Episode15-5.どうやら俺は不安らしい。
《来週だけど、休みが1日だけ出来たの!アルんち行っても良いかな?》
その日の夕食後、俺のスマホにクリスからメッセージが来ていた。
もちろん嬉しい申し出なんだけど、クリスからの突然のrineによって、俺が今抱えている迷いというか、不安?自分でもあまり考えたくない感情に心がざわついてしまう。
いつもならアンの方にいつも連絡が来る筈なのに、何故今回は俺に連絡してきたんだよ、クリス。
でも断る理由なんてないし、何より断りたくなんて無い。
《ああ、けど時間によっては俺達学校だからな。必ず事前に着く時間を教えといてくれ》
するとクリスからは『OK』ってスタンプが送られてきた。
そうだな。アンに言っておかなきゃな。
「アルちゃん、柿切ってきたよ!」
そんな事を考えてたら、アンが見計らったかのように、そしていつも通りノックもせずに入ってくる。
そうか、早いものだともう柿が出回ってきてるんだな。
俺は良い機会なので、先ほどクリスが遊びに来る旨をアンに伝えたのだった。
「1日だけの休みで来るなんて本当にクリスちゃんってアルちゃんの事が好きなんだねぇ」
アンが柿を一口、口に入れつつそんな事を言う。
まだちょっと早かったのか今日の柿は少し硬めだ。
だけどしっかりとした甘さもある。
って言うか、アンってまさかクリスの気持ちに気付いてるのか?
それとも単に冗談っぽく言ってるのか?
どうもそこが読めないな。
でもチコには以前、俺達がキスをしていた場面を見られた時、クリスの気持ちを言った事がある。
ただチコからアンに伝わったって線はないだろう。
チコってわざわざそんな事を周りに言って、信用を失うような、そんなバカな事をするような奴じゃない。
「え?クリスってまさか俺に会いに来てんのか?」
俺は敢えて朴念仁っぽく、何も気付いてないふりをしてると、アンは小さく笑う。
「ねえ、アルちゃん。惚けててもお姉ちゃんには通用しないよ?だいたい私がどれだけ昔からアルちゃんの事を見てきたと思ってるの?」
どうやら俺の素っ惚け作戦は見事に看破されたらしい。
「なんて言うか、アルちゃんって昔っからあんまり感情が表に出ないじゃない?だからかな?長い間、アルちゃんと一緒にいるとね、ちょっとした表情の変化とか、すごく敏感になっちゃうんだよねぇ。だからクリスちゃんみたいなわかりやすい子はもうバレバレ」
……つまりさっきの話は冗談じゃ無いって事か。
そしてアンは柿をもう1つ口に入れると「この柿、もうちょっと追熟させた方が良かったね」って言いつつ俺に笑顔を見せる。
「それにね、私、ずっとアルちゃんを見てきたからわかるんだけど、アルちゃんもクリスちゃんとの事で今悩んでるよね?アルちゃんが以前、私に相談してきたよね、彼女持ちの男にキスできるか?って。あれって相手はクリスちゃんだよね?で、最近はアルちゃんもクリスちゃんの事が好きになっちゃった。違う?」
何だよ、エスパーかよ、アン。
以前までタマのあの態度に騙されていたとは思えない鋭さだな。
でもやっぱり年上だし、少し違った目線で俺達の事を見ているのかも知れない。
いつもは多少闇が深いところはあるけどふわふわした雰囲気で、そんなふうには見えないのに、何だかアンが頼もしく思える。
「ああ、その通りだよ。でも俺は、タマを裏切る事なんて出来ない。だけど俺はクリスの事も好きなんだと思う」
そんな俺を俺は嫌になる。
「そっか……」
アンはそんな俺の話に短く返事をした。
もしかしてこんな事になってる俺に幻滅したのかもしれないな。
「私も……ちょっとアルちゃんとは状況が違うんだけど、誰が本当に好きな人なのか?って感じで悩んだ事あるなぁ」
アンは何やら思い出したのか、少し遠い目をする。
怒りだすでも不機嫌になるでもなく、そんな反応をするアンを俺は意外に感じたのだった。
「私もね、一昨年、ちょっとの間だけだったけど、彼氏がいたんだよね。友達の紹介で断り辛かったってのと、その時は何だか周りもカップルがいっぱい出来てたから、焦りもあって付き合ったんだけどね」
一昨年って事は俺が中3の頃か。俺は知らなかったな、そんな事。
「でも私はダメだった。半年ほど付き合ってたんだけど、私もアルちゃんみたいに悩んでさ。で、結局別れちゃった。あの頃は……ううん、別れた今でも思い出すと元カレには悪い事をしたなって自己嫌悪だよ」
そうか。そんな事が……。けど、その時の別れた理由ってなんなんだろう?
もしかして俺と同じように、他に好きな人が出来たとかだろうか?
まあでも男女の別れの理由なんて、他人である俺が知ってもな。
だいたい俺は両親の離婚の理由だって知らないんだ。気にはなるけど知ったところでどうしようもない。
「でも私は別れた事を後悔なんてしてないよ。だからって訳じゃ無いけど、アルちゃんも自分の気持ちと向き合って、自分の思うように行動するのがお姉ちゃんは良いと思う。全然アドバイスになんてなってないけどね」
そう言ってアンは俺に優しく微笑む。
ああ、本当にアンって、俺にとっての理想の姉だな。
「でもアルちゃん、クリスちゃんと浮気しちゃったんだねぇ。その点はお姉ちゃん、感心しないなぁ。あっ、そうだ。浮気ついでにさ、お姉ちゃんとも浮気しちゃわない?」
そう言ってアンは俺にキスをせがんでくる。
おいおい、俺の理想の姉像を一発で崩しやがって。
そんなの許してたら、またいわゆるベロちゅーをされてしまう。
それはそれで別に嫌ではないんだけど、これ以上事態をややこしくしないでほしい。
「姉は弟にキスなんてしないもんだ」
俺はそう言って迫り来るアンの唇をすんでのところでガードした。アンのかわいらしいその口を俺は右手で押さえる。
「もう、アルちゃん、頭堅いよ?」
「そう言うアンは家族の距離感ってのを、もうちょい考えような?」
俺がアンの口から手を離すと、アンは唇を尖らせ、不機嫌そうな目で俺を見上げる。
いや、そんな目で見られてもだな……。
「あのさ、アン。これ以上俺の状況をややこしくしないでくれよ。今でさえタマとクリスの事で悩んでるってのにさ」
するとアンは何か思いついたのか、悪戯っぽい表情で俺を見てくる。
困ったな。アンがこんな顔をする時って、たいてい禄な事が起こらない。
「じゃあ悩めるアルちゃんにはもうちょっと悩みを追加しちゃおうかな?」
するとアンは俺の耳元に顔を寄せ、そして耳打ちをしてくる。
「私が彼氏と別れた理由ね。それはアルちゃんの事、好きだったのに気付いたから、だよ?」
突然のアンの告白。いや、アンからは今まで冗談っぽく何度も告白染みた事はされてきたけども……。
俺の耳元から顔を離したアンの顔を見ると、少し頬を赤く染めつつも、いつになく真剣な表情に見えた。
「え、えっと……マジでか?」
するとアンはその表情のまま何も言わずにコクンと頷く。
「それってあれだよな?家族としてとかそんな感じだよな?」
アンは今度は黙って首を振る。
……俺はいったいどう反応を返せば良いのだろう?
「あのね、アルちゃん。アルちゃんは気付いてなかっただろうけど、私はアルちゃんが好き。だから私もアルちゃんの悩みの種に加えてもらって良い?」
確かに気付いたか気付いて無かったかって言えば全然気付かなかった。
だけど俺が今までアンを女性として意識した事が無かったのかって言ったら実はそうでもない。
驚愕で声も出せないでいる俺を見て、アンは苦笑する。
「あ、あはは……。ごめんね、アルちゃん。私じゃタマちゃんやクリスちゃんの間に入るなんて無理だよね。ごめんね、悩んでるとこ。やっぱり私は良いや」
そう言ってアンは立ち上がり、部屋を出ようとする。
ガシッ!
気がついたら俺はそんなアンの手首を掴んでいた。
「あ……アルちゃん………?」
アンが振り返り、驚いたような表情で俺を見る。
「待ってくれ。はっきりとは言えないんだけど……俺ももしかすると、アンの事が好きなのかもしれない」
いや、確かにそうだった。
多分幼なじみとして、そして姉弟になってから、無意識に自分はこんな感情をを抱いてはいけないと、自分に言い聞かせていたんだと思う。
だがちょっと待て。結局俺って誰が好きなんだろう?
アンの腕を掴んだ俺の頭の中ではそんな疑問がぐるぐると渦巻いていたのだった。
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