25話 リリック13歳 初任務⑤。
聞き馴染みのある声と共にドットとイトの影から黒い槍が飛び出した。
「「ぐッ…‼︎」」
只者ではない2人は直前でその攻撃に反応したが避け切れず互いに足を貫いた。
「…シグルスさんッ!」
「ただならぬ気配を感じて急いできたが、…ルイーザ良くぞ耐えた。少し安め」
シグルスはルイーザの元へ向かうと自爆の為貯めた魔力をゆっくりと自身の手に吸い寄せ愛娘を抱えた。
「…ッ父上…不甲斐なく申し訳ありません…」
「気にするな。リリック!ルイーザの腕をここに」
「はい!」
唇を噛み悔しげに話したルイーザをシグルスは抱き抱え切断された腕をくっつけ横に寝かせた。
「《自動治癒》《闇領域》」
魔法が発動されるとルイーザは真っ暗な闇に包まる。
「さて、私の可愛い娘の腕を切り落としたのはどっちだ?」
シグルスが娘の安全を確保すると貫かれた状態の2人へ体を向け低い声で問う。
「はっ、そいつの父親か。」
「僕じゃないです!こっち!こっちの戦闘バカがやりました!だからこの槍消してくださぁ〜い!」
余裕そうに笑みを見せるドットと本能的に負けると感じたのか先程のリリックへの態度とは打って変わって懇願するイト。
「断る。《影槍》」
「「うぐッ…‼︎」」
シグルスは再び影から槍を放ち今度は腕を貫く。
「痛いっ!いたいよぉ〜ドット何とかしてよお〜」
焦り涙目で懇願するイトにドットは少し呆れながらも「ふんッ…!」と力を入れて槍を折り腕や足から槍を抜くと、そこから血が出ることもなく空洞のままになっておりモヤの様なものが放出している。
同じようにイトの槍も折り拘束を解いた。
(あれは…魔力か…?そう言えば…あいつの耳切った時も血が出ていなかった…)
「なかなかやるな。リリック奴等はなんだ?」
「恐らく魔族かと…」
シグルスは顎に手を添え一瞬顔を顰めたものの今度は楽しげに歯を見せ剣を握った。
「伝説の魔族と戦えるとは光栄だ。」
「魔族などではない。我が名はドット…いやペリドット。種族名ダークエルフ、かつてエルフだったモノだ。」
それを聞いたドットはシグルスへ向かい名乗りを始める。
「だーくえるふ?なにそれ?」
イトは突然同族が違う種族名を名乗り出した事に驚いた様子だった。
「そこのチビが俺を見てそう言ってな、気に入ったから今日から我が種族名をダークエルフにした。」
「勝手に?!まあいいけどさ、」
呆れたようにペツォッタイトは肩をすくめる。
「ふむ。ならば私も名を名乗ろう。我が名はシグルス・モルガナイト。この地の領主そしてお前を殺す者の名前だ」
「はっ!言ってくれるわ」
互いに名を名乗った2人は同時に走り出す。
リリックに2人の剣筋を目で捉える事は出来ずただ金属音に反応するしかなかった。
「《影炎》」
「うぎゃぁぁああ!!!」
ドットと剣を交わしながらシグルスは油断しているイトの影から黒い炎を発生させた。
真っ黒の炎を全身に受けたイトはバタバタとしドットは水魔法を放ち消火に挑むも剣を交えながらで時間がかかる。
「くそッ」
ようやく鎮火したドットは悔しげな顔をして、水魔法で洞窟内の明かりを消そうとしていた。
「リリック!外へ出すぞ!」
そうはさせまいとシグルスはリリックに指示を出し、冷静さを取り戻したリリックは戸惑う事も無くドットの魔力反応を探知し動きを捉えた。
「行きます!!《岩拳》!」
大量の魔力を地面に流し込みシグルスによって出口方面へ追いやられたペリドットを岩の拳で出口の方へ思い切り押し殴る。
「ペリドットォォオ!!」
拳と共に外へ追いやられたドットを飛行魔法で真っ先に追いかけたのはイトだった。
「こい!リリック!《魔法障壁》」
「行きます!《空撃》」
後を追うようにシグルスの背中に少し強めに魔法を放ちペリドットの方向へ飛ばし直ぐにイトを追い抜いた。
共闘なんてものは初めてだったが、驚くほどに呼吸が合う。
5年間共に訓練しシグルスは誰よりもリリックを理解し信じていた。
そしてリリックもシグルスを信用し考えが言わなくても伝わるようだった。
「僕も、急いで行かなきゃ《身体強化》」
地面を蹴り上げスピードを上げ走り出す。
目の前にペツォッタイトを捉えればつかさず炎の矢を放ち攻撃を仕掛けた。
「お前の相手は僕だ。」
「くっ…」
ドットはこれまで頑なに地へ足をつけて戦っていたが、殴り飛ばされダメージを減らすため宙へ浮いて衝撃を分散させた。
そして真っ先に洞窟を抜けたシグルスを見下ろす。
余裕が無いのか、肩で息をし空中から水を弾丸のようにして魔法を放っていく。
水の弾丸はものすごいスピードで放たれ地面に穴を開ける。
シグルスは攻撃を防ぎながら地面をグッと踏み締め飛び上がった。
「俺が飛べないなんていつ言った?」
「くっ…ッ!」
シグルスも空へ浮き距離を詰めて互いに剣を交わし魔法を打ち合っていた。
激しい撃ち合いは互いの皮膚を掠めシグルスは赤い血を流し、ペリドットは黒い魔力を流した。
「ドット!僕もやるよ!!」
リリックの追撃から逃れたイトは仲間が窮地に立たされているのを見て焦っていた。
先程まで仲間を売るような言動をしていたのは、勝てると思っていたからだ。
だがしかし、目の前の仲間は敵の力に押されてダメージも大きかった。
「来るなッ!お前は逃げろイト!」
「でも、、ッ「いいから早く逃げろ!お前じゃ無理だ!」
「《水の刃》!」
「うぐッ…!」
迷いをみせるペツォッタイトに後から向かってきたリリックが攻撃を仕掛け避けきれずに右腕を失った。
「イト俺が小僧をやるから、お前だけは先に逃げろ!!」
「させん。《影人形》」
ドットがリリックに向かい攻撃を仕掛けようとしたが、シグルスは自身の影からイトの影に細い糸のようなものを伸ばし影を縫い付け、その糸を引きドットとリリックの間にイトを引っ張り込んだ。
仲間思いのドットは目の前に仲間が現れたことで魔法発動を辞める。
「終わりだ《影槍》」
「ぐはッ…!」
「…ッペリドット!」
ドットはイトの影から伸びる槍に飛び込んで体で受け止める。
イトは宙に浮いているものの影で縛りつけられ身動きが取れなくなっていた。
「…はやく、い、け、光魔法…陽光剣…」
手のひらに魔力を集め一振りの光る剣作成したペリドットは腹に刺さる槍を一太刀で叩き壊しペツォッタイトを縫い付けている影の糸を切り離した。
腹に大穴を開け黒い魔力が大量に放出されていく。
「…ドット、早く逃げよう」
狼狽えながらもイトがドットに寄り体を支えようと近づく瞬間もシグルスは隙を逃さない。
2人まとめて魔法で抹殺させようとしていた。
「…後は頼んだぞペツォッタイト…“転移”」「待って、ドッ…」
シグルスの動きを把握していたドットはイトを守るように転移魔法で何処かへ転移させてしまった。
ドットに残る魔力は極わずか、自分では無く1人だけを転移させたと言うことは、魔力が足りないのかそれとも元々1人しか転移できないのか。
シグルスは目の前のドットが逃げ出さないと確信したのか魔法の発動を止めた。
「ペリドットよ、お前はもう死ぬ。だから目的を教えろ」
「…色を返してもらうだけだ。奪われたあの方の色を、長が目覚める前に返してもらうだけだ…」
「奪われた色だと?」
「ああ、だから俺はまだ死なない。ミサのためにも…ッ」
シグルスは顔を顰め聞き返すも真っ当な返答はなかった。
「もう良い。この剣で終わらせよう…」
剣を握りすでに虫の息のペリドットに斬りかかろうとした時だった。
「土の精霊よ我が悲しみの涙を糧に大樹で奴を捉えろ …ッ 」
ドットは聞いたことのない呪文を唱えると大地が揺れ割れ目から木の幹が飛び出しシグルスを巻き込んだ。
「なッなんつー魔法だこれ!!」
「シグルスさん!」
シグルスが躱わす事も出来ず木の幹に体を縛られる。
(なぜ、ダークエルフが精霊魔法を?闇堕ちしたら、だいたい使えなくなるはずじゃ…)
「水の精霊よ、止めどなく溢れる憎しみを対価に水の槍で…「させないッ!」
リリックは次の詠唱を始めたペリドットに対して氷の弾を放つ
「グッ、、、邪魔をするな!!」
「《ウィンドカッター!》」
氷の弾は殆どは躱わされたものの数発は体を掠める事に成功した。
相手が怯んで居る隙にシグルスの周りの幹を風の刃で削ぎ落とす。
「火の精霊よッ!我が怒りを糧に奴を燃やし尽くせ」
体勢を戻したドットは詠唱を唱え今度はリリックに向かって火球より遥かに大きな炎の球を放った。
「《氷壁》」
リリックは瞬時に魔法を発動するも抑えきれないと察して躱わす。
「《闇矢》」
リリックによって救出されたシグルスはすぐに魔法を発動し黒い矢をドットに向かって放った。
「ぐわッ…!」
魔力を大量に消費して限界を迎えていたドットは攻撃を避けることができず体を矢が貫いた。
「もう終わりだ。」
ペリドットは浮遊する魔力も無く地面に落下する。
シグルスは剣を握り地に落ちても起きあがろうと膝を着き腕を空に掲げる。
「…まだ。死なない、死ねない…ミサッ…のためにも、ミサと共に生きる明日のためにッ…」
そう声を漏らすペリドットの首に剣を向けシグルスは容赦なく切り落とした。
頭がゴロリと転がりペリドットと名乗った魔族の頭と体は全て黒い煙のように空へ消えていった。




