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3/3

C面

――C――




 ……と、まぁ、そんなこんなで結局、攻略対象と仲良くなろうなどという僕の浅はかな計画は、ものの見事に全て頓挫した。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。


 正直、多少間違っても、一人くらいは仲間にできると思っていた。友情エンドだとしても、仲間との絆の力で魔王は倒せたはずだし。それがまさか、あの、恋愛まで進めなければ一番簡単なルートだったエリックまであんな様子で、絆どころではなかったのだというから笑えない。セド先生とか、頼み込めば来てくれるかもしれないけれど、絆となるとなぁ。


 あれから各員の様子を見ながら一週間ほど過ごしてみたけれど、状況は変わらず。アレンはすごい顔で僕たちを見てくるし、クロウは研究室から出てこないし、セド先生は人が変わったようだと評判だし、エリックは三歩引いてイリアの影を踏まないよう接してくるし、不敬が怖くて王子殿下には近づけない。


 また、一連のことが噂となり、他の人たちも、僕らを遠巻きに見るばかり。廊下でばったり出会ったアマーリエ嬢が二秒で意識を失ったせいで、噂に拍車が掛かったような気がする。

















「どうしたもんかなぁ」

「結局、どうして彼らと接触したかったの? 倒せないモンスター、というのが、彼らと関係するの?」



 黄昏時の教室で、イリアは頬杖を着きながら、僕に問いかける。もうここまで付き合って貰ったんだ。正直に、言ってしまおう。というか、取り繕うのも限界だし。


「僕は、前……うーん、夢みたいなもので、未来の可能性を知っているんだ」

「未来?」


 首を傾げるイリアに、僕はただ、淡々と言葉を続けることしかできない。


「そう。それによると、君と彼らで手を取り合って、絆の力と光魔法で、復活する魔王を倒す、と、あった」

「なんで絆の力なの?」

「正負の関係だ……った、と思う。なんでも、負の力を持つ魔王には、信頼とか、友情とか、愛とか、正の力でなければ倒せない、らしい」

「なるほど」


 イリアは頷きながら、真剣に僕の話を聞いてくれる。魔王が復活する、なんて、今の段階で予兆も前兆もないような夢物語を話しているのに、彼女から嘲りや不信は感じなかった。


「笑わない、のか?」

「うん。そういうことなら、もっと早く話してくれても良かった、かも」

「は、はは、そうか、そうか。……イリアは、優しいんだな」

「優しいのはキミだよ」


 もっと……もっと、僕が彼女を信じていれば良かったのか。

 なんだか、情けない話だ。守られてばかりで、怯えてばかりで、恥ずかしい。


「また、仲間捜し、手伝ってくれるか?」

「うーん、それなんだけどさ」

「?」


 イリアはそう、きょとんと首を傾げた。



「キミじゃ、だめなの?」

「僕?」

「正の力で魔王を倒すんでしょ? だったらわたしは、キミが良い」



 まっすぐと告げられた言葉に、その美しい微笑みに、僕は思わず息を呑む。

 僕は――いや、そうか、僕は気がつかないうちに、自分自身を物語から排除していたんだ。

 でも、物語に関係のない彼女を引っ張り出してまで、僕は、新しい家族と友人のいるこの世界が守りたかったんだ。なら、僕自身が責任を持って、魔王を倒すべきだろう。


「ありがとう。おかげで決心が付いたよ。僕も戦う」

「うん。心強いよ」

「はは。足を引っ張らないか心配だけどな。でも、意外だよ。イリアが僕を信頼してくれていたなんて。あ、友情か? どちらにせよ、イリアと正の感情で結ばれることは光栄だし、その、照れくさいけど嬉――」


 なんとなく気恥ずかしくなって、顔を逸らしながら早口でまくし立てる。けれど僕が言い切る前に、イリアの声が、被さった。












「うーん……やっぱり、伝わってなかったかぁ」










 どこか、残念なような、けれど、察していたような達観した声だった。



「――え?」



 疑問符を浮かべる僕に、イリアは席を立って、一歩近づく。

 彼女の意図が読めなくて、僕もまた席を立って、一歩離れた。



「ダンジョンでは、強さに男も女もないよ」



 一歩、距離が詰められる。

 僕もまた、一歩、離れた。



「性別も年齢も身分も関係なくて、ただ強い人が生き残って、ただ弱い人が死ぬ」

「イ、イリア?」



 一歩、距離が近づく、

 一歩、離れて、背中が壁に張り付いた。



「――ところで、ウィル。知ってる?」

「なに、を?」



 唐突に変わる話に戸惑うよりも、息の掛かる距離に、彼女の顔があることに、動揺する。



「どんなに見た目が好みでも、ひとは、圧倒的な力を持つ相手を同じ人間だとは思わない」

「そんな、あれ、あ、それでエリックたちは……」

「うん。そう。でも、最初にあの酒場で力を見せたのに、キミだけは違った」



 襟を掴まれる。えっ、殴られるの?!

 痛みの予感と、それから、鮮やかな海色の瞳が直ぐ傍にあることにドギマギして、僕は思わず目を瞑った。




「だから、わたしは決めていたんだ。強い人よりも、わたしを見てくれるひとを選ぼう、って」

「は?」




 引き寄せられて。

 唇が、あたたかくて、柔らかなもので、ふさがれて。



「むぐッ!?」



 僕と彼女の距離が、ゼロになった。





「わたしがキミを守る(愛する)から、キミはちゃんと、わたしに守られて(愛されて)ね?」





 唇が離れる。

 初めて見る表情の彼女は、ゲームなんかとは比べものにならないほど艶やかで、香り立つような笑顔を浮かべていた。



「じゃ、わたしは理事長に休学届を出してくるから――」



 教室を出て、それで、ああ、そう、と忘れ物でもあったかのように、イリアは出がけに振り向いた。






「――末永く、よろしくね? 逃がさないから。わたしのウィル♪」






 壁に貼り付けた背中から、ずるずると床に落ちる。

 言われてみれば、僕はずっと、彼女に“わたしが守る”と言われ続けていた。


『大丈夫だよ。キミはわたしが守るから』

『キミはわたしが守るから』

『キミはわたしが守るから、大丈夫だよ?』


 それが全て、あ、愛の告白であったとするのなら?






「攻略されたのは、僕だったのか」






 頭を抱えて、声にならない悲鳴を上げる。

 耳までこみ上げてきた熱は、なくなってくれそうになかった。

























 それから僕らは、たった一年で魔王を倒す。ほとんど彼女がやったようなものだった。僕がやったことと言えば、あれが魔王だとモンスターの群れから魔王の人相を教えたことくらいだった。






 だからあえて、こう、言わせて貰おう――――――――――





『魔王討伐よりも、道中の彼女との駆け引きの方が、一億倍大変だった』





 ――――――――――と。

















――Fin――

2019/02/19

一部加筆しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 滅茶苦茶尊い!末永く爆発しろ。 あっっっま!思わず普段飲まないブラックコーヒー飲んだわ。 [一言] こういう作品は是非とも後日談が欲しい
2021/06/25 14:14 おニーサン
[一言] 何度も読むぐらい好きなのですがポイントを入れて評価をし忘れてました。不覚です。この二人がものすごく好きです。
[一言] 行き成り糖分増しましたねw イリアの親が一番気になる。いったい何者なんだ?
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