Episode16-2.どうやら彼女はやる気らしい。
タマは……多分保健室かな?
考えてみたら保健室に行くのなんて、タマから告白された時以来だ。
あの時は付き合う事は付き合うけども、まさかタマとここまで深い関係になるなんて全く思わなかった。
それにしてもタマのあの怪我……まあ普通に擦りむいただけだろうけど、ああ言うのが実は結構痛いんだよな。
「失礼しまーす」
俺は一言断って保健室に入る。
「あ、アルくん!」
椅子に座って嬉しそうな表情で俺を見るタマ。
そしてその傍らには俺を見て凍り付く女子が1人……あれ?どこかで見た事があるな。いつ、どこでだったっけ?
「あ、マユミさん。紹介しますね。この人が私とお付き合いしてくださっている……」
「や……山田……アル!」
その子は俺を睨み付けながら俺の名前を呟く。
「あ、マユミさん、知ってたんですね!」
この名前の呼ばれ方……あっ、思い出した!そう言えば美咲と体育倉庫に閉じ込められた日に俺を睨んできたギャルだ。
「え……園芸部員……その1!」
「違うっ!私にはマユミって名前があるのっ!」
俺がこのマユミっていう子の真似をすると怒られてしまった。
結構怒りっぽい子なのかな?
「ま、まあ良いわ……。ちょっと今、保健の先生いないみたいでさ。私、探してくるから、あんたはタマを見てて!」
そう言ってマユミは保健室を出て行った。随分と激しい性格だな。それにケバい。
性格はクリスをキツくした感じか?……ってダメだな。俺は何かあるとすぐにクリスを思い出してしまう……もうクリスが俺の前に現れる事なんて無いのに……。
俺は頭を切り替えてタマの様子を見ると、見たところ何の処置もしてないみたいだ。
でもこれぐらいの傷なら別に先生はいらないだろうに。
俺は1回軽く溜め息を吐くと棚からガーゼを2枚とサージカルテープと保湿フィルムを取り出す。
やっぱり使用頻度の高い道具は見えやすいところにあるんだな。
「タマ、歩けるか?」
「あ、はい」
そして俺は水道の近くに立ってタマを呼び寄せる。
別に怪我をした方の足を庇うとかそういった様子もない。
本当、普通に擦りむいただけだな、こりゃ。今後の競技にも影響は無さそうだ。
俺は水道近くに来たタマの靴と靴下を脱がす。
「ほら、足洗え」
俺が蛇口を捻って水を流すと、タマは恐る恐るその流れに膝を入れる。
「んっ……!」
タマが苦痛に表情を歪める。
この水に入れる瞬間が一番痛いんだ。
ただしっかり洗わないと、色素沈着を起こしてしまうもんな。
タマの美脚とも言える白い足が、膝だけ黒くなるのは俺としても嫌だ。
タマにはいつまでもきれいでいてほしい。
そして俺は膝に付いた水気を軽くガーゼで吸い取り、保湿フィルムを患部に貼り付ける。
最後にサージカルテープで固定したら完了だ。
「す、すごいです!アルくん。なんでそんなに慣れてるんですか?」
いや、そんな事で驚かれてもな。
だいたいタマもマユミも簡単な応急処置も出来ないんだろうか?まああまり深く考えないでおこう。
「まあ奈緒が小さい時はよく転んで泣いてたしな。それに俺には運動神経0の幼なじみが2人いるし、嫌でも慣れるってもんだ」
特にアンよりもチコの方が無謀な事をしたがるようで、とにかく怪我をよくしてた。よく16年間も生き残れたよ、本当に。
そう言えばアンは昔っからインドアだったし、あまり変な怪我とかはしなかったな。
そんな事を思い出しつつタマと話をしていたら、いきなり保健室のドアが開く。
「先生、早く早くっ!タマが死んじゃうっ!」
あんな怪我で死ぬのなら、ウチの学校の校庭は有害物質で相当汚染されてるんだろう。
まあ考えてみたら俺達の住んでいる場所って何十年か前に公害の問題のあったとこだし、今も化学工場がたくさんあって、数年に1回は爆発事故が起きているもんな。
そんな可能性も……いや、あってたまるか。
このマユミと言う女、もしこれがネタでないとしたら、結構アホの子なのかもしれない。
タマと仲良くしてるんだ。類は友を呼ぶって言うしな。
そしてそのマユミの後から入ってきたのは俺が告白を受けたあの日にお世話になった養護の先生だ。
いったいどこにいたんだろう?
「はい、じゃあ早速見せてもらえる?」
「あの、大した事無かったので応急処置は俺がやっておきました。でも一応確認しといてください」
俺が説明をして、タマの患部を示す。
「うん、ちゃんと出来てるわね。これだったら跡も残らないと思うわ」
それを聞いて俺は胸をなで下ろす。すると俺と同じようようなタイミングでマユミも胸を撫で下ろしていた。
なんだ。案外良いやつっぽいじゃないか。
「じゃあ私は行くわね。体育祭の間は本部テントにいるからそっちに来なさいね?3人とも早めに戻るのよ?」
そう言い残して先生は保健室から出て行った。
なんだ。先生はそっちにいたのか。知らなかったな。
俺と同じようにマユミもタマも知らなかったんだろう。
怪我をする事なんてないとは思うけど、一応気をつけておこう。
「い、一応礼をいっとく。……ありがとう」
マユミは俺から目を逸らしながら礼を言う。
うん、やっぱり良いやつそうだ。
「いや、そんな、礼を言われる程の事はしてないぞ?だから気にすんな、マユミ」
「あっ、あんたなんかに名前を呼ばれたくないっ!」
いやいや、自分でマユミって名乗っといて名前を呼ばれたくないなんて理不尽極まりないな。
じゃあやっぱり園芸部員その1で良いのか?
「じゃあなんて呼べば良いんだよ?えっと、マユミって名前か?名字は?」
「……真弓……」
ああ、マユミって名字の事だったのか。
じゃあこの子は名前で呼んでほしいって事なんだな。
なんだ、案外フレンドリーじゃないか。
「じゃあ下の名前は?」
「……麻由美……」
え?この子ってもしや……?
「あの、マユミさんは名字も名前もマユミさんなんです」
タマが俺に説明してくれた。
「だから私はこんな名前、嫌だったのよ……」
マユミは1人でブツブツと文句を言っている。
「じゃあなんて呼べば良いんだよ?」
「ま……マユミで良いわよ……」
俺がそう尋ねると、マユミは俺から顔を逸らし、呟くような声の大きさでそう言った。
そして急に俺の方を真っ直ぐに見上げる。
「か……勘違いしないでよねっ!マユミって言ってもあんたの言うマユミは絶対名字なんだからね!あんたなんかに絶対に名前で呼ばせないんだからっ!」
うん、まるでツンデレのテンプレのような女の子だな。ケバいけど。
まあ良いや。タマと仲良くしてくれるんだ。彼氏の俺としても嬉しい限りだ。
「ああ、わかった。これからはマユミって呼ばせてもらう。俺の事はアルって呼んでくれ」
そう言って俺が握手をしようと右手を差し出す。タマの友達ならば俺も是非とも仲良くしたい。
パシッ!
俺の差し出した右手が払われる。
そしてマユミは俺を睨みつけてきた。
「まさかタマの彼氏があんただったなんてね。タマと付き合う事で偽装してるつもり?私はね、あんたとタマが偽の恋人だって知ってるんだからね!山田アル!私はあんたを絶対に許さないっ!」
マユミは右手の人差し指でまっすぐに俺を指差し、そんな事を言うのだった。
いや、もう何がなんだか……。
「あ……アルくんと私って……偽の恋人だったんですか!?」
そしてタマもそんな戯れ言を信じるんじゃねえよ。
体育祭当日の午前中。
俺はタマと仲の良い女子と出会い、そしてその子から何故か嫌われてしまったのだった。
いや、それにしても俺ってなんでマユミに嫌われてるんだろう?
アンとの事、それに美咲との事、そして新たにマユミ。
どうやら俺の悩みの種はまだまだ尽きないどころか、どんどんと勢いよく積み上がっていってるらしい。
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