表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

第13話 逃げる勇気

兵士の亡骸を前に、蓮は立ち尽くしていた。


握り締めた短剣から、一滴、また一滴と血が流れ落ちる。


それが自分の血なのか、兵士の血なのか、もう分からなかった。


蓮「……俺が、もっと強ければ」


巨大な魔物はゆっくりと歩みを進める。


まるで蓮だけを狙っているかのように。


赤黒い瞳が、一瞬たりとも逸れない。


アイリス「蓮!」


矢が放たれる。


乾いた音とともに魔物の身体へ突き刺さる。


しかし矢は皮膚を貫けず、地面へ落ちた。


アイリス「そんな……」


魔物は気にも留めず歩き続ける。


ゼクス「全員、防壁の内側へ!」


村人たちが必死に後退を始める。


子どもたちの泣き声が響く。


家畜の鳴き声まで混ざり、村は混乱に包まれていた。


蓮「俺が止める」


アイリス「無理よ!」


蓮「でも!」


アイリスは蓮の胸ぐらを掴んだ。


アイリス「死ねば強くなるからって、何でも死ねばいいわけじゃない!」


蓮は言葉を失った。


アイリスの目には涙が浮かんでいた。


アイリス「私は……もう目の前で誰かが死ぬのは嫌なの!」


その声は震えていた。


強がり続けてきた彼女が、初めて感情をぶつけてきた。


蓮「アイリス……」


その瞬間だった。


巨大な魔物が咆哮する。


轟音とともに地面が割れ、門の一部が崩れ落ちた。


村人「門が!」


ゼクス「押し返せ!」


兵士たちが必死に支える。


だが限界は近い。


蓮は深く息を吸った。


蓮「……分かった」


アイリス「え?」


蓮「今は戦わない」


アイリスは驚いたように目を見開く。


蓮「勝てない相手に命を捨てるのは、勇気じゃない」


レイの記録。


死喰いとなった元転移者。


そして塔で聞いた言葉。


全部が頭の中で繋がった。


蓮「俺は、生きて強くなる方法を探す」


その一言を聞いたゼクスは、小さく笑った。


ゼクス「ようやく、その答えに辿り着いたか」


蓮「どういう意味ですか」


ゼクス「そのスキルを持った者は皆、『死ぬしかない』と思い込んでいた」


蓮「……!」


ゼクス「だが、スキルは『死ね』とは言っておらん」


蓮は息を呑んだ。


確かにそうだ。


"死ぬと強くなる"


それだけだ。


"死ななければ勝てない"とは、一度も言われていない。


ゼクス「考えろ。その力の、本当の使い方を」


その時。


巨大な魔物が突然動きを止めた。


空を見上げる。


次の瞬間、森の奥から黒い霧が現れ、巨大な魔物を包み込んだ。


蓮「何だ……?」


アイリス「魔物が……消えていく?」


巨大な魔物は抵抗することなく、黒い霧の中へ消えていった。


残された魔物たちも、一斉に森へ逃げ始める。


村人「退いた……?」


ゼクスの表情だけが険しかった。


ゼクス「違う」


蓮「え?」


ゼクス「あれは退いたんじゃない」


黒い霧が消える直前。


そこには、人影が立っていた。


顔は見えない。


黒いローブをまとった人物が、蓮のほうを見ていた。


そして、小さく笑った。


次の瞬間には、その姿も霧とともに消えていた。


蓮「あいつ……」


胸騒ぎが止まらない。


巨大な魔物よりも。


あの黒い人影のほうが、ずっと恐ろしい存在に思えた。

第13話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回、蓮は初めて「死ぬこと」ではなく、「生き残ること」を選びました。


そして物語の最後に現れた黒いローブの人物。


巨大な魔物を従えるその正体とは一体何者なのか。


次回、第14話から物語は新たな局面へ。


敵の目的、塔の秘密、そして蓮の能力の本質が、少しずつ動き始めます。


ぜひ次回もお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ