Episode7-1.どうやら間違いないらしい。
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それでは第7話、スタートです♪
「なあ、タマ。前に言ってた双子の妹だっけか?」
「妹は私です。……それがどうかしたんですか?」
いつもの帰り道。今日はレオが部活だから、2人きりだ。
初夏の空気が色濃くなってきた通学路。そろそろ蝉の声が聞こえてくる時期かもしれない。
「あのさ、そのお姉さんってどこで何をしているか知ってるか?」
俺はタマからも何かしらの情報を得られないかと思い、尋ねてみる。
タマの見せるクリスへの崇拝っぷりを見ると、タマの姉があのクリスだって事は絶対に気付いていないだろう。
ちなみに俺の中では既に確信に近かったりする。
そりゃあれだけの証拠染みた情報の数々を見たら、疑う余地なんて自分のこの心情的な部分しか残っていないだろう。
「実は知らないんです。双子の姉がいたって事は朧気な記憶としてありますし、ママからも聞いてるので存在する事は存在するんですけど、名前も思い出せません」
タマが右側を歩く俺を見上げてヘラッと笑う。
本当にこの姉妹は肝心なとこを覚えてないんだな。
……いや、でも俺も人の事言えないか……。時間が経つ度に朧気になっていく記憶の少女。
その子の面影すら、あまりはっきりしないんだ。
ただそこに存在したって記憶しかない。
「じゃあさ、もしそのお姉さんの所在がわかったとして、タマだったらどうする?」
クリスは姉妹の再開を果たしたいと思っているっぽい。……って言うか、そうじゃなければわざわざ探したりはしないだろう。
ならばタマの方はどう思っているかだよな。
もし2人の気持ちが一緒なら、クリスに連絡して2人を引き合わせるのも良いかもしれないけど、もちろんタマの気持ちも大切だし、もし万が一違っても、普通に橋田クリスと会わせてあげる事も出来て、それはそれでタマの喜ぶ結果になる。
俺の左側を歩く、そんな尋ねられた方のタマは、右手の人差し指を自らの顎に当てて、答えを考えている。
「そうですね。私は……今はあまり会いたくはないです」
「なんで?」
「あの、以前はそんな事無かったんですよ?その頃は無邪気な考えで、再会したらどんな事して遊ぼうとか……。でもある程度成長してしまうとわかっちゃうんですよね」
緩やかな風が俺達の間を吹き抜け、タマの髪を揺らす。タマは右手でその黒く艶っぽい髪を抑え、少し俯き加減で続きの言葉を紡ぎ出した。
「いくら私がそう考えていても相手にも生活の基盤があって、そこに何かしら私が介入する事になる。それが良い方向に行くのか逆になるのかはわかりませんけど、それならば私はそこに居なくても良いんじゃないかって」
そうか。
実際にタマ自身、会ってみたいとは思ってるけど、どう転ぶかわからないから選択自体を辞退するって事だよな。
それもひとつの考え方だ。
消極的な考え方かもしれないけど、それを選ぶのにも相当な勇気が必要なのはよくわかる。
まぁ、タマらしい考え方って言ったらそうなんだよな。
ずっとアホの子だと思ってたタマが、今は何だか賢そうに見えてしまう。
「話は変わるけど、最近勉強は順調か?」
タマの考えはわかったので、俺は話題を変える事にした。
「あ、はい。あの、最近は何だか授業にもついていけてる気がします」
あのテスト以来、タマとレオには毎日復習をするように言ってある。
そうしておくだけで次回のテスト前の勉強も捗る事だろう。
レオにはどうしてるか聞いてないけど、タマはちゃんとしているようだ。
「そっか。何かわからない事があったら俺でも委員長でも良いから気軽に聞くんだぞ?」
俺は出来るだけ優しい声で、そしておそらく自分なりに優しい表情でタマに語りかける。
するとタマはおずおずと右手を挙げる。
「あ、あのっ。先生、質問が……」
「ん?何だね?タマくん」
何だかタマが生徒みたいなノリで質問をしてきたので、俺もそれに乗っかる。
自分のキャラクターじゃないみたいで恥ずかしいな。
「アルくんはなんで私にここまでしてくれるんですか?」
タマが俺を見上げる。
俺を真っ直ぐ見るその目はメガネの反射光で見えにくかったけど、その顔は少し赤く染まっているようにも見える。
そうだな。
多分最初は記憶の少女絡みだったんだけど……多分今は違うような気がする。
「あ、あのっ!気を悪くしないでくださいね。すごく嬉しいし、いつも助かってるんですけど、アルくんにしてあげられる事なんて何も無いのにって……ふふっ、こんな私なのに、ね」
考え込む俺を見て、タマは焦ったような口振りになり、さらに緊張してしまったのか含み笑いの癖まで出てしまっている。
「タマ、深呼吸」
俺に言われるがまま深呼吸するタマ。
「悪い、タマ。わかんないからこれは宿題にしといてくれ」
「あっ……」
タマが俺を見上げて声を上げる。
「ん?どうした?」
「あ、あの、笑顔……」
「んっ?」
俺は右手で自分の顔を触ってみる。
やっぱりよくわからないな。
そんなやり取りをしていたら駅に着いた。
たまに思う。
うちの高校って駅が近すぎる。
「あのっ、今日もありがとうございます!また明日!」
そう言ってタマがいつも通り駅に消えていく。
俺は駅に入っていくタマの姿に名残惜しさを感じつつ、帰路についたのだった。
《クリスって妹が見つかったとしたら、何をしたいんだ?》
《そうだなぁ。あんまり考えてなかったけど、そうだね。離れてからのそれぞれあった事を話し合って、せっかくだからお姉ちゃんっぽい事して、私特製のぬか漬けをご馳走するかな?どして?》
《いや、もしかしたらクリスの妹、見つかったかもって思ってさ》
《だからアルにそんな仕事、期待してないって言ったじゃん。この10代女子のカリスマさんでさえこんなに探してんのに見つからないんだよ?》
ああ、10代女子のカリスマってキャッチフレーズ?自分で名乗ってたんだな。
やはりクリスには冗談だと思われてる。まあ当然か。
いくら地域が限定されてるとは言え、今まで探して見つからなかったんだ。
いきなり俺が見つけても信じられないだろう。
《一応、そいつの特徴書いてく。女、身長170近く、誕生日同じ、母子家庭、ついでに双子の姉と幼い頃に離れ離れになったってさ。どうだ?」
《うわっ、もし妹じゃなくてもめっちゃ会ってみたいかも?》
《だろ?しかもさ、前言ってた俺の彼女》
《ああ、あの、男性恐怖症の?》
《でさ、本人は姉に会いたくないって言っててさ。だから普通に俺の知り合いとして会って欲しいんだ》
《オッケー。また行けそうな日がわかったら連絡するよ》
《よろしく》
って、何俺って人気モデルと友達みたいなチャットしてるんだよ……。
クリスってrineでもすごく話しやすい。
友達も妹候補のタマと違って結構多いんだろうな。
ふと、俺は思い出してもう一度スマホの、今度は写真を中心としたSNSのクリスのホームを開く。
うおっ!結構服とか自撮りが多いな。
それにぬか漬けや料理の投稿もちょこちょこある。
カリスマさん、なかなかやりおる。
って事で、俺はクリスとの約束通り、フォローをしておいたのだった。
「アルちゃん、桃切ったから休憩にしない?」
だからアン、ノック……。
まあ良いか。
アンが俺の部屋に来る時って果物を持って来てくれる事が多い。
何も持ってこずに勉強の邪魔ばっかりするチコとは一味違う。
「そう言えば、ママ達、今、ザンジバルだって」
「何だか規模のデカいアイランドホッパーしてんだな」
あの親どもは受験生だっているのに子供をほったらかして……。
「アンって将来の不安は無いのか?例えば進路とか」
「うーん、アルちゃん、私、どうしたら良い?」
いや、それを弟に尋ねるか?
「いや、まあ、そうだな。親達が残してくれた金が10桁だから一応贅沢しなけりゃ何もしなくてもしばらくは生きてけるけどさ。でもそれじゃアンが嫌だろ?」
「そうだねぇ。一応大学には行っときたいし、社会経験も積んどいた方が良いよねぇ」
アンがピンの刺さった桃を一口で食べる。
アンの切る果物は基本的にアンの一口サイズだ。
うーん、それにしても、アンの大学生姿は想像できるけど、OLとか働いている姿は想像できないな。
でもアンって勉強や運動は出来ないけど、それ以外は結構出来る人だったりする。
まあ大学も選びさえしなければ、入れるところもあるだろうけど……。
「あんまり、遠くの大学へは行くなよな。できたら家から通える大学にしてくれよ」
何だかんだでこの家から誰か出てくとしたら、それはとても寂しい。
それを聞いたアンは何だか嬉しそうな表情をする。
「うん、大丈夫!もし私を受け入れてくれる大学が近くになかったら、その時は私、家庭に入る。何だったらぬか床の管理、私がしても良いんだよ?あ、もういっそ、昔約束したみたいに私と結婚しちゃう?私、今は彼氏いないし、アルちゃんなら今でも全然OKだよ?」
「いやいや、俺に彼女がいるじゃん。それに姉弟になったから結婚出来ないんじゃないか?」
それは俺がここに引っ越してきた小1の頃。当時から友達の居なかった俺の遊び相手って言ったら姉ちゃんと年齢の近いアンとチコだった。
そう、俺はその時にアンとしてしまったのだ。今まで数多くのラブコメ主人公がやってしまうという伝説の約束、『幼なじみと幼い頃に結婚の約束をしてしまう』って事を。
ま、今はその約束が無効になってるってのは俺もアンも知ってるんだけど、こういう事を話しているとたまに話題として出てくる。
そりゃ家事も出来てよく気が利くアンだったら相手としては申し分ないけどな。
「血が繋がってさえなければ大丈夫らしいよ?私、調べたし」
「って、調べたのかよっ!?」
俺がすかさずツッコミを入れる。
そうか、結婚できるってのは初めて知った。
「そりゃね、私とアルちゃんとの共通の思い出だし、ある意味アルちゃんをからかうネタだし、そう簡単に手放す気はないよ」
本当、その情熱をもうちょっと勉強に向けてくれたら良いのにな。
俺は悪戯っぽく笑う大切な姉を見てそんな事を考えたのだった。
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