第1話 ダンジョンに行きます!
辺境の街パスィーユの防衛戦からおよそ二か月。
街は落ち着きを取り戻し、またいつもの平凡な日常が戻ってきていた。
俺はというと毎度のことながら下水道掃除に勤しむ。
当然相棒である黒龍丸を携えてな。
この世界に飛ばされてから約半年が経つ。
文明の利器はないし、食事の文化も違う。
そう簡単には慣れないだろうと思ってたが、案外そうでもないらしい。
というのも既に俺はこの異世界生活とやらが馴染んでいた。
たまに電車があれば、スマホがあればなんて思う事もあるがないものねだりしても仕方がない。
魔族の出現により魔王が復活したとか魔界から攻めて来るとか、色々噂にはなっていたけど今のところパスィーユに危険が迫るようなことはない。
それでも前にサラスティさんから言われた占い師の言葉ってやつが妙にひっかかる。
確か黒い棒にて魔王の心臓を突くだとかなんとか。
それがどうやら俺の可能性があるって話だ。
まああくまで占い師が言うには、だけど。
そもそも占い師とやらがパスィーユにはいないせいで、本当に未来予知なんて魔法が扱えるのかどうかも分からない。
要は信ぴょう性がないってわけだ。
でもサラスティさんは真剣な表情だったし、あながち嘘ではないのかもしれない。
それでもだ、最弱の冒険者と名高い俺がその役割りを担うなんて眉唾もんだろ。
――――
素早く下水道掃除を終わらせた俺は冒険者ギルドに向かう。
道中鼻を摘ままれて嫌な顔をされるのには慣れた。
まあ臭いからな、仕方ない。
一応消臭魔道具を使ってはいるんだけど。
ギルドの扉を開けると丁度報告を終えたであろうレオン達の姿が目に入った。
「おっ、お疲れー」
「ん?ああマルか。お疲れ様。今日も下水道掃除かい?」
「まあな。そっちは?」
「魔物の討伐だね。問題なく終わらせてきたよ」
そう言いながらレオンはお金の入っている袋を見せてきた。
少し動かしただけでジャラッと音が鳴る。
そこそこの貨幣が入っているのだろう。
「流石だな。怪我もなくか?」
「もちろんさ。まあ、万が一傷を負ってもアリシアがいるからね」
レオン達、”夜明けの青雷”は神官であるヒーラーのアリシア、そして斥候のミーシャからなる三人パーティーだ。
三人共見目麗しく、冒険者の中でも人気が高い。
それにランクだって俺とは雲泥の差だ。
なにしろレオンは英雄級。上から二番目のランクである。
一番上の神話級とやらは世界に三人しかいないから、実質冒険者ランクのトップといっても過言ではない。
「そうだ、マルに会ったら話したいことがあったんだよ」
「お?分かった、ちょっと待っててくれるか?俺も報告だけ終わらせてくるわ」
レオンが俺に話したい事か。気になるけど、まあまずは報告だな。
俺は一旦受付へと足を向ける。
俺の姿を見た受付嬢が引き出しをごそごそし始めた。
もう慣れてきたようで、俺=下水道掃除だから報酬も決まっているからすぐに用意が整うらしい。
「お疲れ様です、ヨワマ……マルさん。こちら報酬です」
「ああ、ありがとう。ってかお姉さん普通にヨワマルって言ってない?」
「聞き間違いでしょう。また次もよろしくお願いいたします」
なんかちょっと小馬鹿にされてない?前から思ってたけど。
まあいいけどさ。なんとなく親しみも感じられるし、俺もヨワマルって呼ばれ方に慣れてきたわ。
レオンのところに戻ると三人ではなく六人居た。
「おう、マル。久しぶりだな」
「ガルシアじゃないか。なんでレオン達といるんだ?」
「いや、レオンがお前に何か話があるって言うからよ、俺も丁度お前に話があってな」
そこに居たのは”鮮血の両斧”のメンバーだった。
パスィーユの冒険者ギルドで一、二を争う二つの上位パーティーが俺に話ってなんだろうか。
「まずは僕から話そう。マル、君はこないだの戦いで痛感しただろう?その……なんというか、自分の弱さに」
「いいぜハッキリ言ってくれても。確かにそれは思った。弱いがゆえにあんな突飛な作戦を敢行したってのはあるな」
「その無茶な作戦が上手くいけばいいけど、毎回運は味方してはくれない。だから強くならないかい?」
「強く?一応これでもある程度鍛錬はしてるんだぞ。それでもこの雑魚さなんだからな」
レオンは俺にもっと強くなって欲しいのだろう。
というのも前回のパスィーユ防衛戦は死が隣り合わせだったからだ。
俺が弱すぎて守り切れない可能性を考慮したらしい。
「つまりだな、オレ達が言いてぇのはお前をもっと強くしてやるってことだ。どうだ?少なくとも人選は最高だぜ?」
よくよく話を聞くと二パーティーが俺に鍛錬をつけてやると言う話だ。
それは願ってもないことだが、彼らにも生活がある。
俺に時間を割きすぎて本業が疎かになるのではないか、と若干不安だ。
「そりゃあ嬉しいけど、それは申し訳ねぇよ。俺を鍛えるっていってもその間の収入はどうするんだ?」
「こんな事言いたくなけど、アタシら結構稼いでんのよ」
ミーシャが肩を竦めてそう言う。
まあ上位パーティーだ。討伐する魔物だって強力な奴だろうし報酬も大きいんだろうな。
「そういうこった。オレらの収入を案じてくれているようだが、何の心配もねぇ。なんなら半年豪遊しても生活できるくらいには貯蓄があるぜ?それに鍛えるつっても何年もやるわけじゃねぇ。数日から一か月程度のもんだ。その間お前の生活費くらいオレが出してやるよ」
「至れりつくせりだな。でもなぁ、おんぶにだっこってのは申し訳なさすぎる」
レオン達の提案は正直嬉しい。
それだけ俺を気に入ってくれてるってことだからな。
でもいくらなんでも助けてもらいすぎで後ろ髪を引かれてしまう。
「マルが強くなれば僕らが守らなくても大丈夫だろう?その分僕らの負担が減るんだ」
「確かになぁ……そうだな、みんなの負担が減るなら俺を鍛えてくれないか?」
「おっし!任せとけ!」
それから怒涛の鍛錬が始まった。
まずダンジョン内で気をつけなければならないこと、基礎体力向上の訓練、パーティーで行動する際のルールなど、色々と覚えることが多かった。
全部覚えたらようやくダンジョンへと行ける事になった。
"鮮血の両斧"と"夜明けの青雷"
二つのパーティーから鍛錬を受けると聞いた他の冒険者が騒いでいたが、残念ながら断られていた。
上位パーティーに訓練をつけてもらうなら正式に依頼しなければならないらしく、それも安いわけではない。
俺が無償で教えを請う事ができるのは、友人だからという理由ただ一つだった。
当然やっかみは受けた。
ギルドに顔を出せば他の冒険者から睨まれるなど当たり前。
足を引っ掛けようとする馬鹿もいたもんだ。
しかし、そんな様子を逐一チェックしていた斥候のミーシャが後でボコボコにしている。
気配もなく彼女が隠れて見ているなど気づけるはずもない態度の悪い冒険者は軒並みボコボコにされていた。
やりすぎじゃない?
ギルドの建物の裏で顔の原型がないほど殴られた冒険者を何人も見たが、その後そいつらが俺にちょっかいをかけてくることはなくなった。
その代わり変な噂が立つようになった。
ヨワマルに手を出したら殺されるとかなんとか。
全部ミーシャのせいだけど。
「ミーシャ、やりすぎじゃない?俺そこまで嫌がらせ受けてるわけじゃないぞ」
「馬鹿ねアンタ。冒険者は舐められたら終わりなのよ。ヨワマルにはまだ反撃できるだけの力がないから代わりにやってあげてるだけ。感謝しなさいよ」
舐められたら終わりか。
世界が違ってもそういうのは一緒なんだな。
まあもうちょっとうまくやれないもんかね。
「それより今日はどこのダンジョンに行くのよ」
「えっと確か万花の庭園ってとこだったかな?」
「そんなところに行くの!?……アンタ死ぬんじゃない?」
なんだミーシャのこの反応は。そんなヤバいところなのか?
「ガルシア達と行くんでしょ?それでも結構きついと思うけど……」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。ガルシアって上位パーティーだろ?それでもきついのか?」
「魔物の強さだけで言えば雑魚ばかりよ。でもね、そのダンジョン……とんでもない数の魔物が出るのよ」
ミーシャは嫌そうな顔でそう告げた。
俺……死ぬんじゃないだろうか。
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