83 褐色幼女アミン3
頭の中の8割がスライム枕の事で埋まってしまった。とにかく今はスライムまくらが気になって仕方が無い。
虚ろと約束したのもあるけれど、それより大事なのは、ベッドの下に隠してきた事を思い出したんだ。
冷や汗が流れる。あれから何日経った?ニトラとライ姉にアレを見つけられてたらどうしようかと気が気じゃない。冷たい目で見られたら嫌だ。どうか見つかっていませんようにっ。
時間が無い。
「ルカっ!」
うおおーっと走り出し、ガチャッとノックもせずにルカの部屋に飛び込むと、天井からウサギちゃんに吊るされたくま吉が揺れていた。
えっ!?
予想外の光景にフリーズする。
「・・・・」
しかも、くま吉が助けて欲しそうに無言でこちらを見てきたし。うわー。
「そろそろ許してあげたら?」
「まぁ、貴方がそう言うなら」
「助かったぜ相棒」
片耳をくいっと曲げて応えてくれたのでほっとする。くま吉、貸し1だよ。
やれやれ、ん?何か大事な事を忘れそうになってるような。
「エクス・・どうしたの?」
ルカの困惑した声で、はっとする。
「あっ!そうだった。ルカ、明日帰ろうと思うんだけど」
「うん。いいよ?」
少し驚いた顔をしたまま理由も聞かずこくんと頷いてくれて一安心。さすがルカ。
でも、その顔はちょっと寂しそう。
だから言葉を付け加える。
「お祭り、来年も来ようね」
「うんっ」
破壊力抜群の笑顔でルカが頷いてくれて、ほっこり。
さてと、後は戦争とか言い出す物騒なロリっ子女王さまに釘を刺しておかないと。さすがに冗談だよね?
アミン様のいる部屋に戻ると、アミン様達が僕に期待の眼差しを向けてきた。うっ。
「エクス先生っ。それで亡命する決意は固まったかの?」
「エクス君、お姉さんが街を案内するよ。デートだね」
「「ちょっと、抜け駆け禁止!」」
ごめんなさい。声が小さくなる。
「いえ・・僕たちは明日帰る事にしました」
首を横に振ると、意外だったのかその場にいる全員がびっくりした顔を浮かべる。
「エクス先生、そこのクズから聞いた限りでは、帰っても良い扱いは受けぬと思うのじゃが?妾の国に亡命しようぞ」
「クズじゃねえ、ウラカルだ。悪いことは言わねえ、考え直せ。街に必要な物があるなら物でも人でも何でも俺が揃えてやる」
アミン様が宥めてきて、犯罪者も怖い顔で引き止めてきた。
悪くない提案だけど、自分の虚ろがNOと言っている。ベッドの下にあるスライムまくらは誰にも触らせないでと。
「いいえ、それでも帰ります」
理由はちょっと話せなくてごめん。せっかく僕の為に言ってくれたのに言えないよ。
「そんなっ!ルカ大先生のうやむや招致計画が。それに、この快適すぎる屋敷はどうするつもりなのじゃ?」
「ぐうっ、お前が帰ると不味いんだよ。イゼルとの二重契約になっちまうッ。頼む、考え直してくれっ」
「ボス、しっかりしてください」
あっ、違ったらしい。どうやら2人とも下心ありありのようで逆に安心。
アミン様は取り乱し、ネズミ顔の人がふらふらと血の引いた顔をして、部下の人に支えられた。
「ゴーストハウスは、廃棄します。あと、二重契約の話は僕には関係ないので」
「ふえっ!?この超遺物をか。それは、勿体無さすぎるのじゃ」
「お願いだ。頼むエクス。いや、エクス先生頼みます」
アミン様がわなわなと震え、ネズミの人もなんか力無く嘘だろって顔で震えてる。ちょっと同情するけど自分を優先するって決めたんだ。
「あのー。ゴーストハウスは良ければ差し上げます。ただし、1ヶ月したら無くなりますけど。それと、頼まれても困ります」
アミン様と部下の人が歓声を上げ、ネズミの人は死にそうな顔で沈黙した。なんか、ごめん。
「やったのじゃ!では、せめて賃貸料を払うのじゃ」
アミン様が慌てたのか金貨袋を落としてしまい、中の金貨が零れる。
僕の足元にころころと転がってきた金貨を1枚拾い上げた。
こ、これは、思わぬ高額な臨時収入になるか?流れで貰えそうだ。言ってしまえッ。
「確かにお代は頂きました」
ニッと笑ったら、
あっ・・・怒られた。
やっぱり、ぼったくりすぎでしたね。アミン様の声が低くなる。
「エクス先生。妾は、安い女では無いのじゃ!」
ん?アミン様にぐいっと何かを押し付けられて、顔が黄金色の光で染まったんだけど。
「えっ?こんなに」
「ふふん。妾はドワーフの女王アミン。見くびるでない」
ずっしりした重みの正体は金貨10枚。
・・・何だコレ?
良いの?
宿屋バブルが始まってしまったかも。
「アミン様、感謝します」
「・・キモいのじゃ」
うっ、だってこんなお金を手にした事ないし。ルカと山分けしても金貨5枚っ!
ひゃっほう。







