20 葉室ミドリは囚われの身である
(なんだかなぁー……)
ミドリは噛まされた猿轡にたっぷりと溜息を沁み込ませた。
あまりといえばあんまりな有様である。
囚われの身となったこの状況が……ではない。
一緒に拘束された同年代の男連中だ。
(彼とか、おとうさんが国防省の長官だーとか言ってなかったっけ……?)
ミドリはちらりと向かい側を見遣る。
如何にも当世風の、細眉で白粉を塗った華奢な青年だ。慰霊会の冒頭で少し話した際は『なあに! いざとなればいつでも我が身をお国に捧げるつもりだよ! 緋ノ巫女たちに負けてなるものか!』と調子のよいことを言っていたが、いざ蓋を開けてみればこれである。目には闘志の欠片もなく、それどころか少しでも敵の注意を引かぬよう老人や婦人の背に隠れ身を縮こまらせていた。
(うん、さいてー)
若い世代はどれも似たり寄ったりである。見ようによっては震えて怯える小動物のように可愛らしいかもしれぬが、今この窮状、そんなものに米粒ほどの価値もない。
一方、親世代から上はさすがに異なる。第一次・第二次異海大戦を経験している彼らは気骨があり、射貫くように敵を睨む者も少なくない。もっとも、その多くはこの会の参加者にありがちな〝自分は特別だ。だから生き残らねばならない〟とした救い難い選民思想に根差していたが。
(ヒミちゃん……大丈夫かな……無茶、してるんだろうなぁ……)
そんな中、ミドリが気にしていたのはヒミコのことだった。
彼女もまた、ノリトと同様の理由でヒミコが戦いを始めたと確信している。
おそらくは自分の救出を第一優先にして。
(どうして……こうなっちゃうんだろう……)
ミドリは痛いほど知っていた。ヒミコは一度決めたら絶対に曲げない。例え心と身体がどれだけ傷つこうとも、命ある限り前に突き進む。まるでそうせねば己を許せぬかのように。
(ヒミちゃん……)
不幸なことにミドリは前にもこういう目に遭っている。
悪い偶然が重なって人攫いに遭い、それを知ったヒミコが助けにきてくれたのだ。
利き腕を失うような大怪我を負って。
あの子はそういう子なのだ。
あの子がそういう子だから、自分は医学の道を志した。家業の薬師ではなく、異ノ国々の先進的な医療を選んだのだ。
少しでもあの子の傷を癒してあげたくて。
(もう二度と……足手まといには、ならない)
ミドリは一滴の涙を流す。それは、彼女の決意の現れだった。




