Episode10-9.どうやら俺と彼女はただならぬ関係らしい。
「ただいまぁ……あ?」
「おかえりぃ」
「お、おかえり……」
モデルって実は結構暇なのか?
一旦最寄り駅で委員長と別れた俺は、いつも通りレオとタマを家に送り、そして何故か夕食に魚が食べたくなったので八百屋の『フードセンターイトウ』と魚正に寄って食材を仕入れた。
そして帰って来たら奈緒とチコ、そしてクリスが出迎えてくれたのだ。
《多分私、アルんち、行かない方が良いのかも?》
って、クリスからもらったメッセージなんだけどな。
しかもしばらく休みがないって言ってたけど、それって嘘だったのか?
いったいどんな心境の変化があったんだろうか?
まあ、でも、来てくれたのは嬉しいから、今は黙っておこう。
後でちゃんと話さなきゃだとは思うけどな。
取りあえず冷蔵庫に買ってきた今日の夕食の主役、赤イサキを2匹入れる。
今日はこれを使って煮付けと刺身だ。
「えーっと、連絡はアンにしたのか?」
「う、うん」
クリスはちょっと気まずそうに答える。
まあ父さんもプリンセスキリハラもいない今、我が家の家長はアンだもんな。それはクリスもわかっているからアンに連絡してくるんだろうな。
まあ問題は、アン→俺への連絡が遅れがちな事だけど。
そうこうしているうちにスマホに通知が来る。
《今日からクリスちゃんが来るからよろしくね!》
うん、アンももうちょい早く送ってくれたら良かったんだけどな。
まあ今日は赤イサキを2匹仕入れたし、冷蔵庫の中にも充分食材があるから、わざわざ買い足しにもう一度出掛ける事もない。
それは良かったと思う。
夕食はすぐ出来るものばかりだし、一旦旅行で出た洗濯物を洗濯機に入れて部屋に戻ろう。
するとまた、クリスは俺についてくる。
「あのさ、もし俺に話があるんなら部屋で待っててくんね?あ、ついでにエアコンも点けといてくれると助かる。今俺と一緒にいても俺のパンツ見るぐらいしかクリスに楽しみなんてねえぞ?」
するとクリスは「うん、わかった」って言って、洗面所を離れていった。多分俺の部屋に行ったんだろう。
俺のパンツはスルーですか、そうですか。なんて思ったけど、もしかして俺の冗談を上手く流せるほどの精神的な余裕が無いのかも知れない。
何だか神妙な表情をしていたけど、どんな話なんだろう?
まあ、多分、先日の事なんだろうけどな。
取りあえず俺は明日の朝洗濯する前提で洗濯機を閉じ、部屋に上がっていった。
コンコンコン
自分の部屋に入るのにノックするなんて生まれて初めてだ。
ノックして少ししたらクリスが部屋のドアを開けてくれる。まだ5分も経ってないからか、エアコンはさほど効いておらず、廊下よりかは少し涼しい程度だった。
部屋に入り、スマホの充電器を元のコンセントに差し込んだ。
「ま、座れよ」
俺は冷蔵庫から持ってきた麦茶をグラスに入れ、クリスに差し出す。
「あ、ありがと……」
やはりクリスは少し気まずそうに見える。
クリスがこんなふうによそよそしくなったのは、先日一緒に夕食の買い物をした時の帰り道、俺の腕に抱きついてからだ。
それ以前はキスした後ろめたさみたいな事はあったにせよ、それはお互いになかった事にしようって約束をして、すぐに以前の関係に戻った。
どうなんだろう?今回もなかった事にしようって、そんな話なんだろうか?
「あ、あのね、アル。以前さ、私、アルの事が好きって言ったじゃん?」
「ああ、言ったな」
ちょうどそれはキスをなかった事にしようって話した時の事だ。
クリスは自分の気持ちを俺に伝えた上で、タマの事を考えて身を引いた形だ。
「あのさ、アルってタマの事、好き?」
「ああ」
タマと付き合い始めて3ヶ月半ちょっと。
最初こそアホな部分や格好付ける部分とかが何だかなって思ったけど、今は結構愛想が良いとことか、気は利かないけど素直なとことかが気に入っている。
「うん、そうだよね。でさ、ちょっと意地悪な事を聞くんだけど……アルって私の事、好き?あ、あの友達として、とかじゃなくて……」
クリスの聞きたい事はよくわかるけど、どうもその意図がわからない。
なんだ?例えばタマと別れて付き合ってってのならそれはさすがに出来ないけど、そんなのクリスが言う訳が無いよな。
でもどっちにしろ俺の答えは決まっている。
「悪い、クリス。俺はクリスの事は好きだけど、友達以上には見られない」
俺が嘘を吐いているって事は自分でもわかっている。
もちろん俺はタマの事が好きだ。でもクリスの事も俺は好きなんだと思う。
だけど俺はタマと付き合ってるんだ。
その俺がクリスの想いに応える事なんて、出来る筈がない。
「そっか。うん、ごめんね、面倒な質問しちゃって。でも安心した。もし私の事も好きだって言うんだったら、もうこれ以上友達なんて続けられないなって思ったからさ。ごめんね、試すような事して」
そしてクリスは麦茶を一口飲む。
グラスに唇をつける仕草と、そして飲み込んだ時の喉の動きがどうも艶めかしく見えてしまう。
「私ね、あれから色々考えてさ。もちろん私は今もアルの事が好き。だけど別にそれって私が我慢さえしてれば、友達を続けられるよね?って、そう考えるようにしたの。そりゃ最初はキツいかも知れないけどさ。でも大丈夫。アルは私を信じててくれたら良いからさ」
いや、そうするのならそうするで俺は助かる……って言うか、クリスとの接点が残るだけでも感謝するべきだ。
でもクリスはそれで良いんだろうか?
それに俺は……。
「って事でさ、これからも末永くよろしくお願いします」
そう言ってクリスは座りながら深々とお辞儀をする。
そうだな。俺も不安ばかり考えていても仕方ない。クリスが考えて出した結論なんだから俺もそれに付き合おうって思い、俺もクリスと同じように深々とお辞儀をした。
「ああ、そうだな。これからもよろしくな、クリス」
こうして俺とクリスは友達として元通りに……いや、違うな。
友達としての新たな段階に移ったと考えるべきか。
クリスは我慢するって言った。
それならば俺も胸の奥深くに確実に存在する、この想いを隠し通してクリスとの友達関係を維持していこうと、そう思ったのだった。
そうと決まるとやはりクリスと話すのはとても楽しい。
以前と変わらない、全く気の置けない会話。
それは夕食の準備に入る時間まで続く。
そして夕食後はまた部屋にノックもせずに入ってきた、アン、チコ、奈緒の3人も交えて、果物を食べながら、今回の旅行の話を中心に盛り上がったのだった。
翌朝。
今日も奈緒と一緒にラジオ体操に参加したクリスは朝食後、これといって予定が無いのかダラダラした後、翌日は東京で朝から仕事があるらしく、昼食後に帰るって事で、俺は洗っておいたクリスのぬか床容器にぬかと一緒にサービスで野菜も入れて、クリスに返した。
もしこのぬか床をクリスが忘れてなかったら、今のような関係に戻るのが遅れたかもしれない。
それとも下手をすると、クリスと二度と会えなくなっていたかも知れない。
そう考えるとクリスのうっかりに感謝だな。
「あのさ、たまにはぬか床忘れてけよ。それを理由にうちに来いよ。いつでも歓迎するからさ」
駅まで送って行く行き道で左隣を歩くクリスにそう告げる。
もちろん忘れたらクリスが自分で漬けたぬか漬けを食べられなくなるから、忘れる事なんてそうそうしないだろうけど、クリスはそれを言われたのが嬉しかったのか、すごく嬉しそうな表情を俺に見せたのだった。
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今回が第10話が終わりになります。
めっちゃアオハルを楽しんでますね、この子達。ってお話に仕上がっております。
ちなみに私、冷え性なのもあって夏が一番好きな季節だったりします。
でも実は気温などの上昇でウートフ兆候っていう症状の出る持病を持っている為に、好きな季節にも関わらず、あまり出掛けられないっていうジレンマも抱えてたりします。
まあ実際のところ免疫抑制剤を飲んでいる私は3月以降、病院や美容院の関連以外では1歩も外に出ずに食事は通販で買った食材を調理するか、UBER EATSで済ましてるんですけどね。
さて、次回は第11話。全6部分でお送りする予定ですのでお楽しみに。
それではまた♪




