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外道巫女、神越ヒミコはなかなか死なない  作者: K. Soma


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21/41

21 不安

 黒麻(くろあさ)ヨウコは喪失感に(さいな)まれていた。

 

 あれから何度も六人に懐中鈴を掛け直したが、一向に繋がらない。

 

 全員がやられた……全滅した。そう考えるより他ない。

 

 コハクに続き、六人が。

 

 殺された。

 

「~~っ!」

 

 ヨウコは手近な卓を殴りつける。完全に己の意識から外れた行為だった。()き場のない感情が爆発したのである。

 

 しかし、粉々に砕け散った卓とは対照に、鬱屈したわだかまりは消えやしない。

 

 どころか一層、膨張した。

 

 怒り、哀しみ……そして不安。順々に姿を変えていく。

 

 そう、不安。まさしく今、彼女の胸を占める大部分がそれだった。

 

 娘のように可愛がっていたコハク……否、彼女だけではない。六人全員を家族のように大切に思っていた。

 

 肆番隊(しばんたい)()()()()()()から、元・孤児ばかりである。親の顔すら知らぬ者も多い。ヨウコ自身が正にそうだ。

 

 だからこそ彼女らは、寒空の下で身を寄せ合うように、結束してきた。

 

 知らぬ家族を、亡くした家族を、捨てた家族を、互いが互いに重ねていたのである。

 

 今回の騒動でさえ、彼女らの真の動機(モティヴェイション)はそこに根差す。

 

 あれほど尽くしてきた国に裏切られ、辱められた仲間たちの復讐、弔い合戦。

 

 根本はそれである。

 

 夜代(やしろ)ミヅキ。彼女が真実を教えてくれたのだ。

 

(ミヅキ……)

 

 ミヅキとヨウコは国家巫女の養成機関、巫術学校時代からの付き合いだ。といっても当時は顔見知り程度で、その後の第二次異海大戦、そこで共に前線へ回され命を救われたのを機に深い関係へ転化する。

 

 隊外で唯一、ヨウコが心を許しているのがミヅキだった。

 

 巫女の顔とも評される彼女と、国家の暗部に他ならぬ自分では、天と地にも及ぶ差がある。それでも不思議と気が合い、長いこと無二の友として過ごしてきた。

 

 だからこそこの計画を――〝(とき)(くさび)〟の話を聞いた時、ヨウコは迷わず決断している。

 

 彼女と運命を共にしよう、と。

 

(ミヅキ……いったいどうしたら)

 

 ヨウコは困惑していた。できることなら同志である友に相談したかった。

 

 しかしそれは許されない。ミヅキは〝参ノ封〟に付随していた最後の巫術暗号に掛かりっきりなのだから。

 

 それにヨウコ自身もまた、ここを動けない。外部を攪乱(かくらん)する作業がまだ沢山残っていた。作戦の構造上、こちらも絶対に手を抜けないのだ。

 

(けれどそうなると――!)

 

 必然、ヨウコの冷静な部分は〝答え〟を一つに絞る。それこそが今、彼女が最も危惧している不安の正体だった。

 

 そして、

 

御頭(おかしら)……」

 

 ヨウコが葛藤する内に、とうとう来てしまった。

 

 ()()の方から。

 

「メ、メノウ……!」

 

 浮嶋(うきしま)メノウ。コハクの双子の妹。

 

 ヨウコにとっては、残された唯一の部下であり、仲間であり――娘同然ですらある。

 

 彼女は、どこか遠くを見るような目をして訊いてきた。

 

「みんな、やられちゃったの……?」

 

「……っ、ああ……そう、だ……!」

 

 日頃(かしま)しいメノウの姿はそこにない。まるで病人のように意気消沈している。

 

 ヨウコはわかっていた。彼女の状態が意味することを。

 

 何より――メノウの決意を。

 

「……じゃあ、次はメノウが行くね」

 

 行くな、とは言えなかった。ヨウコも肆番隊の巫女頭である。現状と各自の役割をよく理解していた。

 

 緋ノ目を奪還せねばならない。ミヅキと自分はこの場を離れられない。

 

 ならば残された道は……それしかなかった。

 

「メノウ……! 死ぬんじゃないぞ……! 絶対に、戻ってこい……! お前まで死んじまったら、アタイは……!」

 

御頭(おかしら)……うん……みんなの仇を、取って来るから……」

 

 二人は固く抱き合う。

 

 ややともすればこれが今生(こんじょう)の別れになるかもしれぬ。

 

 互いに痛い程それを理解していた。

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