Episode16-5.どうやら彼女はやる気らしい。
タマがお題を取ったのは一番最後。
だけど運が良い事に、お題の置いてある台は俺の座っていた応援席のすぐ目の前だった。
俺達の目の前には……うわっ!
いや、うわっ!は失礼だけど、美咲が……誰か小さい少女?を連れて、ちょっとゆっくりめに走っている。
そうか、ついに美咲は少女を誘拐しちゃったのか……って違うな。
あれはチコを連れているんだ。
もしかして美咲の引いたお題目は「ちびっ子」だったとかか?
美咲にしては走るのが遅いけど、それは足の遅いチコに合わせてるんだな。
あのスピードならば簡単に追い付け……ない!せっかく早くから俺を借りられたって言うのに、タマの足もかなり遅い。
下手したら後続にまで抜かれてしまうぞ?
まあその抜かれる恐怖は美咲も同じだろうけどな。
ああ、でもちょっとずつ前との差が縮んではきてるっぽい。
それならば……。
「タマ、足を高く!」
するとタマはそれを意識したのだろう。
返事までする余裕は無さそうだったけど、それでも少し速くなったような気がする。
そう、タマは身長170センチ近く。
そこらの女子に比べると背が高い。
ましてや身長140センチ程しかないチコとの身長差は歴然だ。
この身長差って走る時には結構アドバンテージになる。
しかも相手は運動神経0のチコ。
これならばもしかすると1人だったら女子全員相手に無双出来るほどの運動神経を持つ美咲にも追い付けるかもしれない!
美咲とチコは目の前。だけどゴールも目前。
俺とタマは少しでも、少しでも前へ出られるように、走り……そして最初にゴールテープを切ったのはタマだった。
「はぁ………はぁ………」
タマは肩で息をしている。
僅差でゴールしたチコもそんな感じだ。
その割に美咲はケロッとした顔をしている。
やっぱりたいしたもんだ。
審判の女子生徒がタマの借り物の内容を確認し、何だか少しにやけた顔になりつつもOKを出す。
これでタマの1位は確定した訳か。
そして同じように美咲にもOKを出して2位の旗を渡す。
「もう……アルくん、タマちゃんに協力するなんて、これっていわゆる裏切りだよねぇ」
美咲はそれでもたいして気にしてない様子で俺に笑いかける。
「あ……」
どうにかタマにトップを取らせてあげたいって一心で忘れていた……。そう言えばタマって白組じゃないか!
「へへっ、バーカ!」
くっ!チコの俺をバカにしたようなあの顔……!
「あっ、あのっ!アルくん。ありがとうございました!」
タマが俺に頭を下げる。
「あ、あの、まさか私が体育祭で1番を取れるなんて、一生掛かっても無理だと思ってました。アルくんには感謝の言葉もありません!」
まあ、タマが喜んでくれたし別に良いか。それよりも……。
「タマの借り物って何だったんだ?俺はそれが気になる」
するとタマは、急に顔を赤く染める。あー……なんかわかったような気がしてきた。
「あ、あの……『好きな人』です」
それだけ言い残すとタマは真っ赤になって応援席に逃げて行った。
「あはは……。タマちゃんもくじ運が良いんだか悪いんだか……」
美咲が逃げていったタマを見て微笑んでいる。
「ところでさぁ。私は何だったの?委員長先輩」
チコ、そろそろその呼び方改めないか?
すると尋ねられた美咲は少しばつの悪そうな表情になる。
ああ、チコには言いにくいお題だったんだな?
「え、えーっと……私のお題は……そう!『美少女』!チコちゃんスッゴいかわいいもんね!」
俺から見ると美咲は明らかに何かを誤魔化そうとしているのがよくわかる。
まあ確かに、チコは口さえ開かなければ、姉に負けず劣らず美少女そのものだ。
ただ、それを聞いたチコは何だか照れくさかったのか、珍しく顔を赤くしてるし。
「そんなお題だったんだ。俺はてっきり『ちびっ子』とでも書いてあったのかと思ったんだけどな」
するとそれを聞いた美咲は慌てた様子で、「アルくん!しー!しー!」なんてあからさまに怪しいリアクションをする。
「うん……どうせ……そんな事だろうと思ってたよ……」
さっきまで喜んでいたチコは美咲のそのリアクションを見て全てを察したのだろう。何だか打ちひしがれている。
「あ、あのね、チコちゃん。かわいいって思ってるのは本当なんだからね?あの、あんまり落ち込まないで」
「ああ、うん、大丈夫だよ……。委員長先輩も気を使ってくれて嬉しいよ……」
そんなチコを見て美咲は必死でフォローをするんだけど、チコは結局最後まで拗ねていたのだった。
そして俺と美咲も応援席に戻る。
「もうっ、アルくん。チコちゃんかわいそうじゃん」
「あれ?まさか俺のせいなのか?」
どっちかって言うと、美咲があんなリアクションするからバレたんじゃね?とは思うけど、ここは黙っておこう。
美咲が怒ったとこなんて想像出来ないけど、万が一怒らせたら俺の命に関わるからな。
さあ、次の俺の出番は最終種目の男女混合リレーだ。
うちのクラスは美咲が3番手で俺がアンカーをする事になっている。
特にバトンの受け渡しなどの練習はしてないけれど、まあ美咲がいれば大丈夫だろう。
「まあアルくんがいれば大丈夫だよね!」
どうやら美咲は俺を頼りにしているらしい。
そうだな。ここはいっちょ、俺の実力を見せるとしようか!
「アルくん、委員長、頑張ってね!」
ガッツポーズを見せるレオに見送られる。
そして俺と美咲はお互いに気合いを入れつつ、入場門へ向かったのだった。
「いやぁ。勝負に勝って試合に負けたとは、まさにこの事だねぇ」
「ああ、そうだな。だけど俺はアイスを奢るハメになっちまった」
体育祭も無事終わり、俺達は教室に戻った。
「もう、今日はくたくただよぉ。でもこの後部活なんだよね」
レオは机に突っ伏してスライムのようにとろけている。
俺達2年生のリレーは、美咲、そして美咲からバトンを受け取った俺の活躍でぶっちぎりの1位だった。
その時点で点数も赤組を抜いてたんだけど、最後の最後、3年生の結果が悪く、結局僅差で負けてしまった。
別にこの体育祭で負けた事自体は全然悔しくはないんだけど、家に帰ってからドヤ顔になってるチコを想像するとちょっと悔しくなってくる。まあでも負けは負けだ。ダッツでもマグナムでもお福アイスマックでも、何でも奢ってやろうじゃないか。
「アルくーん!」
そう覚悟を決めていたら、いつものように迎えに来るタマ。
そして俺はレオと美咲に別れを告げて、教室を後にしたのだった。
「今日はすっごく楽しかったです!今まで憂鬱だった体育祭をここまで楽しめたのは、アルくんのお陰です!本当にありがとうございました!」
タマが嬉しそうに礼を言う。俺もタマが笑顔になってくれるのが嬉しい。
秋の色が濃くなってきたこの季節。俺とタマの間に涼しげな風が秋の香りを乗せて通り抜ける。
「それに、アルくん、すごく格好良かったです!大活躍でしたね!私、彼女として誇らしかったです!」
タマは少し興奮気味に俺にそんな事を伝えてくる。頑張った甲斐があったってもんだ。
体育祭が終わるとしばらくは大きなイベントなどはない。
ちょうど生徒会の任期もこの時期に満了となる。
アンも肩の荷が下りる事だろう。
今日は生徒会役員で打ち上げをするらしく、アンは夕食がいらないって事だ。
アンはそれさえも面倒そうにしてたけどな。
「そう言えばアン会長も、格好良かったですよね」
うーん、普段のアンを知ってるだけに、それはどうなのかなぁっ?って思える。
「そうだ。もしあれだったらさ、タマ。アンの後釜に座ってみたらどうだ?生徒会に入ると進学有利になるらしいぞ?」
俺は冗談っぽくタマにそんな提案をしてみる。まあ冗談なんだけどな。
ただタマはそれを冗談とは思わなかったようで……。
「あっ!それも面白そうかも……?当選出来るかどうかはわかりませんけど……何だか楽しそうですよね!」
「えーっと……タマ?俺、冗談だったんだけど、もしかして本気か?」
夕日の射す帰り道。
俺の隣を歩くちょっぴりアホな彼女は俺の問いかけに笑顔で「はいっ!」っと答えるのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
今回もブックマークの新規ご登録、誠にありがとうございます!
ニッチな作品ではありますが、楽しんでいただけるよう、全力で執筆しますので、末長くよろしくお付き合いください!
さて、この章からマユミというキャラクターが登場します。
最近はこの子の話を書くのが楽しくてしょうがなかったりします。
この子の活躍も是非ご期待ください!
さて次回は第17話。全4部分でお送りする予定です。お楽しみに!
それではまた♪




