Episode4-3.どうやら俺には助っ人が必要らしい。
昼食を終えた俺達は勉強を再開する。
さすがに委員長は3年生の範囲まで勉強は及んではなかったんだけど、それでも基礎がしっかりしているので、あまりアドバイスが上手いとは言えない俺のサポートでアンの勉強にも貢献してくれたし、そのとてもわかりやすい説明はチコの心をしっかりと掴んでいた。
これは勉強出来ない4人に言える事なんだけど、多分4人とも小学生で習う範囲の基礎的な知識は案外しっかりしてる。
だけど中学で習う基礎知識が全然ダメみたいだ。
まあ学校って、人数が多いからどうしても全員を掬い上げる事なんてできないもんな。
俺みたいに知識への興味と、ある程度の目的意識を持って自ら勉強に臨む生徒もいれば、集中しにくい生徒だっているし、普通に風邪とかで休んでしまい、その時にたまたま重要な授業が入っていて、そこが抜け落ちてしまい何のフォローも受けられないまま埋もれていってしまう生徒だっていると思う。
そう言えば委員長ってどうしてこんなに出来るのか、そこがちょっと気になってる。普通に真面目にこなすタイプって可能性もあるけど……まあそれはテストが終わってからの雑談レベルだな。
今の俺の仕事は、とにかくタマ、そしてレオ。この2人の赤点回避だ。
奈緒も空気を読んでくれたのか、お昼過ぎは洗い物までしてくれた上で、今は自室で遊んでくれている。
そんな奈緒とは来週、テストが終わったらたっぷり遊んであげよう。
って言っても奈緒ももう小学5年生。
多分俺なんかよりも、アンやチコに遊んでもらった方が楽しいだろうけどな。
そんなこんなで結構集中しにくい時間も効率よく勉強できた俺達は、奈緒も呼んでデザートタイム。
俺がお昼に作って冷やしておいたのは、小倉餡とヨーグルトを混ぜ、そこにレモン汁と砂糖とゼラチンを加えて、それをクッキーを砕いてバターで固めたタルト生地に入れて固めたお手軽なクリームチーズを使わないチーズケーキ。
「へぇ……レーズンでも使ってるのかな?って思ったら、この紫は小倉餡とヨーグルトの色かぁ。しかもあんことヨーグルトって合うんだね。アルくんって女子力すごいね!後で作り方、教えて?」
「ああ、結構簡単だからすぐに作れるぞ?」
委員長が褒めてくれた。
ちなみにこのケーキは俺の母親に教わったレシピで作っている。
母さんとは最近会ってないけど、元気にしているんだろうか?
ちなみに俺の母親は何が原因なのかは知らないけど、父親と離婚した後、同じ市内に住んでいて、いつでも連絡を取れる状態だったりする。
まあ何かあったら今は学校にひとり、俺の関係者がいるから連絡をくれる事だろうし、心配とかは特にしていない。
いや、むしろ今心配なのは母親ではなく父親の方だ。
父親とプリンセスキリハラがハネムーンに出て2ヶ月半。
たまに現地からrineをくれるから別に良いんだけどさ。
ちなみに最近はサントメプリンシペに滞在中らしいけど。
ついにアフリカに進出しちゃったか。
そんなこんなで夕方の16時過ぎ、タマもレオも何とか赤点を回避できるレベルにまで持って行く事ができた。
さすがにこれ以上勉強しても効率が悪いだろうし、一昨日みたいに遅くなりすぎるのも良くないって事で、これでお開きって事になった。
「美咲ちゃん、今日はありがとう!」
帰り際、アンが委員長にお礼を言う。
アンもいつもより効率良く勉強ができた実感があるんだろう。
そしてチコもおずおずとお辞儀をしていたのだった。
「アルくん、レオくん、タマちゃん。今日は楽しかった!また次のテストも勉強会、しようよ!」
委員長とは駅で別れる事になった。
「じゃあねー!」
大きく手を振って委員長が駆けていく。
いや、今日は本当に委員長が来てくれて助かった。
それにしても委員長、今日は本当に隙が無かったな。
「じゃ、俺らも行くか」
そう言って俺は一昨日同様に切符を購入し、3人で電車に乗り込んだのだった。
一昨日は暗くてあまりわからなかったけど、桜台団地の駅前は思った以上に田舎の風情がある駅だった。
俺は我が家の周りが田舎だって思ってるけど、その基準で言ったらここはド田舎って事になる。
一応ここは人口30万程度の地方都市。
俺の住む街は何だかんだで急行も特急も止まる駅だし、この駅を見ていると、俺の住んでる場所って田舎だと思ってたけど、もしかすると都会なのかな?とも思える。
夕日に照らされた道を歩いていく。
レオの家、そしてタマの家は駅から山側に向かって坂を少し登っていく感じか。
こうやって見ていくと、本当にすごく団地らしい団地で、1軒1軒の家は結構大きいんだけど、家同士の距離は結構近い。
「じゃあね、アルくん、タマちゃんも!帰り、気を付けてね!」
家に着いたレオが元気に手を振る。
「うん、レオちゃんもまた来週!」
タマも一昨日と同じようにレオを見送る。
そして俺達はまた同じように、並んで歩き始めたのだった。
「そう言えばタマってさ、何で男性恐怖症になったんだ?」
そう言えば今までの1ヶ月半で、この事を話題にするのを忘れてた。
根本原因を掴む事で、それを取り除ければ何とかなるんじゃないだろうか?って今まで思いつかなかった自分がちょっと情けなくなる。
タマの様子を見てみると、緊張をしている様子はなかったけども、言おうかどうか、迷っているように見えた。
「あのさ、言いたくなかったら言わなくても……」
って俺が言い終わらないうちにタマは語り出した。
「あまり記憶が無いんですけど、幼稚園の頃、女の子なのに玉三郎って名前で男子から虐められて……多分それが原因なんだと思います」
そうか。
確かに何も考えない年頃の男子にとっちゃその名前だけでも虐めの対象になり得そうだ。
「でも1人、すごく優しい男の子がいまして、私に『タマ』ってあだ名を付けてくれて、しかも虐めから守ってくれたんです。その子の名前とか忘れちゃったんですけどね」
そうか。タマの幼稚園時代にはそんなヒーローみたいな男子がいたわけか。
すごいな、その男子。
そんな事を話していたら、タマの家に着いてしまった。
レオの家から300メートルの距離って案外近い。
「じゃあな。明日も自分なりに勉強はしとけよ」
俺はタマの緊張から来る妙な含み笑いをされる前に、一言告げて踵を返した。
「あ、あのっ、アルくんっ!」
俺は呼ばれて振り返る。
見てみるとそこには真っ赤になりながらも必死な表情で俺を見るタマが、拳を握りしめて立っていた。
「あ、あの、その……」
タマは多分、極度の緊張に襲われる中、その乏しい語彙力で言葉を紡ぎ出そうとしているんだろう。
「タマ」
俺はタマに1歩近付き、できる限り優しく聞こえるように考えながら声を掛ける。
「ゆっくり、ゆっくりで良いから……言いたい事、言えるまで、俺はどれだけでも待つからさ……焦らずに話してみ?」
俺は今、いったいどんな表情をしているのだろうか?
そんなの自分でもわからない。
だけどそんな俺の顔を見上げるタマの表情は、先ほどより少し安心したかのような、そんなふうにも見えた。
「あ、あの、今日はありがとうございました。……あの、て、テストが終わったら……あ、あの、で、で、でぇ……」
ああ、頑張ってるのにあと一言が出てこないみたいだ。
頑張れ、タマ!
「あのっ!で、デートしてくだしゃっ………さい……」
あ、噛んだ。
けどよく頑張ったな、タマ。
「ああ、じゃあテストが終わったら、一緒にどこかへ行くか」
こうして俺達はテストが終わった後にデートをする事になった。
そして……。
「あっ………!」
タマが俺を見上げて何か気付いたのか、一瞬声を上げる。
「ん?どうした?」
「い、いえ……」
俺が何があったかを尋ねるとタマは顔を逸らして俯いたのだった。
帰り道は下り坂だから結構楽だ。
そして俺はレオの家を過ぎた辺りでスマホの通知に気付く。
そこには一昨日と同じように、タマからのメッセージが綴られていた。
《アルくんの笑顔、初めて見ました。すごく素敵な笑顔だと思いました。デート、楽しみにしています!気をつけて帰ってくださいね》
そのメッセージを読んだ俺は無意識に顔を触る。
もちろん触った感触で何かわかる訳ではないけど……。
俺、もしかしていつの間にか笑ってたのか?
別に意識して無表情になってる訳でもないけど、よくレオやチコからは仏頂面とか、表情筋が死んでるとか言われる事が多い。
そうか、俺、笑ってたんだな。
タマからそんな事を指摘されてしまった俺は、何だか恥ずかしいようなむず痒いような、そんな気分になりつつ帰路についたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次回でヒロインが全員出揃いますよろしければお付き合いください♪
それではまた♪




