Episode16-3.どうやら彼女はやる気らしい。
俺は今まで生きてきた16年間、知らないうちに赤の他人から恨みを買うような人生なんて歩んできてはいないと思う。
もしかするとそう思っていただけで、俺は知らず知らずのうちに誰かから恨みを買うような事をしてたのか?
俺の目の前にいるマユミはその明らかに慣れてなさそうなケバいメイクを施した顔で、何故か俺を睨みつけている。
そして俺はおそらくかなり困惑をしているのだろう。
「あ、あのっ!アルくん、マユミさん。そろそろ校庭に戻りませんか?」
するとタマがそんな空気に耐えかねたのか、俺達2人にそんな提案をする。
そりゃそうだ。いくら体育祭だって言ってもずっと席を外していたらただのサボりになる。
「う、うん、そうよね……。行こっ、タマ」
俺とタマを引き剥がすかのように、マユミはタマの手を引いて保健室を出て行く。おいおい、そんな急かせると、またタマがこけてしまうぞ?
俺はそんな事を危惧しつつ、2人に続いて保健室を出たのだった。
「なあタマ。今日の昼なんだけど、美咲とレオの3人で昼を中庭で食う約束してんだ。タマも一緒に食わないか?」
ずんずんとかなりの推進力で進んでいくマユミに手を引かれているタマに、何とか追い付いた俺はそんな提案をしてみた。
我が校で最大勢力を誇る園芸部が整備をし、色とりどりの花が咲き乱れる中庭で食べる昼食はさぞかし美味い事だろう。
すると今まで早足で歩いていたマユミだけど、何があったのか急にそのスピードを緩める。
俺かタマに気を使ってくれたのだろうか?まあマユミの今までの態度で考えると、タマに気を使ったんだろうけどな。
すると提案を受けた方のタマは少し沈んだ表情を俺に見せる。
「あ……あの……私」
どうもタマの答えははっきりしない。
「良いよ、行ったら?タマ。私はミク達と食べるからさ」
そんなタマにマユミは少しふてくされたような表情で、それでもタマには俺達と昼食を一緒に食べるように促す。
もしかして既に2人で一緒に昼食を食べる約束でもしてたのか?
それならば悪い事をしたな。
「あ、じゃあ、こうしたらどうでしょう!」
何だか良い事を思い付いたのか、タマは笑顔で俺とマユミに1つの提案をしてきたのだった。
「おかえりぃ。結構時間掛けてたけどどうだった?タマちゃん」
「ああ、擦りむいただけでたいした事はなかったよ」
席に戻った俺に心配そうな表情で美咲が尋ねてきたので、俺は心配ない旨を伝えておく。
「そっかぁ。あ、でもアルくん、ちょっと残念だったね!さっきの障害物競争、レオくんが大活躍だったんだよ」
おお、もしかしてレオ、トップでも取ったのだろうか?
「ただいまぁ。ごめんね、やっぱりビリだったよ」
「大丈夫だよ。障害物競走なんてネタ競技みたいなもんだしね。それよりあんな見せ場を作ったんだから良いじゃん!」
おそらく飴玉探しのせいだろうな。
粉で真っ白な顔をしたレオが帰ってきた。
え?でもビリだったのに大活躍って……。
ああ、レオがどんな見せ場を作ったのかが気になる!
「なあ美咲、レオってどんな見せ場を作ったんだ?」
「えーっと……レオくん、言っても良い?」
美咲はレオの方を向いて確認する。
するとレオは粉だらけの顔でもわかる、めっちゃ嫌そうな顔で、首がねじ切れるんじゃないかってぐらいの勢いで頭を横に振る。
「だって。レオくんの名誉の為に、私は黙っとくよ」
美咲はそんなレオの様子を見て苦笑し、そしてレオは美咲が口を噤んだ事で胸を撫で下ろしていたのだった。
いったい何があったのか……。めっちゃ気になる。
「あ、そうそう。昼なんだけどさ、タマも誘っといた」
「おっ、さすがアルくん、気が利くねぇ」
「それでさ、その流れでタマのクラスの友達も一緒にお昼をする事になったんだけど、それでも良いか?」
そう、それはついさっきの事。
「みんなでお昼を食べませんか?きっと楽しいと思います!」
「ああ、それも良いな」
タマの提案に俺ものっておく。
この短い間のやり取りだけでも、このマユミが悪いやつではないって事はよくわかった。
それならば、少しでも一緒の時間を過ごして、俺を嫌っている原因を探る事さえ出来れば、もしかしたらこの状況が改善されるかも?なんて思ったんだ。
「うん、わかった。さ、タマ。早く行くよっ!」
マユミは短く返事をして、足早にタマを引っ張っていった。
俺がいるから来ないかも?なんて思ったけど、案外あっさりと決まったな。
まあよくわからないけど、これで良かったんだよな?
俺はそう自分を思いこませながら、校庭に戻ったのだった。
「へぇ……タマちゃんって、私以外にも友達いたんだ」
美咲も大概失礼だな。
あれ?でもちょっと待てよ?俺の同性の友達って、レオ1人だけ。
対してタマの同性の友達は、美咲とマユミの最低でも2人。それにアン、チコ、奈緒の3人とも仲が良いし……。なんだ?この敗北感は。
「ちなみにどんな子なの?」
美咲が興味深そうに尋ねてくる。
今まで自分がタマの唯一の友達だと思ってただけあって、興味があるんだろうか?
「覚えてるかな?夏休みにさ、中庭でレオと話してた時に声掛けてきた園芸部員。あのギャルっぽい……。名前は真弓麻由美ってんだけど」
すると美咲は思い出したのか、ハッとした顔になる。
「ああ!名前だけは知ってたけど、あの子だったんだね!アルくん知らないかな?いつもテストで学年3位の子。その子があの子だったんだ!私、変わった名前の子だなって思って覚えてたの!」
「うん、マユミちゃん、スッゴく頭良いんだよね。しかも園芸部の副部長で、部長の僕なんかよりも、よっぽどしっかりしてるんだよ!」
俺達の話を聞いていたのか、レオも話に入ってくる。
そうだったのか。俺はあの子の事をアホの子かと思っていたけど、どうやらそうでもなかったらしい
人は見かけによらないとはよく言ったものだ。
俺はマユミに対して失礼な考えを起こした事を心の中で謝罪しつつ、競技の観戦を続けたのだった。
この高校の中庭は遊具こそないけど公園のような作りになっていて、天気の良い日は普段でもここで食事をする人が多い。
大量の部員を抱えたこの学校の園芸部が手掛けたこの中庭は、地元のテレビ局にも紹介されるほどの場所になっている。
だけどアンの話では数年前までの園芸部は、部員が数名しかいないような、いわゆる零細部だった。
それが変わったのは去年の4月。
急に部員数が拡大し、現在は150名を超える大所帯となった。
ちなみにレオは園芸部唯一の男子部員。他は全員が女子だったりする。
俺と美咲、レオはちょっと早めにここに来て、きれいに刈られた芝生の上で弁当を出す。
そしてそこへ少し遅れる形でタマと、そしてマユミが弁当を持ってやってきた。
「ヤッホー、マユミちゃん!」
「あっ!レオくん♪ぐ、偶然だねっ!」
レオがマユミに挨拶をし、マユミが先ほどの俺には絶対に見せなかった乙女のような仕草で顔を赤らめつつ、何だか微妙な距離感でレオの隣に座る。んんっ!?これって……?
「隣、失礼しますね?」
そしてマユミと俺の間にタマが座り、みんなで談笑しながら食事を楽しむ。
「へぇ……じゃあタマちゃんとマユミって、元々あんまり話した事無かったんだね」
「うん、そうそう。タマってクラスでもぼっちだったしさ。私もちょっと遠慮しちゃってたんだよね。でも話してみたら思ったよりも明るくて、面白い子だった訳で……」
ケバいギャルメイクのせいで、取っ付きにくそうな雰囲気のマユミだけど、案外コミュニケーション能力は高いみたいで、すぐに美咲とも打ち解けたようだ。
って言うか、美咲の方は何だか最初は話してても目が笑ってなくて少し怖かったけど、今はそうでもないな。もしかして最初は警戒でもしてたのか?
「そう言えばタマ、レオ。来月はまたテストだけど、勉強は順調なのか?」
まだ9月の中旬とはいえ、ボーッと過ごしていたら時間なんてすぐに過ぎ去ってしまう。
それにタマは俺と同じ大学に入るっていう目標があるんだし、それ以前に三葉さんを充分納得させられるだけの成績を、ある程度の節目までに達成しないといけないしな。
「順調がどうかは……毎日復習はしてますけど……」
「僕もそんな感じ」
もしかして長い間成果を試す機会がなくて2人とも勉強に対するモチベーションが下がり気味か?
「ねえ、アルくん?」
美咲が俺を見る。美咲の言いたい事はわかった。
「ああ、そうだな。じゃあ今週末、久々に勉強会を開催するからな!」
俺は高々と宣言する。
「はい!すごく楽しみです!」
「わぁーい、久々のアルくん家だぁ!」
この2人、勉強をしにくるんだって、本当にわかってんのか?
するとその様子を黙って見ていたマユミが驚いたような表情を浮かべている。
「なにそれ……?スッゴく面白そう!ねえ、私もそれ、参加したいっ!」
まるで身を乗り出すかのような姿勢でマユミが参加を希望する。
そんなマユミの瞳はまるで、古典的少女マンガのキャラクターのように、目をキラキラと輝かせていたのだった。
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