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第五章:六話 なぜか骨が仲裁する

本年最後の投稿になります。

お付き合いくださりありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。


ブルーシートが早くとれる日が来ることを祈りつつ……


「魔法士試験で決着だと?」


 収まりがつかなくなったのがカインたちだ。


「こ、の魔物が」

「あ゛?」

「っ! あ、いや、その」


 一騎に関する限り、エストの沸点は極めて低い。カインがいつもの癖で一騎を雑魚呼ばわりしていれば、そのまま火刑台に直行すること疑いない。


「そ、そもそも魔法士は我ら貴族こそが務めるべきものだ。名誉も歴史も持たない魔物が魔法士を目指すなど、許されることではない!」

『それは違うわね』


 眼光を険しくするカインの声を叩いたのは、遅れて風穴から入ってきた妖精――型のボディを使用している――クレアだ。最初はエストに掴まっていたが、猛スピードで飛行するエストに振り落とされて到着が遅れたのである。


 見た目は妖精なので、貴族たちもエストに対するものほどではないが敬意を払っていた。


『我が知る限り、魔法士を王侯貴族に限定するなどという文言はどこにもない。単に魔法士になれるだけの魔法力を秘めた者には、貴族が多いというだけの話でしかないわ。そもそも、などとカインは口にしていたが、そもそも平民出身の魔法士は少なくない』


 偉そうな口調の内容は、すべてラッカの受け売りである。大精霊と妖精が揃ってゴブリンの肩を持つのが面白くないのだろう、カインの声はより鋭くなった。


「こいつは魔物だぞ? それもゴブリンだ。魔法士に相応しい魔力を持っているとは思えない!」


 魔族の勇者である一騎の魔力は、ゴブリンの水準で収まるものではない。しかし攻撃の意思などで外に放出されていない状態では、感知するにしてもそれなりの訓練が必要になる。


 カインたちではまだ経験不足だし、一騎のことは最初から雑魚のゴブリンというフィルターをかけて見ているので気付きもしない。


「それを判断するのは試験官や教師を含む現役の魔法士たちだろ? 俺でもお前らでもない」


 返す一騎とカインは睨み合い、互いにまったく視線を逸らさない。一騎の近くにいるエストとクレアも殺気立ち、周囲の他の生徒たちも緊張と緊迫に呑まれ、知らず一歩二歩と下がっている。


 カインの主張は帝国貴族としては当然のものだ。カインは、魔法士は貴族がなるべきものと考えている。地位、名誉、誇り、歴史などを積み重ねてきた貴族こそが、率先して国を守らねばならないと主張する。


 事実、魔法士の大半は貴族だ。彼らが残してきた伝統や格式を守ることも重要なことであると考えているのである。もちろんそれは魔法士イコール貴族が作り上げたもので、平民が割り込むことは許されないと捉えていた。


 いわんや亜人、いや魔物が魔法士になるなど易々と受け入れられるものではない。


 カインたちを保守派や守旧派と表現するなら、エストやクレアの考え方は革新派と呼べるだろうか。


 身分社会との接点などなかったエストはもとより、辺境の村で育ったクレアも年齢的にも身分や出自へのこだわりは小さく、能力主義・実力主義――というよりも一騎のことなら全面的に支持する傾向がある。


 生徒たちの考えの多くはカイン寄りだ。しかし信仰の対象でもある大精霊が堂々と一騎を庇うので、事態の収拾が付き難くなる。このような場合、本来なら教職者が仲裁に入るところなのだが、


 ――――もうその辺にしてもらえませんか? まったく、面倒な人たちですね。


 仲裁の声は一騎の懐にある通信玉(転送機能付きだ)から、つまりは宗兵衛のものだ。


「大司教様!」


 この日だけでも教室がざわめくのは一体、何度目のことか。大司教の肩書が宗兵衛を指すことに、一騎たちは強い違和感を抱く他なかった。


 この通信玉がまた一騎の身分をややこしいものにしている。


 通信玉自体は多少珍しい程度のアイテムでしかないが、一騎の持つ通信玉にはよりにもよって教皇庁の印が刻まれているのだ。


 差別による攻撃を警戒した宗兵衛が、後ろ盾やら身分保障やらを目論んでルージュとアーニャに頼んで入れてもらったもの、なのだが、二人が余計な気を利かせたせいで教皇聖下と『剣鬼』の紋章付きである。


 ルージュはどうか知らないが、アーニャについては骨刀を手に入れて機嫌がよかった影響も考えられる。


 いずれにしろ、世界に名高い教皇と『五剣』の紋章付きのアイテムとなると、たとえ王侯貴族でも望んだからと言って手に入る代物ではない。亜人の枠組みがあるとはいっても、本来ならゴブリン程度が手に入れられるものではないのだ。


 王国ほどではないにしろ、帝国内においても教会の権威は強い。


 本来は教会の紋章といえど、教会組織内での役職を持たず、正式な教会の使者でもないものが持っている場合は、せいぜいが身分や立場を補強する程度の役にしか立たない。


 だが教会組織のトップの紋章ともなると、与えられる例が稀であり、貴族のような有力者であっても一定以上の配慮が求められる。今の一騎を雑魚だとなんだと罵ることは、良識ある大人たちならば決してしないことだ。


 一騎自身も教会の権威を振りかざすような真似をしないことも関係しているだろうし、軽んじられやすい、という一騎の特性が成せる業であるかもしれない。


 同時に、大司教扱いされている宗兵衛が「こちらのホブゴブリンを特別扱いする必要はありませんから」との不必要な気遣いを転入初日に行ったせいでもある。


 もっとも、生徒たちの大半は教会の権威と大精霊の存在を前に首を垂れていて、正面きって一騎を攻撃するのは、カインを始めごく少数に限られた。


 ――――今日の魔法士試験に合格することが君たちの最大の目的でしょう。ゴブリン種が気に食わないからと、試験前に集中力を乱してどうするのですか。


 声の主の宗兵衛の正体がアンデッド、だとは気付かれていない。宗兵衛自身が大司教を名乗ったわけでもないが、ルージュとアーニャの紋章から、カインたちが勝手に大司教級だろうと受け止め、宗兵衛も別に否定していないだけである。


 結果、概ね宗兵衛は教皇や『五剣』の代理人だと考えられていた。


 真実がどうであれ、大精霊が怒り、『五剣』代理人までが介入してくる事態は好ましいものではないのは確かだ。宗兵衛の声の奥からバタバタした別の音が聞こえてくるのは、ラビニアやアーニャが騒いでいるからだろうか、と一騎は見当をつけた。


 周囲の生徒たちは黙りこくっている。下手な言行で教会からの心証を悪くしたくないのだ。なにより、今日でもっとも重要なのは他人の出自や種族などない。


 ――――理解はしてくれたようですね。では、全員、席に戻りなさい。君たちの前途に神の祝福があらんことを。


 魔族の勇者でアンデッド、それも生前は多神教社会で無神論を嘯いていた男が神の名を口にする。一瞬で胡散臭さが極大化したかの錯覚は、残念ながら一騎たち一部の人間以外にはわからなかったようだ。


 曲がりなりにも仲裁と呼べなくもない宗兵衛の言葉を受け、ようやく教室にも一段落したかの弛緩が混じった空気が広がる。


「一応、助かったぞ、宗兵衛」

 ――――水臭いことを言わないでください。僕たちは艱難辛苦を分かち合ってきた心からの友人。助け合うのは当然のことじゃないですか。

「猛烈に胡散臭い!?」


 いいことをを口にしているはずのなのに、どうしてこうも信用ならないのか。


 ――――実に遺憾なことではありますが。

「なんで遺憾の意を表明するのかねぇっ!?」


 教皇や『五剣』の代理人と気安く話す一騎を睨もうとする貴族たち、をエストとクレアの眼光が粉砕する。


「ぅぅ」


 キリキリキリ、と胃に痛みを覚えつつ、一騎は着席した。教師がドアを開く。入ってきたのは例の教師ベルカンプだ。カインやリズにはへつらうような笑みを、一騎には露骨に細めた目を向け、ようとしてエストとクレアに気付いて素早く視線を逸らす。


「さて皆さん。知っての通り、今日と明日は君たちにとってとても重要な日となります。この試験で合格することが魔法士になるための唯一の方法です。特に今年は四大公爵家の方も挑戦するとあって注目度も高いですからね、今までの練磨と研鑽、それらを積み重ねてきた時間を信じて、全力で挑んで来てください。」

『『『はい!』』』


 一斉に返事をする生徒たち。返事をしなかったのは、学生でない上に不機嫌になっているエストとクレアの二人と、胃痛に悩まされている一騎だけだ。


「それでは、もう一度、試験概要の確認をしておきましょうか。この魔法士試験は一日目と二日目に分けて実施され――」


 事前に配布されていた資料を取り出し確認に入る。今日までに何度も試験の説明は成されており、殊更に今日する必要はない。この説明の目的は生徒たちにもう一度、試験への心構えを説くことだ。


「確かめるまでもないでしょうが……あえて聞きます。皆さん、準備はよろしいですか?」


 十分で終えた説明の後、ベルカンプは生徒たちに視線を送る。学院の教室の構造では、ベルカンプが生徒たちを見上げる形になる。さすがに魔法士になることが半ば義務となっている貴族の子女たちだけあって、緊張こそあれ、試験自体に戸惑っているものは一人もいない。


 ベルカンプは満足気に頷き、最後に余計な質問を付け加えた。


「リズ君はどうですか?」

「問題ありません。魔物などとは違いますので」

「てめっ」

「ふん」


 僅かでも機会があれば一騎を攻撃しないと気がすまないらしいリズだ。さすがに周囲も、まだやるのか、とうんざりしている。


 とはいえ、リズの鞘当てもここまでだった。エストが不快気に細めた目でベルカンプを眺めやり、不自然な咳払いと共にベルカンプが話題を転じたからだ。




 鐘が鳴る。試験会場に移動するべく皆が教室を出て行く。一騎は隣を歩くエストと、右肩に乗るクレアに低い声で決意を漏らす。


「絶対に合格するからな」

「そうよ。イッキなら絶対に合格できるから。わたしも全力で応援するからね」

『闇に祝福されし我が眷属の力、満天下に晒してくることを許す』


 ちなみに、懐の通信玉から宗兵衛の励ましの言葉はなかった。

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