Episode10-5.どうやら俺と彼女はただならぬ関係らしい。
貸切露天風呂があるのは知っていたけど、まさか今回の旅行で使う事になるとは思わなかった。
そうだな。大浴場は明日の朝風呂でも良いか。
それにしても、まさかタマがこんな大胆な行動をとるとはな。
まあ多分、たいして深くも考えずに勢いで貸切露天風呂を予約したんだろうけど。
「タマ、一応聞いておくけど良いんだな?」
何だか俺、最近もこういった確認をタマにしたような気がするぞ?
すると隣を歩くタマも、以前タマの家にお邪魔したときのような表情で、こちらを向かずにコクンと頷く。
まあでも一緒にお風呂に入るってのは、タマにとってはもしかするとあっちよりはハードルが低いのかもしれない。
まあ間違いなく俺はそうだ。
貸切露天風呂の予約は17時からの30分。
普通に入浴するとしてもあまり時間的に余裕のある方ではない。
部屋毎にドライヤーがあったから髪の毛は部屋で乾かせって事なんだろう。
貸切露天風呂の入口に着いたのは16時55分頃。
どうやら使用中は外から見えるホルダーの、この空きと書かれたボードを裏返し、そして内側から鍵を掛ける事になっている。
前の人は少し早めに出たのだろう。ボードは既に空きになっていた。
内側から鍵も掛かっていなかったので、最初にノックをして少し隙間を開け、中に声を掛ける。
とあるラブコメweb小説で、使用中の札を掛け忘れたヒロインメイドの入浴中に主人公が入って行っちゃったって場面があったけど、俺はそこまでラブコメ主人公的な人間じゃない。ちゃんと警戒はしている。
中に誰もいない事を確認し、タマと一緒に脱衣所に入ると、そこは結構こじんまりとしていた。
最大4人まで利用OKなのか、着替え用の棚は4つ。それ以外に鏡付きの洗面台や体重計まである。
「えーっと、入るか」
「は、はい……」
何だか同じ空間で服を脱ぐって、すごく恥ずかしい気がする。
俺はまず上に着ていたTシャツを脱ぐ。
「あ、あの……、こっち、見ないでください……」
そう言われて俺とタマは、お互いに背を向けあって服を脱ぐ。
タマもこうなる事はわかっていただろうに、今更恥ずかしくなってきたんだろうな。
何気に俺も恥ずかしいし。
「じゃあ、先に入ってるわ」
俺は一言そう言って一度も振り返らずに露天風呂に入る。
中には陶器でできた湯船と洗い場が2つ。
それほど広いスペースではなかったけど、2人で使うのなら充分だ。
俺は一旦掛け湯をして出入口に背を向けて湯船に入る。お湯の温度は少し熱めだったけど、少しずつ慣れていった。
ガラッ!
背後から出入口の戸が開く音がした。
どうも背後からピリピリとした緊張感が感じられる。
タマがそれだけ緊張しているって事か。振り返るのはあまり良くないよな……。
「タマ、ちゃんと見えてるのか?」
そう言えばタマは部屋にいた時からメガネをしていなかった。
多分コンタクトレンズを再び入れたんだとは思うけど、一応確認だけしておく。
「あ、はい。コンタクト入れてるので見えてます」
わかってはいたけど、それを聞いて安心した。
「あ、あの、私も入って良いでしょうか?」
タマが俺の背中越しに尋ねてきた。
「ああ、結構熱いから気をつけろよ」
俺も前を向きながら声を掛ける。こういう背中を向けての会話も何だか新鮮だな。
そんな事を考えていたら湯が床を打つ音がする。
「あつっ……」
やはりタマにとっても熱いと感じたようだ。
「あはは……本当に熱いですね。あ、あの、アルくん、その体の向きで、そのまま少し前に行ってもらって良いですか?」
俺はタマに言われた通り、そのまま前へ移動する。
「すみません、失礼します」
チャポチャポとした音が聞こえる。
タマもおそらく足先で熱い湯と格闘しているのだろう。
ちなみに俺はもうすでにこの湯温には慣れた。
「ふう……」
何とか湯船に浸かれたのか、タマが小さく息を吐く。
「ちょっと熱いけど、良い湯ですね……」
「ああ」
俺の背後には今、一糸纏わぬ姿のタマがいる。
タマのそんな姿を見るのは初めてではない筈なのに、それなのに妙に意識してしまう。
「あの、背中、もたれさせても良いですか?」
「ああ」
そっとタマの背中が俺に触れた。
「あのさ、タマ。俺、振り向いても良いか?」
すると俺の背中にビクッとした反応が返ってきた。
しまった。もしかして少し早かったか?
するとタマは俺にもたれ掛けていた背中を離し、おそらくこちらを向いたのだろう。
先ほどの声よりも少しはっきりとしたタマの声が聞こえてきた。
「あの、アルくん、良いですよ、振り向いても」
俺はタマのその一言を受けて振り向く。するとタマは湯船の中で体育座りの姿勢で俺をジッと見ていた。
その顔はやはり恥ずかしいのか、それともこの湯の熱さによるものなのかはわからなかったけど、真っ赤になっている。
「……私の体なんて、見てもそんな嬉しくは無いですよね」
そう言ってタマは少し自嘲気味に笑う。
何だかんだで考えてみたら、全体像としてタマのその生まれたままの姿を見るのって初めてなような気がする。
そしてタマの体だけど、そう卑下するものでもない。
実際に細身ではあるけれど、出るところはしっかり出ていてしっかり成熟した女性の体つきだと思える。
まあ実際のところは他の女性のそんな姿なんて、タマと姉ちゃん、それと奈緒以外はインターネットでしか見たことしかないんだけど。
「いや、タマってすごくきれいな体をしてると思う。もっと近くで見ても良いか?」
そう言って俺はその許可ももらわないうちにタマと肩を並べる。
するとタマは少しでも俺に見られまいと、体をキュッと縮めた。
こういうところを見ると、まだ完全には男性恐怖症が治ってはないのだろうな。
俺はそんなふうに小さくなっているタマに囁く。
「まだ、怖いか?」
するとタマはフルフルと首を振りつつ呟く。
「あの……アルくんの事は信用してますし、全然怖くはないです。あの……恥ずかしいだけで……」
タマは相変わらず赤い顔で俯いている。やっぱりタマって自己肯定感が低いんだろうな。
実際はアホな子ってだけで、性格も良いし、見た目も良いしでもうちょっと自信を持っても良いと思うんだけど……。
「あのさ、タマ。タマはそんな事言うけどさ、俺は自信を持って良いと思う。少なくとも俺はタマの体、大好きだぞ?」
あ、こんな事言うと、また性欲魔神とか言われそうだ。
案の定、タマはしっかり誤解してしまったのか、狭いスペースで少し後ずさる。
「あ、あの、アルくんは私をどうするつもりですか?」
俺としてはタマに自信を持ってもらいたいって考えて言ったんだけどな。
どうしたらこの事が伝わるんだろうか?
「別に今何かする事はねえよ。さ、そろそろ体洗わないと時間なくなるぞ?」
風呂の時計は既に17時10分頃。この後浴衣に着替える事を考えるとあまり時間がある訳じゃない。
俺は湯船から立ち上がり……。
「ひゃっ!!い、いきなり立ち上がらないでくださいっ!」
お?ああ、めっちゃタマの前で丸出しにしてしまった。
「タマのエッチ」
俺は海での仕返しとばかりに嫌みをたっぷり含ませて、タマに言ってやったのだった。
俺が体を洗いだすと「あのっ、背中、流しますっ!」ってタマが俺の後ろで背中を流してくれた。
奈緒が1人でお風呂に入れるようになって以来だな。誰かに背中を流してもらうのって何年ぶりだろうか?
自分で背中を洗うよりも楽だしきれいにしてもらえる気がする。
それに本人は気付いてないとは思うけど、洗い場の鏡でタマの体が丸見えだし。
まあそれはタマがショックを受けるだろうから言わないでおこう。
そんなこんなで俺の次はタマの体を洗い流し、俺達は急いで浴衣に着替え、貸切露天風呂を出たのだった。
もうちょっと時間があったらもっと露天風呂も楽しめたんだろうけど、ちょっと慌ただしかったな。
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