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かみかみ  作者: 明日駆
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第17話 “少女の陰り”

「今日はここまでじゃ」


 守哉は、トヨのその言葉を仰向けに倒れたまま聞いた。


 結局、訓練はいつも通り守哉の敗北で終わった。いや、訓練に勝つも負けるもないのだろうが、今日の守哉は負けた気分だった。一矢報いれたのは最初の一回だけで、後はただひたすらに守る事しかできなかったのである。最初の一撃でキレたのか、トヨはいつも以上に激しかった。ボコボコに殴られて、守哉は何度も気を失っては叩き起こされ、今は身じろぎさえできないほどにボロボロだった。


「ちくしょー……」


 悪態をついて、ゆっくりと身体を起こす。身体のあちこちが痛んだが、無視して立ち上がった。

 早く七瀬の手料理を食べて帰って寝たい、と思いつつ縁側に近寄ると、七瀬が暗い顔で座っている事に気づいた。


「どうした?」


 話しかけても返事がない。何か考え事をしているようだ。守哉は、七瀬の額を指で軽く弾いた。


「……ひゃっ……あ、かみや。訓練、終わったんだ」

「今さっきだけどな。なんだよ、見てなかったのか?」

「……う、うん。ごめん……」

「いいよ。それより、早く飯食わせてくれ。疲れちまったよ」

「……わかった。すぐ、作るね」


 そう言うと、七瀬は台所へ駆け出していった。


「七瀬、なんかあったのかな」


 七瀬の消えた廊下の角を見つめながら、守哉は呟いた。



 ☆ ☆ ☆



 夕飯を終え、守哉が寮へ帰っていった後。

 七瀬は、台所の椅子に座ってぼんやりと宙を見つめていた。

 夕飯の時も終始浮かない顔をしていた七瀬に、守哉はあまり多くを問わなかった。守哉なりの気遣いだったのかもしれないが、七瀬としては守哉と話して少しでも不安を和らげたかった。でも、自分が暗い顔をしていては、守哉も話しかけづらいだろう。守哉は悪くない。

 では、一体誰が悪いのだろうか?


「七瀬、ここにおったのか」


 振り向くと、トヨが台所の入り口に立っていた。いつものつなぎ姿に、紫色のバンダナ。いつも手放さないそのバンダナは、かつて七瀬が作ってトヨにプレゼントしたものだった。

 トヨは七瀬の向かい側に座った。お茶を出すために立ち上がった七瀬を片手で制すと、七瀬が座り直したのを見計らって告げた。


「明日から、予定しておったお前の戦闘訓練を行う」


 その言葉に、七瀬は緊張した。戦闘。今まで自分はトヨが神さびと戦うのを後衛で見守ってきたし、度々援護も行っていたが、恐らく戦闘訓練というのは自分が前衛で戦う事を想定しての事なのだろう。

 そして、それは以前から言われていた事でもあった。


「準備をしておきなさい。訓練は、ここの庭園でやる。相手は百代目だ」


 守哉が相手。その言葉に驚いて、目を丸くする七瀬。驚く七瀬を尻目に、トヨは話を進める。


「いくらヤツが非力な神和ぎとはいえ、油断はするでないぞ。全力でやるのじゃ。ただし、わかっているとは思うが、命は奪うなよ?人間が神さびになる瞬間を見たくはないからのう」


 何がおかしいのか、トヨはふぇっふぇっふぇ、と不気味に笑った。その笑い声で我に返った七瀬は、先ほど抱いた疑問を口にする。


「……お、おばあちゃん、どういう事?どうして、かみやと戦わなきゃいけないの?」

「ヤツが現神和ぎじゃからじゃ。不安に思う事はない、お前なら勝てる相手じゃ」

「……どうして、現神和ぎのかみやと、わたしが戦わなきゃいけないの」

「お前がいかに有用で、百代目がいかに無能かを明らかにするためじゃ」

「……だれに?」

「天照大神に、じゃ」


 七瀬は理解した。以前、トヨは天照大神に継承の儀を行わせてくれるよう頼んだが、天照大神に守哉は有用だと言われて却下されたと言っていた。つまり、トヨは自分と守哉を戦わせて、天照大神の考えを変えようとしているのだ。

 トヨは、険しい表情でテーブルに肘をつきながら言った。


「制限時間は近いにも関わらず、天照大神は外から来た人間を神和ぎにするという暴挙に走った。もしかしたらヤツは、わしら人間側の思惑に気づいておるのやもしれん。だとすれば、時間がない。一刻も早くお前を最後の神和ぎとし、1体でも多くの神さびを滅せねばならん」

「……でも、かみやは……」

「百代目は役に立たん。今日の訓練ではっきりとわかった。多少、言魂が巧く使えるからといって、ヤツは調子に乗っておる。あの様子では、いずれ神さびに喰われるじゃろう。そうなれば、この島は終わりじゃ」

「……でも、808体の神さびを倒しても、何が起こるかわからないんでしょう?」

「………」

「……おばあちゃん?」


 トヨは無言のまま立ち上がった。そのまま台所を出ようとする。


「……ど、どこ行くの」

「話は終わりじゃ。とにかく、お前は明日百代目と戦え。いいな」

「……でも」

「いいな!」


 強い口調で言われ、七瀬は萎縮して顔をうつむかせた。消え入りそうなか細い声で答える。


「……はい」

「わかればよい」


 そう言うと、トヨは台所を出て行った。

 一人残された七瀬は、誰もいない空間を見つめて、そこにいない誰かに向かって問いかけた。


「……わたしは、どうすればいいの……?」


 誰もその問いには答えない。当たり前だった。今、台所には七瀬以外の人間はいないのだ。


 それでも七瀬は、誰かの返答を待ち続けた。不思議な事が起こるこの島で、奇跡が起こると信じて。自分の迷いを吹き飛ばすような、答えが返ってくる事を信じて。


 たった一人で、待ち続けた。


 ☆ ☆ ☆

 


 夜。

 磐境寮の自室で、守哉は寝転がって考え事していた。

 内容は、七瀬について。最近の七瀬がよく浮かない顔をしている事が気になっていた守哉は、さり気なく夕飯の席で聞いてみたのだが、七瀬はあいまいに誤魔化すだけで教えてはくれなかった。

 いや、そもそも七瀬はいつから浮かない顔をするようになったのだろうか?


「……わっかんねぇなぁ」

「ニャにがだニャ?」


 驚いて声のした方を見ると、いつの間にかテーブルの上に藤丸がいた。ベランダと部屋を仕切る窓が開いている。そこから入ってきたのだろう。


「お前、勝手に入ってくるなよ」

「暇ニャ。ご主人も暇そうだったし、暇つぶしにはちょうどいいかと思ってニャ」

「暇つぶしってお前な……。つか、ご主人って何だよ」

「俺はあんたの使い魔にニャったんだから、そう呼ぶのは当然ニャ」

「守哉でいいよ。ご主人なんて堅苦しい呼び方はやめてくれ」

「仕方ニャいニャ。それがご主人の命令ニャら従うしかニャいニャ」

「いや、命令っつーか頼みなんだけど」

「まあ、それは置いておくとして」


 藤丸は寝転がったままだった守哉の腹の上に移動すると、ちょこんと座った。


「やっぱりここが一番座り心地がいいニャ」


 毛づくろいを始めた藤丸を見ながら、守哉は言った。


「邪魔だ。どけ」

「いやニャ」

「俺の命令には従うんじゃなかったのかよ」

「今回のは頼みニャ。だから断れるのニャ」

「いや、今度は命令なんだけど……あー、もういいや。勝手にしろ」

「勝手にするニャ。それで、ニャにがわからニャいんだニャ?博識なこの俺が教えてあげるニャ」

「いや、今回のはさすがにお前も知らないと思うんだけど」

「そんニャ事ニャいはずニャ。いいからはニャすニャ」


 守哉は話していいものかしばらく迷ったが、結局は藤丸を信用する事にした。


「実はさ、ある女の子が最近落ち込んでるみたいなんだ。何があったのかなと思って」

「ニャんだ、メスの事でニャやんでたのかニャ。だったらニャおさら俺の出番ニャ」

「いや、そうじゃなくて。つか、メスっていうな」


 藤丸は何度か頷くと、雄弁に喋りだした。


「メスとニャか良くニャる方法はただ一つ、プレゼントニャ。マタタビが一番最適ニャが、ニャい場合は魚でもOKニャ。虫は個人的……もとい個猫的にあんまり好きじゃニャいからお勧めはしニャいニャ。とにかく、プレゼントして喜んでもらえれば、後は交尾まで一直線ニャ。これで余裕ニャ!」


 偉そうに直立して胸を張る藤丸。目を細めて、どうだ凄いだろ、と言わんばかりの顔であった。

 守哉的にはドン引きだったが。


「交尾って、お前な……。やっぱお前に相談したのが間違いだったよ」

「ニャんだ、守哉はメスと交尾したくニャいのかニャ?」

「お前は変態か。どんだけ発情期なんだ」


 呆れ顔で守哉は言った。藤丸は、そんな守哉を無視して話し続ける。


「メスと交尾したくニャいオスニャんていニャいニャ。ちなみに俺は、野良だった頃に色んニャメス猫どもをてごめにしていたニャ。ついた二つニャが、神奈備の猫ジゴロニャ。どうだ、凄いだろニャ」

「言っとくけど、ジゴロってあんまりいい意味じゃないからな。ようするにひもってことだぞ、ひも」

「ひもってどういう事だニャ?」

「それは知らないのかよ。つか、何で猫がジゴロなんて言葉知ってるんだ」

「猫の学力を舐めちゃダメニャ」

「学力ってお前、どんだけ猫離れしてるんだ……」


 そこで守哉は、ふと壁にかけられた時計を見上げた。時刻は午前12時を過ぎた頃である。


「そろそろ俺は寝るから、お前は帰れよ」

「えーっ。もっとおはニャししようニャ。友達も寝ちゃってるから暇ニャんだニャあ」

「友達って、猫のか?」

「違うニャ。普通の猫には俺の姿は見えニャいのニャ。和魂の友達ニャ」


 和魂にもそういうコミュニティがあるんだな、と守哉はちょっと驚いた。


「つか、和魂も寝るのな」

「正確には寝てるわけじゃニャいニャ。和魂は、実体を維持している間ずっと神力を消耗しているのニャ。特に、和魂にニャりたての頃は消耗が酷かったりするのニャ。だから、消耗した神力を回復するために実体を消す必要があるのニャ」

「それが和魂で言う睡眠ってわけか」

「そうニャ。神力の消耗速度や量は個体差があるけど、強い和魂ほど実体を維持するための神力の消耗率は高いのニャ。ちなみに、実体を消している間は誰にも存在を感知されニャくニャる代わりに、その場から動けニャくニャり、五感が消滅してしまうのニャ」

「ふーん……不便なもんだな」

「そうでもニャいニャ。お前ら人間は神力を自力で回復できニャいから、その点に関しては和魂の方が優れているニャ」

「自力で回復できないって……俺はしょっちゅう言魂使ってるけど、神力が尽きた事ないぞ」

「そりゃそうニャ。言魂や呪法で消費する神力は微々たるものニャのニャ。魔刃剣じゃあるまいし、神力が尽きる事はニャいニャ」

「魔刃剣は別格なんだな」

「そうだニャ。使っててわかるだろニャ。あんだけ強いんだからリスクも高いんだニャ。まあ、逢う魔ヶ時の間しか使えニャいんだから、実際は関係ニャいけどニャ」

「ふーん……って、なんだかんだ言って話し込んじまった。さっさと帰れ」


 そう言うと、守哉は藤丸を掴み上げて立ち上がり、窓からベランダへ放り投げた。そのまま窓を閉めて鍵をかける。

 ベランダに放り出された藤丸は、しばらく窓を叩いていたが、守哉が部屋の電気を消して寝転がったのを見て、諦めたのか姿を消してしまった。

 一人になった守哉は、しばらくぼんやりと天井を見つめていた。


 結局、その夜守哉が眠りについたのは午前2時を過ぎた頃になってしまった。



 ☆ ☆ ☆



 翌日の昼休み。弁当のない守哉がいつも通りぼんやりと窓の外を眺めていると、一人の男子生徒が近づいてきた。


「おい、神和ぎ。お前、今日も弁当ないのか?かわいそうなヤツだなぁ、ほんとに」


 低い下卑た声がして、守哉は心底嫌そうな顔で振り向いた。

 あからさまにこちらを見下した態度で話しかけてきたこの少年は、名を高槻慎吾(たかつきしんご)という。濃い紫色の髪を持つこの少年は、何を隠そう守哉が初めて発動した言魂の餌食になった少年である。餌食といっても、実際は慎吾の食事中に箸を砕いただけなのだが。

 この少年は成績はいいのだが、頭が悪い。理解力の低い島の住人の中でも、特に理解力が低いために授業中の質問数はクラス内でも随一だ。多くの生徒はどうしても理解できなかったところは放課後になってから聞きに行くのだが、慎吾はそれをしない。本人曰く、放課後の貴重な時間を無駄にしたくないんだとか。そんなわけで、こいつは授業の遅延を招く最大の原因となっていた。


「そんなお前に、俺のおかずをわけてやろうかぁ?ほらよ」


 そう言って、慎吾は一冊の雑誌を守哉の机に放り投げた。裸の女性が表紙に写っているところを見ると、それは成人向けの雑誌……ようするにエロ本のようだった。

 無表情で慎吾を見る守哉を尻目に、慎吾は耳に手を当て、まるで内緒話を聞くかのように守哉に頭を近づけた。

 

「え?なになに?おかずだけじゃ物足りないって?ご飯ならいっぱいあるじゃないか!ほら、こんなに!」


 そう言うと、両手を広げて教室を見渡した。女子達が一斉に嫌そうな顔をする。対照的に、男子達は一斉に笑い声を上げた。つぼに入ったのか、腹を抱えて床をのた打ち回るヤツもいる。

 おかずとオカズをかけたところは、まあ、うまいと言えなくもないが、ご飯の例えはセンスないな、と守哉は思った。どちらにせよ、最低な事にかわりはないが。

 目の前で笑い転げる慎吾を呆れ顔で見下しながら、守哉は思った。


(面倒くせぇな……早く忠幸帰ってこないかな)


 忠幸は昼休みに入ってから放送で教師に呼び出されたため、今はいない。いつもならこういうあからさまな嫌がらせは忠幸が止めてくれるのだが。

 守哉にとってこの高槻慎吾という少年は悩みの種だった。最近は忠幸のおかげで嫌がらせをしてくる人間は随分減ったのだが、この少年は忠幸がいなくなった頃合を見計らって守哉を執拗にいじめようとしてくる。その度に守哉は言魂でこっそり仕返しをするのだが、最近はそれも逆効果になっていた。

 どうしたものかと守哉が思っていると、予鈴が鳴った。昼休みの終わりの時間だ。


「それはお前にやるよ。せいぜい、有効に使ってくれよな」


 嫌らしい笑みを浮かべて慎吾は自分の席へ戻っていった。女子達が守哉の方をこそこそとうかがいながらひそひそ話を始める。男子達はにやにやと笑いながら守哉の方を見ていた。どうやら、守哉がエロ本をどうするか観察するつもりらしい。

 さてどうしたものか、と守哉が机の上のエロ本を見ていると、教室に次の授業の先生が入ってきた。皆慌てて各々の席に戻り始める。

 仕方なくエロ本を机の中に入れると、何人かの男子生徒が笑い声を上げた。聞こえないふりをしながら授業に使うノートと教科書を取り出す。


「……どっかに捨ててこねぇとなぁ」


 ため息をつきながら守哉は呟いた。少し惜しい気もしたが、この雰囲気で寮に持ち帰るところを見られたらたまったものではない。環境には悪いが、海に捨てるのがベストだろう。


 こんな毎日が続いて、よく不登校にならないよなぁと、守哉は思った。



 ☆ ☆ ☆



 学校で適当に時間を潰した後、生徒達がほとんど帰ってしまったのを見計らい、守哉は隠していたエロ本を取り出してバッグに突っ込み、学校を出て港へ向かった。

 本当は持って帰ってもよかったのだが、あんなヤツにもらったエロ本をオカズにする気はしない。そんなわけで、躊躇せず守哉はエロ本を海に投げ捨てた。幸い、周囲に人はいなかった。

 時刻は5時30分。このまま神代家に向かう事にした守哉が坂を上っていると、目の前から水色の髪の少女が下りて来るのが見えた。一瞬七瀬かと思い声をかけようとしたが、途中で思い止まった。よく見れば、その少女はツインテールではなかったのだ。つまり、神代七美だ。

 すると、守哉の視線に気づいたのかその七美は嫌そうな顔をした。守哉は苦笑すると、試しに声をかけてみた。


「もうすぐ逢う魔ヶ時だぜ。早く帰らなくていいのか?」

「うっさいわね、あんたなんかに言われなくたって帰るわよ」


 不機嫌な様子でそう言うと、七美は足取りを荒くして守哉の横を通り過ぎようとする。そこで守哉は、七美の肩を掴んで引き止めた。


「待ってくれ。一つ、聞きたい事があるんだけど」

「気安く話しかけないで。あと、手を離しなさい。気色悪い」


 七美は肩を掴む守哉の手を荒々しく振りほどいた。そのまま守哉の言葉を待たずに帰ろうとする。


「だから、待ってくれよ。一つだけでいいんだ、答えてくれ。七瀬の事なんだ」

「なんであんたが七瀬の事を聞くのよ」

「別にいいだろ。それより、最近七瀬が落ち込んでるみたいなんだ。何か知らないか?」

「知らないわ。どうせトヨバアになんか言われたんじゃないの?トヨバア、特別扱いしてるわりには七瀬に厳しかったし」

「トヨバアか……。なあ、トヨバアって昔からあんなに厳しい人だったのか?」

「そうよ。自分にも他人にも厳しい人。そして、どこまでも自分勝手な人。トヨバアは自分の事しか考えてないのよ。七瀬はトヨバアのおもちゃみたいなもんだし」


 寂しそうな表情を浮かべて七美は言った。ちゃんと七美が質問に答えてくれたので、守哉は前から気になっていた事も聞いてみる事にした。


「なあ、七美さんはあの家に住んでないのか?学校でしか見かけないんだけど」

「あの家に住んでるのはトヨバアと七瀬だけよ。他の皆はトヨバアに反発して家を出たの。私もその一人だけどね」

「それって、いつからなんだ?」

「3年前からよ。ある事件が切欠でね、それまで家に残ってた下の妹も皆出て行ったわ」

「下の妹?まだ姉妹がいるのか?」

「そう……って、あんた、聞きたい事は一つだけじゃなかったわけ?」


 顔を近づけて睨みつけてくる七美。守哉の目と鼻の先に七美の険しい表情が広がり、守哉は思わず一歩後ずさった。


「い、いや……今日の七美さんは優しいなーって思って、つい」

「ふざけんじゃないわよっ!!こっちはあんたと喋るのも苦痛だってのに!!」

「ハハハ……ごめんなさい」


 守哉は頭を下げて謝ったが、それで七美の怒りが収まる事はなかった。容赦なく頭を下げた守哉のこめかみに強烈な回し蹴りを叩き込むと、地面にぶっ倒れた守哉の腹を思いっきり踏みつけた。


「ぐぉっ……!!」

「ふん!!二度と話しかけてくんな!!」


 そう言うと、七美はどこかへ行ってしまった。

 頭と腹の痛みに小さくうめき声をあげながら、守哉は立ち上がった。


「似てるのは見た目だけだよな、あの姉妹……」


 そう呟くと、守哉はきびすを返して坂を上り始めた。


 トヨバアにも七瀬の事を聞いてみるか、と思いながら。

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