Episode10-6.どうやら俺と彼女はただならぬ関係らしい。
「あっ、来たね、2人とも。貸切露天風呂、どうだった?」
「って委員長、なんで知ってるんだよ!?」
夕食は18時って事で食堂に行くと、委員長とレオが俺とタマを待っていた。
2人ともお風呂は済ませたようで、浴衣に着替えている。
委員長は自分同様に浴衣に着替えて一緒に食堂にやってきた俺とタマを見てニヤけている。
「あ、アルくん達、一緒のお風呂に入ってたの……?」
純情なレオは委員長の話を聞いて真っ赤な顔になってるし。
「え?まさか本当に行っちゃったの?うわぁ~、2人とも大胆だねぇ」
うわっ、まさか委員長、鎌をかけてきてたのか?委員長も本気でなかったみたいで驚いてるし。
「いや、確かに私、タマちゃんに貸切露天風呂を勧めたけどさ……。まさか2人がそこまで進んでるなんて思ってなかったからびっくりしたよ」
タマの行動には委員長も驚いたようで、顔を赤くして俺達2人を見ている。
ちなみにタマは恥ずかしいのか顔を赤くして俯き、レオは「うわぁ、うわぁ」って言いながら真っ赤な顔で俺とタマを交互に見ていた。
そうか。元々の原因は委員長だったんだな。
俺は委員長のすぐそばに行き、耳打ちをする。
「委員長、グッジョブ!」
「いやいや、アルくんもグッジョブ!」
顔が赤いままの委員長に俺がサムズアップを見せると委員長も笑顔でそれを返すのだった。
夕食はやはり海が近いからだろう、魚介類が中心の懐石料理だった。
いや、それにしても美味しい。
品数も多いしどれも全てお洒落だ。
漁師町だけあって漁師料理のような無骨な料理が出てくると思ってたけど、全然違った。
さすが委員長チョイスのお宿。これだけでも本当に委員長、グッジョブだ。
「あのね、私、今日、花火持ってきたんだぁ。後でもう1回海へ行って花火しようよ!バケツも借りられたしね!」
委員長がそんな提案をしてくる。
やっぱり委員長って行動力もあって気が利く。
全く主体性なく動いている俺だけど、ちょっとは見習わなきゃな。
こうして俺達は美味しい夕食をいただき少し休憩した後4人で砂浜に出た。
砂浜では俺達以外にも数組、花火を楽しんでいる人がいる。
俺達は取りあえず堤防の近くを陣取り、花火を楽しむ事にした。
夜の海岸は街頭も少なく、かなり暗い。それこそ花火を点けている間だけ、仲間の笑顔が見えてくる。そんな感じだ。
委員長の用意してくれた花火は全て手持ち花火。
レオなんてかなりテンションが上がっているようで、タマを巻き込んで2人で遊んでいる。
そして俺と委員長は堤防に座り、普通に花火を見ながらお互いの顔を宙に浮かべていた。
委員長の話す事は専ら俺とタマ、2人の事。
委員長は俺達の事情を知っていたから、喜びもひとしおなんだろう。
「まあ4月に付き合い始めてもう3ヶ月以上だもんね。普通って言えば普通なのかな、アルくん達って」
シンプルな手持ち花火を片手に委員長は呟く。
「まあ俺も最初の頃はすぐに別れる前提で考えてたからさ。人間、どういう方向に転ぶかわからないもんだ」
俺も委員長と同じように手持ち花火に火をつけて、勢いよく噴き出す火花を見る。やっぱり楽しいな、花火って。
「それにしても2年生になって、アルくんとレオくん、2人と同じクラスになって、タマちゃんとも友達になれて、一緒に勉強会とか、それにクリスとも仲良くなったし、今のところ私にとって、最高の学年になってるよ。これもアルくんのお陰だよね、絶対」
そう言って委員長は花火に照らされたそのかわいらしい顔を微笑ませる。
「俺も委員長には感謝してるよ。勉強会ではみんなのサポートしてくれて、それにクリスとも仲良くしてくれてさ。それにこの旅行、すげえ楽しいし。委員長、サンキューな」
すると委員長が俺の顔をじっと見る。
そしてまた自分の持っている花火に視線を落とし何だかすごく嬉しそうな表情になった。
「アルくんの珍しい表情が見れちゃった。何だかすごく得した気分」
俺ってどんな表情をしてたんだろう?
花火を持っていない左手で顔を触ってみるけど全然わからないな。
「アルくーん!」
砂浜の方から聞き慣れた声が俺の耳に届く。
声が聞こえた方向を見ると、花火を片手に持ったタマが、俺に向かって花火で文字を書く。
『スキ』
タマ。俺に伝えたいのなら、読みやすいようにせめて左右反転させてくれよ。
まあ伝わったけどさ。
「タマちゃんも最近変わってきたね。何だか笑顔も多くなってるし、アルくんの事がすごく好きなんだなって、すごく伝わってくるよね」
委員長が先ほどのタマの行動を見て、笑いながらそんな事を言う。
「私の前にもそんな人、現れないかなぁ……」
委員長は再び花火に視線を戻すと、独り言のように呟く。
「委員長ってさ、誰か好きになった人っていないのか?」
ちょっと踏み込んだ事を尋ねてみる。
考えてみれば、委員長自身のそう言った話って聞いた事がない。
「うーん、私はねぇ……まあ、多分今回も片思いで、何も出来ずに終わっちゃうんだろうなぁ……って感じ」
花火に照らされた委員長は少し切なさを感じさせる表情に見えた。
そうか、委員長、好きな人はいるんだな。
なんだか半分諦めているような雰囲気だけど……。
「そっか。あのさ、委員長には助けられてばっかりだし、何か俺の助けになる事があれば、何でも言ってくれよ」
俺がそう言うと、委員長の表情は一瞬曇ったようで、でもすぐに笑顔に変わる。
「多分そんな機会なんて訪れないとは思うけど、でも機会があればお願いするかもね?」
「おう、任せとけ。じゃ、ちょっと2人に混じってくるわ」
俺は一言そう言ってタマとレオのいる砂浜に降りて行ったのだった。
「タマ、さっきの文字、反対で読めなかった。もう1回、そうだな。今度は俺に直接言ってくれないか?」
ちょっと意地悪な事をタマに言うと、タマは先ほどの行動も恥ずかしくなってきたのか、顔を赤くして俯いてしまった。
俺は周りを見てみる。レオは俺達よりも少し離れた場所で花火を持ってはしゃいでいる。
あんまり花火を高く掲げるのは良くないとは思いつつも、楽しんでいるレオに対してそんな注意をするのは無粋かと思って何も言わないでおいた。
そして視線をタマに戻すとタマは未だに俯いてもじもじしている。
「……きです」
それは囁くような小さな響きで俺の耳に届く。
「好きです。私、アルくんの事が本当に好きなんです」
まるで告白のような……いや、告白だな。
付き合っているのに2度目?いや、初めてのキスをした日も含めると3度目の告白か。
俺はタマにもう一度言ってくれって促した癖に急な告白に照れくさくなってしまった。
そして俺はそんな照れくささを誤魔化すように、タマの頭を抱えるようにして、俺の胸に引き寄せる。
ちょうど花火を持ってなく、街灯も遠くて助かった。
俺の腕に包まれ、そして俺の胸に頭を埋めているタマの表情は俺からはわからないけど、幸せそうな表情だったら嬉しい。
俺はそんな事を思いながら、暗いのを良い事に、俺の胸に顔を当てているタマに合図をし、キスをするのだった。
最後に俺達は4人で輪になって線香花火を楽しみ、そして宿に戻る事になった。
花火の余韻をそれぞれで楽しむように、会話のない、少しもの悲しい雰囲気の中、俺達は宿に向かって歩く。
すると、最後尾を黙って歩く俺の左手をタマが掴んできた。
タマを見ると少し俯いていて、どんな表情なのか見えない。
だけど恥ずかしがり屋のタマの事だ。すごく勇気を出したんだろう。
俺はそんなタマの俺に対する想いに応えるように、握る手に軽く力を加えると、タマもそれに応えるように少し力を入れて返してきたのだった。
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