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放った言葉は、その身を焼く刃となる。~言霊家系に生まれた僕に暴言を吐かないでくれ~  作者: なつたろう


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第1話 鋭い刃

――人はなぜ、言葉の重さに気づかないのだろうか?


 僕、神本悠一かもとゆういちは高校入学と同時に、祖母から文芸部に入部するよう勧められた。

放課後の図書室は、僕にとって唯一、呼吸が深くできる場所だ。

使い込まれたパイプ椅子の冷たさも、窓の外から聞こえる、部活動に励む運動部の掛け声も、原稿用紙に向かっている間は心地よい遠い世界の音に変わる。


「悠一、また新作書いてるのか? 一年なのに頑張ってるな。ま、根詰めすぎんなよ」


 僕の肩を軽くたたいて笑っている彼は、部長――名執孝昌なとりたかまさ

通称まっさん、幼い頃からよく一緒に遊んでいた仲だ。


「名執部長、なんでいつもそいつの肩を持つんすか? 俺のやつもちゃんと読んでくださいよ」


 同じクラスの唯野蓮夜ただのれんやは、何かにつけて僕と比べてきては、蔑んでくる。

僕の中の関わりたくないナンバーワン候補だ。


「唯野のやつはなんというかこう……読んでて辛くなるというか……きっと俺が好むジャンルとは違うんだと思う。でも、創作し続けているのはお世辞抜きで尊敬してる」


 正直、僕も蓮夜が書く小説はあまり好きではない。

本人はスカッとやざまぁ系を書いているつもりだろうが、いじめっ子がただいじめをして楽しんでいる。

そんな胸糞悪い内容ばかりだからだ。

でも、蓮夜は部長のその言葉に満足したのか、鼻を鳴らし窓際の席へと戻っていく。


――まっさんも大変だな。


 そして、小さなため息をついた僕に気づいたまっさんが、耳元で……


「俺は悠一の……心情に訴えかけてくる作風のほうが好きなんだけどな」


 僕は少しだけ照れ臭くなって、書きかけの小説を隠すように、腕をそっと原稿用紙の上に移動させた。

特別な才能があるなんて思っていない。

ただ、難しいことは考えず文字を紡いでいる、この時間だけは、自分の中によどんでいる何かが形を変えて、外へ解き放たれる。

そんな心地よい感覚が大好きだ。


 しかし、紡いでいた文字が鋭い刃となって、僕の人生を狂わすことになるとは……

この時はまだ知る由もなかった。


 異変が起きたのは、その日の夜のこと。

家で予習を終え、寝る前に何気なく開いた学校の匿名ネット掲示板。

普段は行事に対する提案や、誰と誰が付き合っているといった他愛のない書き込みであふれている平和な場所だ。

だが、トップ画面に表示された文字を見た瞬間。


ドクンッ!


 心臓が跳ねた。


『誰とは言わないが、文芸部のあいつ。小説、下手くそ過ぎてつまらん。読んでるこっちが恥ずかしくなるレベル。才能ないからさっさとやめちまえ』


 指先が氷を触ったかのように冷たくなる。


 『誰とは言わないが』誰に宛てたものかの指定もせず、投稿主も匿名。

これを書いたのは文芸部員の誰かか……

はたまた、定期的に発行している会誌の読者か……



 文芸部は僕含め8人のみだ。

僕たちはペンネームを使用し、ペンネームは他の部員には明かさない決まりだ。

ただ、蓮夜に関しては、自ら何を書いたか自慢して回るため、その意味をなしていないのだが……


 そして、誰が何を書いたか知っているのは部長のまっさんだけ。

でも、まっさんの性格上、こんな陰湿なことはするはずない。

画面越しに、冷笑する蓮夜の顔が見えた気がした。

 

 たった数行。

顔も名前も隠した誰かが、指先一つで放った言葉。

その言葉が人を傷つける刃となっていることに、気づけていないのだろう。


 僕は震える手でスマホを置いた。

耳の奥で、掲示板の文字が何度も何度も蓮夜の声で再生される。


――やめちまえ。

――つまらん。

――下手くそ。


 息苦しさを感じ、外の空気を吸おうと窓を開ける。

窓の外では、風に当たった葉がざわめき、老木はギシギシっと不気味な軋み声を上げていた。

まるで、これから始まる惨劇を予感して、震えているかのように……

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