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おとぎ話の時間です  作者: 小鳩子鈴
Special Thanks 番外編(FA御礼SS)

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冬きたりなば

◆遥彼方さまより、おーちゃん大集合イラストを頂戴しました! なんと拓海ゴブリンまでもが可愛らしい! こうして素敵なイラストを描いていただけて、私もお話も本当に幸せです。遥さま、ありがとうございます!


◆お使いの動作環境で画像の読み込みに時間がかかる場合など、画面右上の【表示調整】内の一番上で表示をON/OFFできます(画像のみリンクに切り替わります)



(絢子視点)

 挿絵(By みてみん)

 (イラスト:遥彼方さま)


 * * *


 十和田の家に棲むモノは、見る人によって姿を変える。いや、あの者たちにそのつもりはないのだから、純粋に受け手であるこちらの問題なのだろう。それに、同じ人間でも時とともに見え方が変わることも。丸い毛玉だったこの子達が、座敷わらしに見えるようになって随分がたつ。どうやらこの状態で固定されたようで、私の見え方にそれ以降の変化はない。

 気になるのは――甥っ子。


「ねえ、拓海。あなたまだゴブリンなの?」

「なに絢子さん、急に」

「ううん? 見え方変わったかなあって」


 ダイニングテーブルに腰掛けて人待ち顔の甥は、そう言われて答えにくそうに眉を寄せる。少ない口数とあまり変わらない表情は、十代半ばという思春期がそうさせるのか、元からの性格なのか微妙なところだ。


「別に、たいして」

「遥ちゃんの『おーちゃん』みたいになったらいいのにねえ。オコジョなんて可愛いじゃない」


 それでも話を切り上げたり無視したりしないのは、仮の保護者としての私に対する遠慮か引け目か……できれば愛情だったら、と思う。

 私とかおるさんとの間には子どもがいない。最初からそこまで望んではいなかったし、それを今更どうこういうつもりもない。この家に棲むものたちがその代わりのようなところはあるし、こうして拓海も一緒に暮らしている。


 血縁はないが、似たような境遇の生い立ちも相まって、初めて会った時から親近感を持っていた。お互いに家に居場所がなくて、寂しくて、自分ではどうすることもできない事情がもどかしくて。感情を映さないように心を沈めたあの頃の拓海の瞳はまさに、少し昔の自分だった。

 親という立場をあの人たちから奪う気は無い。どうしたって親は親だもの、そちらと和解できればそれが一番いい。最近になってその傾向もみられてきたし――でも、ここにいる間はせめて真似事をさせてほしいと思ってしまう。我ながら欲深くなったものだ。


「……絢子さんは、どう変わっていったの」

「私? ほら、最初は丸かったでしょう。それがだんだん、手みたいなのが出てきて、丸も細長い楕円形になってきて、足っぽいのが出て……いつのまにか、着物も着て、可愛くなって出来上がり」

「ふうん」

「ゆっくり変わっていったから。あの頃は毎日見えていたわけでもないし、気付いたらこうなっていたって感じかしら」


 手にしていた湯呑みを茶托に戻して、膝の上に乗ってくる子の髪を撫でながら答える。手に伝わるのは絹糸のような黒髪の感触……頬はもちもちしているし、本当に不思議。


「馨さんのところにはよくいたのだけど。私の前にもこんなに姿を現すようになったのは、やっぱり遥ちゃんが来てからね。よっぽど好きなのねえ」

「迷惑がられてなきゃいいけど」


 分かってるくせに言ってしまうのは、まだ自分で納得しきれていないのだろう。でなければ、今までの癖みたいなもの。


「それは大丈夫でしょう。今日だってドーナツ作りにきてくれるんだし」

「まあ、ね。お前たち本当に食い意地張ってるな」


 聞こえないふりで拓海の上によじ登っては地面に降ろされる、を繰り返している。微笑ましい光景は、見えているのに無視を決め込んでいた以前に比べて格段の差だ。おかげで「向こう側」から出て来るモノたちも安定しているらしいと、そういう報告は受けている。

 私にとってはそんなあちらの事情より、目の前の拓海の方が大事なのだけど。


「ゴブリンだって、まあ、見慣れれば悪くはないのでしょうけど。もっと、こう、心安らげるというか……」

「平気だよ」

「そう?」

「そんなに悪くないから」

「あら、じゃあやっぱり変わってきてるのね」


 失言だった、と言わんばかりに顔を背けられてしまって、そのタイミングで家内に呼び鈴が響いた。膝に上がっていた子も慌てて飛び降りると、みんなどっと玄関へ走っていく。

 出迎えに行くのに私も立とうとしたら、自分が出るからいいと引きとめられてしまった。ついでのように、この話題を終わらせようとされる。


「気にしなくていいよ」

「そう言われても気になるわ」

「……親ってのは心配性だな」


 小さくぽつりと残された言葉に動けなくなった。近いはずの玄関の声が遠くに聞こえて――


「お邪魔しまーす……絢子さん?」

「っ、あ、は、遥ちゃん、はい、いらっしゃいっ」

「どうしたんですか、熱でも?」

「う、ううん、大丈夫! 大丈夫だけど、ちょっと顔洗ってくるわねっ」


 鏡なんて見なくても、自分がどんな顔をしているのか分かってしまう。洗面所に慌てて駆け込み、パシャパシャと水をかける。


 ――かおるさん、


 こぼれた声は情けないくらい震えていたけれど、それを嫌だとは少しも思わなかった。



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英語翻訳で書籍化しました!
『Ayakashi and the Fairy Tales We Tell Ourselves』
イラスト/ Meij 先生
おとぎ書影

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