第5話 ロックホーンを狙撃!
私たちはクエストを受注するために始まりの街のクエスト掲示板の前に立っていた。
「ねえねえ! それでどんなクエスト行くのー!?」
「うーん、そうだなぁ……」
「じゃあ! 一番強いモンスターが出るクエストに行こう! あさひそれで一気にレベル百にする!」
あさひが両手を広げて駆け出した。
「そんな無茶苦茶なレベリングできるなら、みんな初日にカンストしてるよ……」
たぶん、私の声はあさひの耳には届いていない。
飛行機になったつもりなのかは知らないけど「ブーン」と声を上げて走り回っている。
隣では、ひかりがハニーボアの耳の裏をなで回していた。
「あさひちゃん、焦らなくても大丈夫ですよー。ハニーボアちゃんも、まだ見たことのないモンスターに会えるのを楽しみにしてますし」
「ぶもっ!」
「よし、それじゃあ今回はこれにしよう」
私が指差したのは、初心者向けの討伐・採取クエスト『岩山の猛る角』。
対象モンスターは岩みたいに硬い外殻が特徴のロックホーン。指定数の三匹を討伐し、角を採取すればクリアだ。
ロックホーンの生息地はさざなみ草原の奥にある岩山。鉱石なんかも一緒に採掘できるから金策にもなる。それにロックホーンは魔法攻撃が弱点だからあさひの練習相手にもピッタリだろう。
「いわやまの……もうるつの!? 強そう! よーし、あさひのメテオファイアで一網打尽だー!」
「うんうん。期待してるよメテオファイアぶちかましちゃって」
マジもんのメテオファイアなんて放ったら角すら残さず消し飛ばしてクエスト失敗になっちゃうけどね。
◇
「いた! ルナさん、あそこです!」
ひかりがささやき声で指差した先。
岩山の開けた場所に、体長二メートルほどのロックホーンが数匹群れていた。
「ふむ……群れか」
岩陰から顔だけを出し、二人に小声で指示を出した。
「ロックホーンは臆病だからね。一匹が逃げ出すと、群れ全体が一斉に散らばっちゃうんだ。だから、まずは――」
「任せて! 逃げる前に全部倒せばいいんだよね!」
「ちょっとあさひちゃん!? 声大きいよ!?」
制止する間もなく、嬉々とした表情で魔法杖を構えていた。
「喰らえぇぇ! 必殺・メテオファイア!!」
あさひの杖の先から、ぽーんと小ぶりの火球が放たれた。
火球は綺麗な放物線を描き、群れのど真ん中に着弾。
ドッカーン!
突然の爆発音にパニックを起こしたロックホーンの群れは一斉に駆け出した。岩場のあちこちで土煙があがる。
「た、大変! こっちに逃げてきます!」
ひかりが指さす先にはギラリと光る角をこちらに向け、突進してくるロックホーンがいた。
「二人とも、早く岩陰に隠れて、あんなの当たったらひとたまりもないよ!」
「あさひ、ちゃんと真ん中に当てたのになんでー!!」
「いいから隠れて!」
私は突っ立っているあさひの腕を強引に引っ張って岩陰に引き込んだ。
あさひの背後を一匹のロックホーンが走り抜けていく。
地響きのような足音が過ぎ去る中、心臓がドクドク鳴っていた。
「とりあえず……とりあえず、無事でよかった」
「怖かったです」
ひかりはハニーボアと身を寄せ合うように震えていた。
あさひの方を見るとぷいっと目を逸らしてしまった。
別に取って食おうというわけじゃないから安心してよ。
「逃げられちゃったねえ」
私は岩陰から出ると、ロックホーンが群れていた開けた場所まで歩いて行った。
地面がごつごつしていて歩きづらい。ここだけ異様に小石が多い気がする。
ひかりも足元の小石が気になったのか、しゃがんで小石を掴んでいた。
「ひかりん何見てるのー」
あさひもつられて地面を覗き込んだ。
「見てください! この石! 齧られた跡があります」
確かに何かに削られたような跡がある。でも、ここは鉄鉱石の採掘場でもあるんだから珍しい事ではないと思うけれど。
私がロックホーンの逃げ去った方角を眺めているとひかりが袖を引っ張ってきた。
「ほら! ルナさんここ!」
ひかりが指さす先には地表にむき出しになった鉄鉱石があった。
その表面にも何かで抉られたような跡がある。
「あのロックホーンさん、この黒い石を食べてたんです! 私見てましたから」
ロックホーンが鉄鉱石を食べること自体は知っていた。
だが、それはあくまでテイマーがロックホーンをアイアンホーンに進化させるための手段であって、野生のロックホーンまでもが鉄鉱石を食べるとは知らなかった。
「それで、あのサイみたいなモンスターいつ追いかけるのー?」
あさひはつまらなさそうに石ころを蹴飛ばしていた。
「いや、ここで待とうと思う」
「え? なんで」
「ここは彼らにとって絶好のレストランなわけだ。私たちが隠れていれば、また戻ってくるかもしれないからね。そこを狙い撃ちしよう」
「スナイパーってこと!? かっこいい! やるやる」
さっきまでの気だるげな態度が嘘のように飛びついてきた。
「よし、あそこに絶好の狙撃ポイントがあるから移動しよう」
私が指さしたのは岩場を見下ろせる高台。あそこなら下から視界が通らず、ロックホーンを待ち受けるのにいい場所だと思う。
岩の上で待つこと数十分。ロックホーンたちが戻ってきた。
「目標を確認、距離八百、風は左から右へ微風。いつでもいける」
いや、風なんて吹いてないけど。
あさひはスナイパーになり切り、魔法杖をライフルのように眼前に構えていた。
反動で目に入らないか心配だ。
下ではむき出しになった鉄鉱石にロックホーンたちが群がっていた。
「まだ……まだ……引き付けて」
ロックホーンたちが掘り返した鉄鉱石を取り合い、首を持ち上げた。その瞬間を狙って――
「今」
あさひがフッと息を吐いて、火球を放った。
口内に直接魔法攻撃を受けたロックホーンはひとたまりもない様子で「グモー」と悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
「ターゲットダウン。ナイスショットだ」
あさひを真似て、私もスナイパーっぽく褒めてみた。
当のあさひは目をぱちぱちさせて私の顔を見ていた。
え、ここ「どうよあさひのメテオファイアは!」とか言う所じゃないの!?
なんか私が変な事言ったみたいじゃん。
ひかりはくすくすと笑っている。
「じゃ、じゃあ下に降りて角拾おうか」
ロックホーンの角3本と甲殻、それにいくつかの鉄鉱石。
思わぬ収穫だったけど、掘る手間が省けてラッキーだ。
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったよ。これ納品すればクエスト達成だね」
肩の力が抜けた。
「あっさひの手柄~! あっさひの手柄~!」
あさひがロックホーンの角を掲げて走り回っていた。
あさひちゃん、今日はあなたがMVPだよ。
◇
始まりの街に戻り、クエストの報酬を受け取った帰り道。
「はー、楽しかった! 次はドラゴン倒しに行こう! ドラゴン」
あさひは上がったレベルとスキルポイントの画面を嬉しそうに眺めながら、元気いっぱいに声を弾ませていた。
ドラゴンはまだ無理だよ、あさひちゃん。
「ルナさん、さっきのロックホーンちゃんたち、あの後どこへ帰っていったんでしょうね?」
ひかりが討伐しなかった残りの個体たちのことを思い出して呟いた。
データ上のリポップエリアに戻るだけだよ。なんて言ってしまうのは夢がない。
私は足を止め、システムパネルから周辺のマップを開いて見せた。
「……そういえば、さっきの岩場の奥には、小さな水場があったはずなんだよね。喉が渇いてたなら、群れでそっちに向かったのかも」
「えっ! 水場ですか!? 見てみたいです!」
ひかりが嬉しそうに目を輝かせ、あさひも「水場!? ドラゴンいるかも!」と乗り込んできた。
「ふふ、じゃあ次はそこへ行ってみようか。あさひちゃんの魔法の練習にもぴったりの場所だしね」
「やったーー! 探検だー!」
「はいっ! 楽しみです、ルナさん!」
いつかはドラゴンも狩りにいけるといいね。




