第50話 閑話1 ミューの入学試験
「いよいよね。入学試験、緊張するけれど、私なら余裕で合格できるはずよ」
今日は待ちに待った学園の入学試験が行われる日。この日のために、何年も前から勉強や魔法の修行をつき重ねてきたのだから、心配する必要なんてない。
そのはずなのだけれど・・・・・・
「なんだか不安になってきたわね。大丈夫かしら。もし筆記試験で解答欄を一つずらして書いてしまったら・・・・・・リオンに合わせる顔が無いわ。リオンが泊まっている場所は知っているのだし、顔を見に行こうかしら?そうしたら落ち着いて試験に臨めそうね」
そうしましょう!そうと決まれば、試験が始まるまで時間はそんなにないのだし、思い立ったらすぐに行動しないと。
「お嬢様、申し訳ございませんが、リオン様のおられる場所に行くと、試験に間に合わなくなってしまいます。申し訳ありませんが、そのまま試験会場に向かいましょう」
私が早速行動に移そうかと思っていると、メイドが私にそんなことを言ってきた。
あら、そんな時間だったのかしら。できればリオンの顔を見ておきたかったのだけれど、そんな場合では無さそうね。
試験が終わった後は用事があるから、リオンと会うのは結果発表の日まで先送りになるのかしら。
「分かったわ。それなら、早く向かいましょう?早く着くに越したことはないのだし」
そう割り切った私は、メイドにそう伝えて支度をする手を早め始めた。
「お嬢様、それでは向かいましょうか」
支度を終えて屋敷の前にいる私は、メイドの手を取って馬車に乗った。
いつも乗っているものと同じなはずなのだけれど、緊張のせいか椅子がいつもより固く感じるわね。
ソワソワする気持ちをなんとか抑えながら周りの景色を眺めていると、一つのカフェが目に入った。
看板や外装は他と変わらないはずなのに、何故か私の目を強く引いた。
「今度リオンを誘って行ってみようかしら」
私は、カフェを見つめながらそうボソッと呟いた。
あれ、私なんでこんなこと言ったのかしら。
「違う違う、別にリオンと行きたいとかそんなんじゃない」
そうよ、一人で行くのは寂しいからあいつを誘ってやるだけ。
◆◇◆◇◆◇
しばらく馬車に揺られて、私はついに試験が行われる会場がある学園に到着した。
「もう来ちゃったわね。元より、ここで全力を尽くして試験を受けるしかないのだし、頑張るわよ」
予定よりも少し早く来たおかげか、試験会場にはまだ受験生の姿は私以外見えない。
受付で受験票を受け取って、指定の席に向かった。
席に座って、勉強した内容を振り返っていると、私の隣に儚げな雰囲気を纏った銀髪の少女が座った。
「あら、私もかなり早く来たと思っていたのですけれど、私よりも早く来ている方がいらっしゃったのですね」
彼女は、隣に座ると私に声をかけてきた。
「どうやらそのようね。私の名前はミュレイ。ミュレイ・ユバルよ。よろしくするわ。貴方の名前は?」
私は簡単に自己紹介をして、彼女に名前を聞いた。すると、彼女は胸に手を当てて名前を名乗った。
「私の名前はリースと言います。平民の出なので苗字はありませんけれど、よろしくお願いしますわね」
平民出身の子だったのね。それにしては、所作の端々から気品を感じるのだけれど、どこで身につけたのかしら。
「平民出身とは思えないほど、貴方の所作は綺麗ね。何処かで教えてもらったの?」
気になったので質問してみると、リースは快く私の疑問に答えてくれた。
「実は私、陽教の聖女見習いとして取り立てられていますの。そのために稽古を受けていまして、本物の貴族のご令嬢に褒めて頂けて、喜ばしい限りですわ」
聖女見習いだったのね。それなら納得だけれど、凄い人と出会ってしまったみたいね。
確か、陽教の聖女見習いには平民でありながら貴族以上の魔法への適性、才能がないとなることができないって聞くわ。
彼女もその一人ということは、もしかしたら私に匹敵するほどの才能があるのかもね。
「そうだったの。次期聖女と仲良くなれて、こちらも嬉しいわ。仲良くしましょう」
彼女から感じる魔力の量は、私ほどではないけれどかなり多いわ。これ以上の才能がポンポンいるとは思えないし、リースが次期聖女と言っても過言ではないでしょ。
「次期聖女は、流石に言いすぎですよ。他の聖女見習いは見たことありませんけれど、私を次期聖女と呼ぶのは時期尚早ですよ。それよりも、この言葉遣いを続けるのは息苦しいので、素の口調で喋ってもいいですか?」
ずっと取り繕った口調でいるのは大変でしょうね。私は昔からこの口調だけれど、リースはそうもいかないでしょうし、最低限の礼儀さえあれば口調なんて滅多に気にしないわ。
「いいわよ、楽にして頂戴。口調は気にしないから、好きに喋って」
私がそういうと、リースは憑き物が落ちたかのように雰囲気が変わった。
「それなら、お言葉に甘えるわね。すぅーっ、はぁー。いやー、さっきまでの言葉遣いにも慣れたと思っていたけど、やっぱりこっちの方が落ち着くわ」
リースは大きく深呼吸をすると、口調が先ほどまでのものとは180度変えて喋り始めた。
「貴方、素はもっと粗野だったのね。でも、根本に礼儀正しさがあるから、不思議と不愉快にはならないわ」
しばらくリースと雑談で時間を潰していると、筆記試験が始まる頃合いになった。
試験用紙が配られて、チャイムが鳴ると同時に解答を始める。
最初、問題を解く前に一通り目を通してみたが、引っかかりそうな問題は特に見当たらない。しばらく解き進めて、考えるのに数秒時間を要した問題はあれど、全て解き終えることができた。
残りの時間を見直しや検算などで潰し、次の試験はお待ちかねの魔法実技。
最初に来て受験票を受け取ったため、私の受験番号は1番。少し急いで実技会場へ向かって、早速試験を受ける。
「最初、1番ミュレイ・ユバル。水属性魔法から、そこの的に向かって撃て。自分の使える最大限の魔法を使うように」
試験官が私に指示を出した。最初は水属性魔法ね。この属性はあまり力を入れていないから、適当に魔法を投げてしまいましょう。
「『水弾』」
私は魔法陣を描き、魔法を発動した。その魔力は三つの水球を作り出し、同時に的に向かって飛んでいった。
着弾した魔法は、周囲に撒き散り湿らせた。
「次、雷属性魔法を撃て」
雷属性ね。次も適当に済ませましょ。
「『雷弧』」
魔法を発動すると、雷が弧を描いて飛んでいった。魔法は的に当たるとその形に焼き跡を残した。
「次、土属性魔法を撃て」
土属性魔法は、火力を突き詰める上で鍛えてきた。どれだけ火力の高い魔法を撃っても自分に被害が出ては意味がない。それを防ぐために、熱をある程度遮断できる土属性を選んだのだ。
「『硬土塊』」
普段は自分を覆うために空洞を開けている魔法だが、この場で魔法陣を少し弄り、中までしっかり詰まったものにした。
それはこれまでの魔法をなんとか耐えていた的を押しつぶし、その重みでクレーターを形成した。
「こんなところかしら」
私はそう言ったけれど、試験官は何も反応せず淡々と指示を出した。
「次、風属性魔法を撃て」
今度は、風属性が来た。風属性は昔から火力を向上させるため魔法に組み込んできたもので、元来適性を持っていたこともあり、かなり操作に慣れている。
「『風鎖』」
私は名前を唱えながら魔法を発動する。魔法は空気を鎖状に操り、的を締め上げて破壊した。
「次、火属性魔法を撃て」
試験は基礎5属性のみなので、最後に火属性が来ることは消去法で分かっていた。私は、どの魔法がこの場に似合うか数秒吟味して、魔法を決めた。
「『業華』」
この魔法は、私が考えた魔法の中では珍しく、火力のある魔法ではない。しかし、その代わり派手さを追求したもので魔法が発動した座標で派手に爆発する。
魔法を発動させる為の魔法陣を展開し、気持ち多めに魔力を注いだ。
魔法は的のすぐ上で弾け、キラキラと周囲に撒き散った。
「これで終わりだ。次の受験生の邪魔にならないよう、横に移動してくれ」
私が魔法を一通り撃ち終えると、試験官はそう言った。
ただ待っているのも暇でつまらないので、私はそれに従い横に移動して、リースの魔法を見学することにした。
彼女の魔法はとても面白く、そのどれもが拳に魔法を纏い殴るというものだった。ルールとしては魔法を使ってさえいればなんでも良く、彼女はそれで的を攻撃した。
私の知っている魔法陣の要素の中に、拳に纏えるようなものなんてあったかしら。彼女は陽教の聖女と言っていたし、陽教が独占している強化魔法?仲良くなったら私に教えて貰えるかしら。
試験は無事終了し、私は王都の屋敷へ帰ってきた。
「今日はとても疲れたわね。新しい出会いに試験、目玉要素が盛りだくさんだったわ」
ベッドの上に体を放り投げるように倒れ込み、今日1日の出来事を振り返る。
「結局、リオンには会えなかったわね。あいつはどうしてたのかしら。今度会ったら一から十まで聞き出さないと・・・・・・ね・・・・・・」
私が思っていた以上に疲れが溜まっていたみたいで、特大の睡魔に襲われた。
「んぅ・・・・・・ふぁぁ・・・・・・早く寝てしまいましょ。眠気を我慢しても良いことなんてないもの」
毎日つけている日記を簡単に書いて、私は眠りについた。




