第19話 貴族邸再び!
パスィーユ伯爵邸は相変わらず豪華だった。
二回目となると慣れる……こともなく、初回と同じように俺の心臓は鼓動が早くなっていた。
廊下に置かれてある壺一つとっても、俺が数年かけて稼ぐお金でも買えないレベルのはずだ。
緊張しないはずがない。
来客室へと案内されると、すぐにメイドがお茶を運んできた。
所作も洗練されてるし、俺はソファで縮こまる。
「すぐにルナを呼んでこよう、ここで待っていてくれたまえ」
伯爵はそう言うと来客室から出て行った。
どうせならメイドも一緒に出てくれないかな?
ずっと扉の側で立っていて微動だにしないから、気になって仕方がない。
「なんだ、マル。ここに来たことがあるのか?」
「ちょっと前に少しだけですけどね」
「ほう……?いつの間に」
俺はディーナさんと別れた後の話をした。
レオンの事、俺でなければ手に入れるのが難しい花を摘んできた事、そしてそれが伯爵令嬢の命を救った事。
ディーナさんは興味深そうに時たま頷く。
そんな話をしていると扉が開く音がして一旦会話を止める。
「お待たせいたしました」
伯爵がルナさんを連れ立って戻って来た。
ルナさんは俺を見るやいなや駆け寄ってくる。
「マルさん!」
「うおっ!」
勢い余って躓いたのか俺の股間にルナさんの頭が直撃した。
俺が蹲るとルナさんは申し訳なさそうに平謝りである。
「す、すみません!ついはしゃいでしまいました……」
「あ、いえ……大丈夫、ですよ」
俺の金玉が無事かどうか後で確認しよう。
「マルさんが無事でよかったです」
「まあこれでも冒険者ですから」
横にいるディーナさんは冷めた眼つきで俺を見ているが気づいていないふりをしておいた。
ゴブリン一匹くらいなら倒せるし?
冒険者名乗ってもいいだろ。
ルナさんの顔をじっくり見てみると目尻に若干涙が滲んでいた。
相当心配してくれていたようだ。
「それにしても鉄仮面殿が間に合ってくれたのは僥倖だった。この街の主力がいなければここまで防衛が脆いとは……これは少し考えねばならんな」
「私が間に合ったのは運が良かっただけだ。何者かが手引きしたのは明らかだろう」
手引きか、魔物を街に入れて暴れさせる理由が全然分からん。
人間の悲鳴を聞くのが趣味なやつでもいるんだろうか。
二人の会話に耳を澄ましているとルナさんの視線が俺の背中に注がれた。
「あれ?そういえばそちらの棒?は何なのでしょう?」
「これは俺の武器ですね、一応」
背中に担いでいる黒龍丸を降ろし被せてある布をはぎ取るとルナさんは、えっ?とでも言いたげな表情に変わった。
まあどっからどう見てもモップだしな。
「ええと……私には掃除用具に見えるのですが……」
「概ねその通りです」
なんだよ概ねって。
俺自分で言ってて笑いそうになったわ。
どっからどう見ても掃除用具じゃねぇか。
「モップ……で戦うのですか?」
「そうですね、それが俺の戦闘スタイルです」
モップで戦う様を想像したのかルナさんは呆けた表情で首を傾げた。
まあ可愛いから許そう。
「モップで戦うなどマルがこの世界で初めてだろうな」
そんなルナさんとのやり取りが聞こえていたのか、ディーナさんが会話に入ってきた。
世界初ってワード、なんかいいな。
「でも実際にこれでゴブリンを倒したんですよ」
「材質は……合金か。軽さを失わずに頑丈なモップ。金の無駄遣いだな」
「まあ俺向きの武器ですよ。それにこれ俺が買ったわけじゃないですからね」
「ほう?では誰かに貰ったのか?」
「騎士団長です」
俺がそう言うとディーナさんはしばし固まり鼻で笑った。
「フッ……どこの世界にプレゼントにモップを選ぶのか。パスィーユの騎士団長は曲者と有名だが、本当に曲者らしい」
めっちゃ言われてんぞサラスティさん。
というかディーナさんは騎士団長と面識がないようだ。
そんな中、伯爵がある提案をしてくれた。
「二人とも今日はこのまま泊まっていくといい。未だに街は後処理でゴタゴタしている。宿も無事とは限らんだろう」
それは地味に有り難い。
宿に戻ったはいいが燃え尽きて跡形もなくなってましたなんて事になると笑えないからな。
「ふむ……では泊まらせて頂こう」
「助かります、ありがとうございます」
伯爵邸にお泊りすることになった俺達は別々の個室を与えられた。
一緒かなとも思ったが流石に男女で分けてくれたらしい。
俺としては別に一緒でも良かったんだけどな。
ディーナさんの素顔を見れたかもしれないのに。
食事は相変わらず豪華だった。
パスィーユ伯爵家の方々と俺とディーナさんで料理に舌鼓を打つ。
「そういえばマルさんの故郷はどこなのでしょうか?」
おっと、それは答えづらいぞ。
日本なんて言っても理解できないだろうしな。
実際冒険者ギルドでガルシアに教えた時は知らないと言われたし。
チラッとディーナさんに視線を向けるとジッと見返された。
もしかしてディーナさんも気になってるのかな?
そういえば俺ディーナさんにも話してないな。
「あの……聞いてはいけませんでしたか?」
「ああ!いや、そんな事ありませんよ!」
俺があまりに黙り込んだせいでルナさんが泣きそうな表情になる。
危ない危ない、美少女を泣かすところだったぜ。
さて、それはいいとしてなんて答えるのが正解か。
別世界にある日本という国ですなんて言った所で頭がおかしくなったのかと思われる。
そうだ、こういった異世界だと大体東の国ってやつが存在する。
どう見ても江戸時代の日本みたいな国だ。
よし、それでいこう。
「東の国です」
「東?東というとマルトラン連合諸国ですか?」
なんだよマルトラン連合諸国って。
聞いたこともねぇよ。
クソッ……まさかこの世界には和風な国は存在しないのか?
「あーいや、えっと、そことは違うくて」
「ではフロライト聖王国ですか?」
だから聞いたことねぇよ。
どうみても俺に聖の要素がないだろ、とは言えず目を伏せた。
「では……更に東のルーン連邦でしょうか?」
おいおい、マジで東の国とやらはないのかよ。
困ったな……適当に嘘をついたのがバレるじゃないか。
「あー、そのー、なんと言いますか」
「なるほど……訳あり、ということですね?」
「そ、そうです!訳ありなんですよ!」
訳あり。なんとも便利な言葉だ。
とりあえず訳ありって言っとけばその場はなんとか凌げそうだな。
その場をなんとかやり過ごしたかと思えばディーナさんの視線はまだ俺を見ていた。
なんだよ、まだ気になるってのか?
それならその仮面を外してからだぜ。
器用に鉄仮面の隙間から飯を食ってるけど、どうやって食ってんだそれ。
にしても俺をジッと見過ぎじゃない?
「あのーディーナさん、なにか?」
「……お前の素性は謎が多いな」
まあそりゃあこの世界の人間じゃないからな。
信じてもらえないだろうから言わないけど。
「ふむ……マル君は秘密が多そうだ。身のこなしといい、その……弱いというか……あまり筋力にも恵まれていないようだし、今までどうやって生きてきたのだ?」
めっちゃパスィーユ伯爵が言葉を選んで発言している。
逆に気まずいわ。
でも、俺みたいな雑魚が五体満足で生きているのが不思議でならないんだろうな。
気持ち分かるなぁ……だってこの世界は魔物とかいう凶暴化した野生動物みたいなのがゴロゴロいるし、ちょっと出歩くだけでもそれなりの自衛は求められる。
俺にはそれができないから頭を捻っているらしい。
「まあ……強いて言うなら運ですかね?俺、運だけは昔からいいんですよ」
「運……か。果たしてそれを運と言っていいのか分からんが……。マル君の故郷では君のような……その、弱いといっては失礼だが、そのだな」
「いいですよ。俺が弱いのは周知の事実ですから。だからそんな言葉を選ばずに普通に言ってもらって結構です」
じゃないと話がしにくいわ。
俺がそう言うとパスィーユ伯爵は頷いた。
「では単刀直入に聞こう。マル君の故郷では君のように雑魚ばかりなのかね?」
……めっちゃ傷ついた。
伯爵の言葉は思ってた以上にストレートだった。
ブックマーク、評価お願いいたします!
誤字脱字等あればご報告お願いします。




