて、由宇と向き合って座っている。


 両者の間にあるテーブルの上には、「どうぞお納めください」と言わんばかりの金貨の詰まった袋が置かれていた。依頼料は出せないが当方からの気持ちです、とのことだ。


「ジャック・オー・ランタンは見つからなかったというわけですか?」

「痕跡すら見つかりませんでしたよ。そちらの情報は信頼できるのですか?」


 涼しい顔で由宇はとぼけて見せた。こちらから先に相手を疑うことで、向こうが疑いの顔や視線を向けてくることを防いでいる。


「いや、なにしろ多くの人たちからの情報が寄せられたものですので、その、確かな信頼度かというと……ジャック・オー・ランタンがいることは確かなのでしょうけど」

「ではケビンという行商人について、なにかご存じなことはありますか?」


 ピクリ。町長に浮かんだ動揺は微かなものだったが、由宇は見逃さなかった。


「町長?」

「ああ、いや、その行商人でしたら多少は知っています。あちこちを旅して回っておるようでして、ギルドに出入りしたこともあったようですな。私も以前に一度だけ会ったことがあります。なかなか見所のある若者でして……彼がどうかしましたか?」

「この町を拠点として、周辺の町や村を回っていると聞きましたので。なにか情報を持っているのではないかと思いまして、一度会っておきたいのです。どこにいるかご存じですか? 他の行商人の方もご紹介いただければありがたいのですか」

「そういうわけですか。少しお待ちください。部下に確認を取りましょう」


 町長は穏やかに告げて部屋の外に出ていく。一芝居を打ったことは明らかだ。なぜなら町長の気配は扉の外に出たきり動かなかった。どこにも動いた様子もなく、誰かと接触した風もない。感じられるのは、室内の由宇を探る陰湿な気配くらいだ。


 丁寧なノックの後に入室してきたのは、秘書の女性だった。由宇が魔物討伐の要請を受けたときも同席していた美人秘書で、彼女は由宇の前にティーカップを置く。町に流通している茶は安物ばかりでも、さすがに勇者に出す茶はしっかりしたものだ。


「もう間もなく、町長も戻ってくると思いますので」

「ええ、そのようですね」


 まさしくその通りだった。一仕事終えたかのように、額をハンカチで拭っている。あまりの三文芝居に、由宇は噴き出すのを我慢するのに結構な努力を必要とした。


「お待たせしました、勇者様。ケビンでしたな、彼なら一度戻ってきましたが、今度は王都のほうに行って一旗揚げるといってすぐに出かけたようですよ」

「そうですか。実は森でこれを見つけまして」


 由宇が町長室の机の上に置いたのは、小さなポーチだ。将来は自分の商会を持つことを夢見ていたのか、ポーチには馬を模した手書きの意匠があった。


「これは……確かに彼のものですね。では、彼はもう既に」


 町長はポーチを抱きしめて慟哭を吐き出した。


「ああ! なんてことだ。では彼はもう死んでしまったというのか。立派な夢を持っていたあんな若者が、なんて不幸だ! 勇者様、何卒お願いいたします。彼のような若者が二度と不幸な目に遭わないよう、一刻も早く魔物を退治してください。そのためなら私もこの町も協力を惜しみませぬ」

「必ず討滅します」


 由宇は勇者に相応しい返事をして、町長室を後にした。町長の家を出た後はさっさと細い路地に入り、日本では絶対にヒットしそうにないダサいデザインの革鞄からランタンを取り出した。


「どう思いますか、兄さん?」


 なんとこのランタン、離れた場所にいる相手と話をする機能までついている。話ができるのはランタンの持ち主である夏樹と、夏樹のすぐ近くにいることが条件だが。


『いや明らかに嘘だろ。ケビンはすぐにスーリアのところに戻ってくるって言ってたのに、王都になんか行くわけがない』

『行クンダトシテモ私ニ相談ハ絶対ニシテクレマス。私タチノ未来ナンデスカラ』


 スーリアはどんなときでも惚気ることを忘れない。あるいはラミアという種族全体の性質なのだろうか。


「町長は、確認を取る、と言っていましたが実際には誰にも確認など取っていません。ケビンさんに関する限り、町長は一貫して嘘を吐き続けています」

『なら一番怪しいのは町長だな。探れるか』

「もちろんです」


 引き受ける由宇の声には、穏やかな中にも、確かな決意があった。

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