141 連撃のマーラ4
会議はつつがなく進行し、馬鹿なフールと虚ろを分断して罠にかけるという作戦が立案された。
捨て駒になる決死隊はイゼルの巧みな誘導によりリョグが受け持つ。
「それでは、実りのある会議になりましたね」
「はい、明日は死力を尽くしましょう。リョグ隊長、本当によろしいので?」
「舐めんな、覚悟は出来てる」
ようやく遅れてマーラが入ってきた。
「すまない、遅くなった」
戦時では強ければ何をやっても許されるため彼女に文句を言う人間はいないが、イエスマンは子爵より宿題を貰っていた。
「いえ。構いません。それよりマーラさん、エクスを探しに行かれたと聞いていましたが?」
「ふふふ。ついさっきエクスに温もりを貰ってきたばかりだ」
暖かそうにマーラはお腹を撫でる。
「鉄火場では血が滾ると聞きますが、少し自重してください」
「ふふふ、エクスは凄かったぞ」
興奮して揺れるおっぱいに、体の関係を疑うイエスマン。
「そこまで仲が良いのでしたら、報酬は可能な限りお支払いしますので、エクスに口添えを願えませんか?一度だけで良いのです」
「駄目だ!エクスにはこれ以上、迷惑は掛けられない。そんな事をすれば、もうアレ(バフ魔法)を私にして貰えなくなるかもしれないだろ」
マーラは怜悧な表情で威圧する。
「それは残念です」
「私とエクスの仲だからな。悪いが諦めてくれ」
会話を聞いていた魔法使いの老人ダルフは、絡みつくような視線でマーラを見た。
エクス?何も知らぬ姫様に擦り寄った道化師が。
「マーラ殿。先程からエクス、エクスと煩いが、はて?どこにも姿が見えませんな。肝心の街を守る戦いから逃げだすような輩に大魔導師の資質があるとは思えませんし」
「それは仕方がない。エクスは、ゴブリンにも苦戦するだろう。私が守ってやらねば。しかしながらエクスは私とともにある。その証明に今回の私の特別報酬は全てエクスに譲る約束をしている」
マーラもまだエクスの事を知らない。
唯一知っているウラカルは口の端を歪めただけ。
老人は、今度はマーラへと矛先を変える。
「そもそも、マーラ殿。貴女はS級とはいえ若く何も知らない。いや、知ろうともしない。先程、フールの命題や対策についての重要な対策会議を欠席されたが、どういうおつもりか?」
マーラは攻撃的に笑った。
「ふふふ。あははは。これだから魔法使いのお偉いさんはッ!魔法の本質が何も分かっていない」
「な、何がおかしいのだ?」
魔法使いと魔導師は仲が悪い。
マーラも、魔導師になった時、犠牲で魔力が10から3に減り魔力欠乏を頻繁に起こすようになってしまい魔術師の庵で冷遇され、冒険者ギルドに流れた経歴を持つ。
「魔導師は、強い命題とセットで致命的な犠牲を支払う。だが、犠牲を打ち消した私に不可能はない」
「犠牲を打ち消した?そのような事が?」
今までの常識を覆すような発言。
「事実だ。エクスならそれが出来る。連撃のマーラ、私の二つ名はエクスがいて初めて成立する!」
サポート1はマーラと相性が良すぎる。
「しかしそれとこれと何の関係が?先程の重要な会議を欠席した理由にはなりませんぞ」
「愚かな魔法使いよ。そろそろ現実を見るべきだ。現実は冷酷で、努力は必ずしも成果にならない。積み上げた理論は虚ろの壁の前に破綻する」
老害である頭の固いダルフを分からせるべく近づいたマーラの前に、立ちはだかったのは同じく老害イゼル。
この男、ダルフに恩を売ろうと筋力勝負に出たのか。
「落ち着きなさい、口が過ぎますぞ、お嬢さん。んんおおお?な、なんだと!?魔導師のくせにっ、なんだこの馬鹿力は!離しなさい」
「見ろ、これが魔法」
マーラに、片手で持ち上げられたイゼルが顔を恥ずかしさで真っ赤に。
その異様な光景を見た老人が、ようやくマーラの言っている意味を理解する。
「もしや、バフを使い続けている?まさかっ連撃だけでは無いというのか」
「その通り。魔法の本質は理不尽。表面的な事前情報に囚われるな」
完璧と思われた対策会議そのものにヒビが入り老人は崩れ落ちた。
「くっ」
「浅はかな考えではフールに飲まれるぞ」
マーラの圧倒的な強さを目の当たりにしてシーンとした室内で、ドブネズミのような小狡い目が光った。
「くくく。そんなに言うなら、明日は二手に別れよう。強さを証明してくれるんだよな?」
提案したのは、ウラカル。
イエスマンが「こいつ、見せ場を作りたいだけか」と真意に気付き、ギッと睨んだときにはもう遅いっ。
劣等感を刺激された他のメンバー達はウラカルの私欲に乗っかった。
「それがいいですな。スコアを捏造されても困りますから明日はアリエスを同行させなさい」
「良いだろう。明日が楽しみだ」
マーラが来るまで仕切っていたはずのイエスマンと援軍副長ブラインがこんなはずでは?とキョロキョロ。
「皆さんっ会議をやり直しましょう」
「さ、先程立てた作戦を」
「ブライン、顔を出したし私は帰る」
マーラが帰り、頃合いかとウラカルがニヤついて背中を見せると、その腕に姐さんが抱きつく。
「くくく、それじゃあまた明日」
「あんた、アタイ買って欲しいものがあるの。フールを倒したら、ねっいいだろっ?」
他のメンバーも、顔を見合わせると立ち上がった。
「へっ、シラケちまった。悪いがまだ死に華を咲かせるには早かったようだな」
「申し訳ないが、私は新型結界の管理があるので帰らせて貰おう」
「すみません。ギルドで仕事が残ってますので」
「クークルに追加情報を貰わねば」
なんだか仲間割れのような感じで、綿密なフール討伐作戦は白紙に戻り、二手作戦に決定!
分断されちゃってるけど、大丈夫?
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森の奥。
魔王ガチャで、迷い木(レア度N+)を引きまくるフールの横で、魔界テレビを見ていた黒い悪魔が羽をぱたぱたする。
画面には、作戦が瓦解して項垂れるイエスマンと領軍副長。
「うぷぷぷ。ざーんねん。勘のいい子は嫌いだよ。マーラちゃん」
なんと、上級魔法で作戦会議を盗み見ていたのだ。マーラがいないと逆に罠にハマっていたかも。
「フール、早くドラゴン引いてよー。街を玩具にしようよ」
「相手にとって不足なし!」
また迷い木を生み出したフールを横目に、お菓子をパリッと食べる。
「うーん。ちょっと頭を弄り過ぎちゃったかな?」







