『炎の夜』
(......暑い、 クーラーつけなかったっけ、?)
季節は真夏、纏わりつく蒸し暑さが肌に張り付く。これが一様に体力を奪っていくのだ。
でも......夏にクーラーなしとか、自殺行為、俺には考えられない。
ゆっくりと目を開けて、天井を見つめると、
(常夜灯にしては、明るすぎるよな。)
暗い部屋の中、オレンジの光が天井で泳ぐように揺らめいている。
パチ、パチ、となにか弾けるような音.....
(...火事、?)
体が一気に覚醒し、バッ と起き上がる。
炎がそこまで迫っていた。
(とにかく、寝る前に飲んだペットボトルの水を
服にかぶって、外に出よう、)
「....っ」
水を半分くらい残したまま、
髪と服を大きく濡らした。
残りはもっていくことにしよう。
焦げ付く匂いが鼻を刺し、呼吸を制限する。
部屋のドアを開くと、炒められているような熱風が襲う。
(いったいなんでこんなことに....。)
急いで廊下を渡り、階段を降りてリビングを覗く。
大半は焼け焦げていて、スマホが欲しかったが、火の奥だったので、諦めるしかなかった。
(とにかく今は、外に出よう。)
「ゴホッ、ゴホ」
火が強まっているのがわかる、煙も重くのし掛かるように重厚であった。
「うぉっ、!?」
何かが足に引っ掛かった。柔らかい感触がやけに不気味だとおもったら....
金髪の見知らぬ女の子が倒れている。
(.....動かない、逃げもしない、まさか....死んでる?)
黒い煙のせいで何も見えない。ついで目をいたぶってきて、微かに潤んできている。
「....くっそ 、 おい、大丈夫か!」
少女はびくともしない...
視界も決してよくないので、状況もイマイチ、
人を背負って出られるかもわからない。
(どうする .....俺、
......いや、やっぱ、これ以上はダメだろ!)
「しっかり......しろよ!今出してやるから。」
残りの水をぶっかけて、なんとか背負った。
顔も見れないが、そんな場合じゃない。
手探りで壁をつかってすすむ。
いつもとちがう壁のざらつきに状況を思い知らされるばかりだ。
後ろで建物がガランドゥと、崩れる音がする。
想像以上に廊下が長く感じ、苦しさが増していくばかり。
(......まだ、かよ、)
多分今頃、俺の顔は涙と汗、強ばった顔でめちゃくちゃだろう。
玄関が見えた....!
......気に入っていた靴も煤だらけで、もう使い物にないだろう。
裸足のまま、ドアへ向かう....
──手を伸ばし、冷たい感触
「....ドアノブ!」
──ガチャン ....
鈍い音と共に、扉が開いた。
一気に抜けた力で、少女を背負った体重と一緒にそのまま突っ込んだ。
「かはっ.... ゴホッ はぁ、はぁ、」
夜の冷たい空気が戻ったようだ、心地いい。
少女は俺がそのまま倒れ込んだ勢いのまま
すぐそこに落としてしまった。
喉がまだいたい...肌も少し焼けた感覚だが、
かけた水が功を奏したのか、なんとか致命傷は避けている。膝は擦れて、足も少し血が滲んでいる。
「....おい、 ゴホッ 大丈夫、か?」
小さい声で言ったが、これでも俺の精一杯だ。
口元に手を添えて、呼吸を確認する。
「すぅ....ふぅ....」
....しっかり反応があって安心した。
よくみたら、俺より三つくらい下の子かもしれない。今は高二だ、それに比べて中学二、三年ってとこだろうか、ある程度成長しているところが物語っている。
金髪の美少女、字面だけでは良く聞くものだが、不自然なほど整った顔、
青紫のローブを着ていて、現代のコスプレか、何かかなと思える。
学校にこんなのがいたら一軍なんて下らないほどだろう。
特徴的な物と言えば。
ローブの紋章、煤が被っていてよく見えないが
閉じた瞳のような感じだ。まつげが生えたように線が入っている。 優しいような、包容力を感じ取れる。
気になっていたので、煤を払おうとしたその瞬間.....
紋章から突如淡い光が放たれ、
──虚空にヒビが入っていく。
ピキ、ピキ、と音をたてて、空間の破片は宙に消えながら落ちてきた。
「....おいおい、なんだってこんな、」
暗い空に、白い亀裂が走っていく。
まるで二人を取り囲むように......
──限界を迎えた空間は、白い亀裂を広げ、
全てが何かの殻であったかのように崩壊した。
視界が真っ白になった時、すでに....
──そして俺は今、暗い森に1人──
深紅の血を滲ませる少女を前に、ただ一人立ち尽くしていた。




