26話 魔族の最後。
「…終わった…のか…」
ペリドットは拳ほどの大きさで若草のような綺麗な黄緑色の石を激しい戦いで荒れ果てた地に残して肉体は煙となって消えた。
後日分かったことだが、この石は魔力が一切流れていない本当にただの"ペリドット"という宝石だった。
「シグルスさん…ドットが言っていたミサって…」
「…さぁな、魔族は人語を操り人を誑かすと言う。同情を誘うために言ったかもしれないし、本当のことかも知れない。だがなリリック。奴は強い、そして本気で俺たちを殺りに来ていた。そんな中で同情し迷いを見せればもう死しか無い。」
「わかっています…」
シグルスさんは分からないと言っていたけれど、ドットが最後に見せた表情が頭から離れない。
大事な人を思い守ろうとするその姿はとても嘘には思えず僕たち人間と変わらなかったからだ。
戦いを終えた僕は洞窟へ戻り治療中のルイーザさんを確認し団員達の遺体を回収した。
そして戦いの傷も癒えず次の日には喪服を身に纏って亡くなった団員の葬儀に出席していた。
僕の迷いが彼らを死に追いやってしまった。
もう2度と同じ事は起こさない。
そう何度も何度も心の中で誓った。
僕の初任務は魔族2体中1体取り逃したものの、ミノタウロス1体、魔族1体の討伐に成功した。
だが、団員30名中28名の死者と1名の重症者を出し任務成功と言える結果ではなくモルガナイトの戦力を大幅に失った。
葬儀が終わると僕とルイーザさんはシグルスさんに呼ばれた。
魔族に関しての事情聴取だろう。
「単刀直入に聞こう。コイツらは、ダークエルフとはなんだ。」
椅子に腰掛けたシグルスさんは手に記録水晶を持ち尋ねてきた。
記録水晶とは前世で言うところのカメラのようなものでシグルスさんは最初の魔法発動後すぐに魔族の写真を撮っていたようだ。
この世界に亜人やドワーフは居るもののエルフという名前の種族は無く、おとぎ話にも出てこない全く未知の存在だった。
だから僕が魔族について知っていると怪しんでもおかしくはない。
だが、
「正直僕にもよく分からないです。」
何より僕の知っているエルフやダークエルフではなかったからだ。
前世の話をする勇気は無いので、ファンタジー物語が好きでよく物語を想像していて夢の中で見たのと見た目が同じだったと伝えた。
「夢の中でのエルフは魔法に優れ精霊魔法を操れる設定でした。そしてダークエルフは精霊魔法を使えません。だから僕の知っている事は全く役に立たないです。すみません。」
僕は膝の上で拳を握り締め頭を下げた。
「そうか…精霊魔法な…」
精霊魔法はこの世界でも前世と同じファンタジーの一種である。
自然には精霊が居てその力を借りて魔法を行使する。
魔法授業で初めの頃バネッサ姐さんに聞いたが鼻で笑われて終わった。(「精霊なんて居るわけないでしょ。意外とまだまだ子供なのね」)と、
だがドットの最後の技は間違いなく精霊魔法だと思う。
詠唱もそうだが何よりも魔法のパワーが段違いだ。
深傷を負い、魔力もほとんど放出してしまっていたドットの中にあれ程の魔法を打てる魔力はなかったはずだ。
彼ら魔族について得れた情報は何もなくただ淡々と魔族が現れた際の状況や言動を事細かに伝えた。
「ペリドットが最後にもう1人の魔族をペツォッタイトと呼んでいた。2人とも宝石の名でこの国にその家門はない…奪われた色…あの方…、魔族は他にも複数居る可能性があるのか」
シグルスさんは指先でトントンの指先で机を叩きながら考えを巡らす。
「あと、なぜか僕をずっと見ていたと言っていました。エメラルド邸に居た頃に…何故かは分かりませんが…」
「…そうか…イーサンが魔物と手を組むとは考えにくい…ならば夫人の方か…?奴に魔族を手懐けるほどの力はない…リリック。夫人は眼帯とかしてたか?」
「いえ、僕が家にいた頃はしてませんでしたよ?」
ため息を吐いたシグルスさんは椅子から立ち上がった。
「わかった…明日、王都へ向かい国王陛下へ報告に向かう。留守の間は頼んだぞ。それからリリックさっきの話他所ではするなよ?ルイーザお前もだ。わかったな?」
「はい!」
シグルスさんが王都へ向かい残った僕とルイーザさんは、あの日の出来事を話すことはなくただお互いに剣を交えていた。
毎日、日が暮れるまで剣を交える。
手のひらの豆が潰れようが、木剣で腹を殴られようが、呼吸が苦しくてもひたすら立ち上がって訓練する。
"強くなること"それ以外を考える余裕なんてものは僕たちに無かった。
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暖かな春の日差しが降り注ぎ。
そよ風は優しく頬を撫でる。
「イトッ!お前はいつまで寝てるんだ!」
「ふふっイトはまだまだ子供なんだから仕方ないわ」
「んもぉ〜気持ちよく寝てたのに起こすなんて酷いよドット〜、」
「お前が狩りについて行きたいって言ったんだろ!」
「そうだった!早くいこう!ミサさんデッカいイノシシ取ってくるね!」
「気をつけて怪我しない様にね!あなたも無茶しちゃだめよ」
「ああ、大丈夫だよミサ。」
「ほんっとラブラブだなあ、僕まで照れちゃうよ」
大樹の下、真っ白な肌に金色の髪を持った2人の男女は見つめ合いはにかむ。
いつもの光景に小柄な金髪の青年は呆れながらも微笑ましく思っていた。
そんな平和な日常はある日地獄へと変わった。
自然豊かで小鳥たちの歌が響く空気の綺麗だった森は血の匂いでむせ返り焼き尽くされ同族たちの悲鳴が響き渡った。
「イト…この石、ペツォッタイトが心臓に変わり年月をかけ私たちは復活する。他のみんなも同じようにするが、きっとイトが1番早く目覚めるだろう。私たちが揃うまで決して無理するな。」
「…お…さ、、か、ならず…ふ…くしゅ…を…」
真っ白なキトンと綺麗な金髪は赤黒く染まり森は業火に包まれた。
「ああ…純粋なペツォッタイトが苦しまない世界を取り戻そう。」
森の大樹の根元でペツォッタイトは頬を濡らして目を覚ます。
戦いで受けたダメージがまだ癒えておらず少しずつ魔力を放出させている。
「…ドット…ペリドット……ごめん…ごめんなさい…僕のせいで…ごめん…長…ごめんなさい…」
6つの灰色の石ころを握りしめ、長年待ち続けた仲間の反応は現れて一日も経たず消えてしまった。
ペツォッタイトはその瞳に憎悪だけを宿し芝を握り唇を噛む。
「ドット…復讐が終わったら必ず…、必ず生き返らせるからね」
青年は真っ黒な髪を揺らし瞳に溜まった涙を拭い回復に力を費やした。
そして、いつ目覚めるか分からない仲間をまた待ち続けた。
一章はこれにて完結となります。
二章は現在準備中ですが、少しずつ公開予定です。
ブックマーク登録などよろしくお願い致します。




