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Episode17-4.どうやらあの子には好きな人がいるらしい。

「ただいま」


「おかえりぃ」


 まるで家に帰ったかのようだけどそうではない。

 俺とマユミが席に戻ると美咲と大翔くんが出迎えてくれた。


「2人して急にいなくなるから何かと思ったよ。何してたの?」


「ああ、ちょっと連れションにな」


 美咲が尋ねてきたので取り敢えず最適だと思われる答えを選んで答えておいた。


「んな訳あるかっ!」


 すかさずマユミが俺に突っ込みを入れる。

 そんなに怒ってばかりいたら疲れるだろうに。


「あはは……面白い人ですね!」


 席では美咲と大翔くんが談笑していた。

 見たところ先ほどのような妙な雰囲気は漂わせてはいない。

 美咲が一時的にからかってただけなのかな?


「あの、先ほどは失礼しました。俺、鈴木大翔(すずきはると)って言います。ミサ姉からは『ハル』って呼ばれてます」


 大翔くんは丁寧に挨拶をしてくる。なんだ、すごくしっかりした子じゃないか。


「ああ、俺は山田有真人って言うんだ。アルって呼んでくれ」


 俺も自己紹介をする。

 自分で自分のフルネームを口にする事自体が久しぶりだ。


「あの、ミサ姉から話を聞きました。ヘッドフォンを選んでくれたんですよね?ありがとうございます!すごく嬉しかったです!」


 おお!本人の口からヘッドフォンのお礼をもらえた。

 すごく良い奴だな。

 あ、でもそこらへんは美咲の関係者だし、もしかすると何かしら裏の顔があったりするのかもしれない。

 取り敢えず油断はしない方が良いな。


「それで……えっと、大翔くんはさ、なんで……」


「あ、ハルって呼んでください。そっちの方が呼ばれ慣れてますんで」


 ああ、確かに俺だってアルって呼ばれた方が気が楽だしな。

 それは昨日、マユミから『山田くん』って言われてから特にそう思うようになった。


「ああ、じゃあそう呼ばせてもらう。俺の事はアルって呼んでくれ」


「はい、アルさん!」


 やっぱりすごく良い奴じゃないか。

 初対面だってのに、俺の顔を怖がってないし。


「じゃあ話を戻すな。マユミとはどこで知り合ったんだ?」


「あ、はい。SNSで……」


 まあそんなとこだろうと思ったけどな。

 ちなみにマユミはあまりその事を深堀りされたくないのか、興味無さそうに飲み物を飲んでいるけど、おそらくハルが下手な事を言ってしまわないか、気が気でないのだろう。聞き耳を立てているのがよくわかる。

 別に弱みなんて誰にでもあるんだし、俺はそれをネタにどうこうしようなんて思わないんだけど、マユミは俺の事を信用なんてしてないだろうからな。


って言うか、マユミにとっては弱みだと思ってるかもしれないけど、俺にとっては弱みでも何でもない。

 ただの趣味のひとつだと思ってる。

 さっきは洗面所でそう話したんだけどな。まあでも嫌いな奴に言われたんだ。マユミもそんな簡単には切り替えなんて出来ないんだろう。

 そう思ってたら、マユミが口を開く。


「私としては美咲とあんたが一緒にいることが不思議なんだけど。何?あんた、まさか二股でもしてんの?」


「人聞きの悪い事言うんじゃねえよ。友達と遊びに行くぐらい誰だってするだろう?」


 本当に俺ってマユミからの信用が無いな。


「マユミったら、そんな訳無いじゃん。私達、ただの友達だよ?今はね」


 って、含みを持たせるなよ!美咲の場合タマと違って本当に裏がありそうで怖いんだ。


「ま、まあ、美咲が言うんなら信じてあげるけどさ……」


 どうやらマユミは個人の信用度を人の好き嫌いで判断しているらしい。

 それって重要な判断を誤る可能性があるぞ?

 いや、現に俺の人間性っていう判断を間違えてるぞ?

 まあ人間らしいって言えば人間らしくて嫌いでは無いんだけどな。


「マユミはこれからどうするの?私とアルくんは、うーん……どうする?そこらへんぶらつきながら帰る?」


 そうか。美咲はこのイベントが終わった後の事はノープランだった訳だな。


「そうだな。前に美咲と一緒に行ったあの駅ビルあるじゃん。あの時は結局全部回れなかったし、帰りに寄ってくか」


「うん、そうだね。で、マユミは?」


 美咲が尋ねると尋ねられた方のマユミは残念そうな表情になる。


「ごめん。私達、他のレイヤーさん達とこの後打ち上げでさ」


「そうなんです。ごめんなさい」


 ハルもマユミと一緒になって謝る。気遣いできる良い中学生だ。


「あの、アルさん。もし良かったら連絡先の交換してくれませんか?」


 ハルがスマホにQRコードを表示してきたので登録する。

 俺にとってはレオ以外で初めての男友達だ。

 そしてそんな笑顔でスマホを差し出すハルの隣で、マユミが何故かその様子を、苦虫を噛み潰したような表情で見ていたのだった。





「何だか俺、マユミの男の好みがわかったような気がする」


「うん、偶然だね。私もわかっちゃった」


 名古屋に向かう地下鉄で隣り合って座った俺と美咲がお互いに正面を見ながら話す。

 おそらくマユミはかわいい系の顔をした男が好きなんだろうな。

 それの極めつけがレオって事か。


 ブブッ


 おっと、バイブにしていたスマホから通知が来た。


《あんたね、レオくんだけじゃ飽きたらず、ハルくんにまで手を出すつもり!?いい加減にしなさいよねっ!》


 いや、マユミこそいい加減にしろよ。

 俺がマユミからのメッセージを見て溜め息をつく。


《んな訳ないだろ!俺はレオもハルも狙ってねえよ!》


 どうせ信じてもらえないだろうけど、きちんと反論しておかないとな。


「何だか最近、アルくんって溜め息が多いよね。そんなんじゃ幸せが逃げちゃうよ?」


 そんな俺を見て、美咲は笑顔でそんな事を言ってくるのだった。




 そう言えば、前回ここに来たのって先月だったな。

 今日は特に何かイベントをしてる訳でもないようだ。

 それなりの広さの催事場には先月のようなステージではなく、このビルに入っている各店の目玉商品の展示がされているのみだった。


「今日は何もイベントしてないね」


「そうだな」


 多分俺はもしかしたら何かイベントをしていて、そこにクリスがいるかもしれないと考えて、ここに来たんだろうな。

 どうも自分のこの女々しさに嫌気がさしてくる。


「さて、それじゃ、あの時の続きから見てこうよ!」


 どうやら美咲は前回の、イベントに気付く直前まで見ていた店を覚えているらしい。


「俺はどこまで見てたか覚えてなかったってのに、美咲ってすごいな」


 すると美咲はちょっと照れながら、俺の顔を見上げる。


「そうだねぇ……。やっぱり大切な人との思い出だからね。細かい事も覚えてるよっ!」


 って、美咲はそんな事をしれっと言ってしまう。

 いったいどこまで本気なんだか……?

 今現在、俺にとって一番謎の人なんだよな。美咲って。


 そして俺達は先月に行くことの出来なかった場所を巡り、そして名古屋を後にしたのだった。




「今日はいきなりだったけど、遊んでくれてありがとう。また明日ね、アルくん!」


 家の近所の踏切で美咲と別れる。

 今日はハルっていう年下の男友達が出来たし、マユミの意外な一面も見られた。

 何だか得した気分だ。

 昨日、土曜日はみんなで勉強会も出来たし、タマも前よりは良い成績をとれそうだな。

 充実した週末だった。



 そして翌日……。

 教室移動でたまたまB組とかち合ったようで、タマと2人、廊下を歩きながらにこやかに談笑するマユミとばったりと出会った。

 いきなりわかりやす過ぎるだろ?

 そこにいたのはケバすぎるギャルメイクのマユミではなく、昨日カメラを持ってハルを撮影していたナチュラルメイクのマユミだった。


「……何よ?」


 俺に向ける冷たい視線。

 いや、ちょっと照れも入ってるか?


「うん、やっぱりケバいギャルメイクよりもこっちの方が良いな」


「ですよね、アルくん!私も今朝、マユミさんを見て、びっくりしたんですよっ!」


 タマが興奮気味にマユミを褒める。


「ああ、そうだな。なかなかきれいだしかわいいじゃないか。マユミ」


 俺がそう言うとマユミは顔を真っ赤にして俺を見上げてきた。


「か、勘違いしないでよねっ!?別にあんたに言われてそうしたんじゃないんだからねっ!レオくんの為なんだからねっ!」


 マユミは人差し指をビシッと差して、またツンデレお決まりのセリフを言う。


「わぁ~、マユミさんってレオちゃんの事が好きだったんですね!」


 タマも今頃気付いたのかよ……。


 廊下で盛大に墓穴を掘ったマユミはタマにまで自分の気持ちを知られてしまい、赤かった顔をさらに赤く染めたのだった。

 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 あと、ブックマークの新規ご登録、ありがとうございます!

 ブックマークが増えるとすごく励みになります。


 さて、前話から登場したマユミさん、何だかポンコツ臭がして参りました。

 さらに話が進む毎にマユミさんのポンコツっぷりが発揮されていきますのでお楽しみに。

 ちなみに次の18話と19話は元々最初っからポンコツだった。あのヒロインの成長っぷりを楽しんでいただける内容となっておりますので、お楽しみに!


 それではまた♪

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